公開処刑3
ヨルミ女王は容赦なく、ユマ姫に鞭を打ちました。
すかさず二振り目。
絹を引き裂く悲鳴と共に、大きく背中を反らしてユマ姫が悶え苦しみます。背中から抜けた羽が飛び散ると同時、キラキラと汗も宙を舞いました。
「…………」
もうラミィさんはかぶり付き。目も、口も、顔のパーツ全部をまん丸にして、ポカンと見上げているばかり。
もう彼女はダメだと思います。
三振り目。
真っ赤な鮮血が舞い、純白の衣装を汚して行きます。純白に鮮烈な赤のコントラスト。白い羽が舞い、赤い血が飛び散ります。
いよいよショック症状で引きつけを起こしたユマ姫が、口をパクパクと悲鳴も出せずに痙攣します。大きく開かれた目が明滅し、最後にはガクリと首を垂れ、ピクリとも動かなくなりました。
意識を失ったのです。
そんなユマ姫にヨルミ女王が近づくと、口に何か噛ませました。革製の猿ぐつわです。
気絶した事で流石の女王も姫を許したのかと期待した民衆は、ココに来てへたり込む者も少なからず居ました。
もう、ユマ姫が苦しむ所は見たくないと。そのハズなのに、誰もユマ姫から目を逸らす事が出来ないのです、それはまるで呪いのようでした。
しかし容赦なく四振り目。
打たれると同時、ユマ姫が飛び起きました。使命も理想も忘れた様子でバタバタと藻掻き、噛み締めた革の隙間からくぐもった悲鳴が漏れました。
五振り目。
遂にユマ姫ははらはらと泣き始め、目からは大粒の涙が止めどなく溢れます。汗で額に張り付いた前髪と噛み締めた口枷が、異様な色気を放っていました。
その悲しげな瞳が助けを求めているように見えて、皆が冷静でいられなくなりました。
「死んじゃう! 死んじゃうよ!」
ラミィさんもパニックに陥ります。でも、ユマ姫のコレは演技だと思いますよ。
なんて言っても、ユマ姫は全てがおかしいのです。
私が包丁を落として、ユマ姫の足に落とした時なんて……
いえ、違うんですよ?
本当は私だってそんなにドジじゃないんです。本当です。誓ってワザとじゃないんです、おかしいんですよ、あり得ないのです。
とにかく、ユマ姫の足には傷ひとつ付きませんでした。表皮を一時的に固くする事も出来るんですって、不意打ちじゃなければ刃物も通りません。
完全な化け物です。
だから、今のユマ姫はワザと鞭を受けているのです。
それも色っぽい仕草とか衣装、角度まで研究して!
そしてどう見えたか感想まで求めて 私に舞台の下に立たせるのですから、もう病気ですよ。
私は何一つ心配していません。胸に大穴が開いたってすぐに直せるぐらいですもの。
ですが、ですがですよ。
ユマ姫様のあまりに気合いの入った痛がり様に、なんだか私までドキドキしてしまいます。
六振り目。
今度は足を打たれました。ユマ姫の長い足が大きく弾かれ、体全体が大きく揺れます。もうユマ姫は意識も朦朧といった様子で動きも少なく、白いストッキングは斬り裂かれ、赤く染まって行きました。
七振り目。
鞭の衝撃に耐えられず革製のコルセットがはじけ飛びます。
八振り目。
守るモノがなくなった腰を容赦なく打ち付けます、コレには意識が朦朧としていたユマ姫も飛び起き、両腕に巻き付いた鎖をガチャガチャと揺らして悶えるのですが、それも数秒後、パタリと動かなくなりました。
九振り目。
ひっくり返して今度はコルセットのない下腹部を打ち据えます。
柔らかな下腹部は今までで一番大きな破裂音をあげました、ユマ姫も狂った様に飛び跳ね、噛み締めた革の隙間から獣染みた声が漏れます。
十振り目。
続いて腰に一撃。ミニスカートが切り裂かれ、キレイな太ももが大胆に晒されました。柔らかな太ももを叩かれれば、平手でも痛みに悶えるモノです。
それがか弱い少女に、水牛の鞭とあればどうでしょう?
ユマ姫は金切り声をあげ、下着が見えるのも構わず足をバタつかせ暴れました。
それも、すぐにカクンと首を垂れ動かなくなります。
え、演技ですよね? あまりにも真に迫っていて怖いんですけど?
でも、コレで十発の鞭を耐え抜きました。それだけで人間離れしています。他の誰も為し得なかった所業です。
でも、まだ90発も残ってるんですけど。
もうラミィさんには刺激が強すぎたのか、ガクガクと震え、意識は朦朧としています。民衆もそんな人が大勢居ます。だけど誰も目を離せないのです。
鞭打つヨルミ女王も重労働でしょう。汗を拭って息を整え、そして一気にペースを上げました。
十一、二、三、四!
次々と鞭を打ち据えます。まるで楽器を叩くみたいに、パァンパァンと小気味良く叩くのです。遂にユマ姫は気絶する事すら許されず、右へ左へ鞭に叩かれるままに揺れながら、切羽詰まった悲鳴をあげ続けました。
そして二十振り目、ズタボロになったユマ姫の口から猿ぐつわが外れ、とうとう子供みたいに泣きじゃくりました。
「痛い! もう嫌! 助けて! 痛いの! お願い!」
もはや決意が籠もった瞳も、神の如き神々しさも投げ捨てて、ただただ無様に泣き叫び、助けを求めるのです。
ですが、この時になるともう誰も指一本動かす事も出来ず、異様な雰囲気に飲まれていました。
しかし、それでもお構いなしにヨルミ女王は鞭を振るいます。猿ぐつわが外れた事で、ユマ姫の口からはひっきりなしに、断末魔の悲鳴があがりました。
悲鳴は徐々に掠れていき、いよいよ金属が裂けるような、何か大切なモノが、それこそ魂が壊れる音が聞こえて来ます。
三十振り目。
いよいよ見開かれたユマ姫の瞳からは生気が消え失せ、焦点が定まらず、鞭を打たれる度にぐるんと目が回り、ぐらぐらと瞳が揺れます。口を開け放ち、舌を出し、口角からは血の泡を吹いた哀れで惨めな顔を曝け出します。とうに正気は失っているでしょう。
神々しさや高貴な気配は既に無く、破壊し尽くされた無惨な姿。
それでも、人目を惹きつけて止まず、言い知れぬ程に加虐心を煽り、同時に罪悪感が身を焦がす。
恐るべき呪いが人の心を病みつきにしていきます。
そして四十振り目。
いよいよグチャグチャになった太ももの肉が弾け、飛び散り。舞台下の私の顔にまでドロリとした赤黒い液体が張り付きました。
もうすっかり朦朧としていたユマ姫ですが、さしもの衝撃には耐えきれず、大きな悲鳴と共に飛び起きて、壊れた拡声器みたいに、気を違えたみたいに、断続的な悲鳴を撒き散らします。
その後、瞬間的にユマ姫は正気を取り戻し、一瞬だけポカンと民衆を見つめると、掠れた声で、絞り出すように、縋るように、必死に懇願したのです。
「ころして、おねがい、コロシて……」
ああ、そんな! そうだ、私が!
他の誰もが異様な空気に飲まれて、動く事すら出来ないなら。ずっとユマ姫と居たわたしが!
私はずっと、痛ましいユマ姫と一緒に死にたいと思っていたのだから。
私は太ももに括りつけた護身用の短剣を引き抜き、握り締め、壇上に……
――パァン!
と、壇上に這い上がろうとしていた私の出鼻を挫いたのは、発砲音でした。
音の方を見れば、一人の兵士が銃をユマ姫に向けていて、銃口からは硝煙が舞っています。
おそらくですが、余りにも無惨で悲痛なユマ姫の姿に耐えきれず、楽にしてあげたい一心で銃を撃ったに違いありません。
短剣を握った私の気持ちも似たようなモノでしたから。
でも、ユマ姫は死にませんでした。
それどころか、銃弾は当たってもいません。
最前列で壇上に身を乗り上げた私だからわかります、ユマ姫の目の前に透明な壁があって、ソコで銃弾がピタリと静止していました。
え? 魔法? ユマ姫の?
驚きユマ姫を見つめると、瞬間、つまらなそうに銃弾を見つめる血まみれのユマ姫と目が合いました。
その目はゾッとするほど冷たくて、人間の気配がありません。
そして、銃弾が突然に逆方向に加速、飛んで来た軌道を辿るように戻って行き、発砲した兵士の頭が弾けました。
間違いありません。
魔法の力です。
……怖ッ!
全てが完全に演技! 私も、もう少しであの兵士みたいに殺される所だった。
熱くなっていた頭が、冷や水を浴びせられたみたいに冷えました。
熱狂に包まれ、ユマ姫が嬲られる姿を見せつけられて、それでも動く事すら出来ない自分が情けなくて、辛くて……私は冷静さを失って居たようです。
きっとあのままでは、罪悪感を抱えて、このショーが終わった後はユマ姫に逆らえなくなっていたと思います。
それこそが初めから狙いなのです。そんな狂気でユマ姫は民衆を操ろうとしている。私にもそれがようやく飲み込めました。
でも、今の騒動で私と同じように冷静になれたのか、ざわりと空気が動き出しました。コレは何事と考える余裕が出来たのです。
「黙りなさい! 誰が勝手に喋って良いと言ったの」
しかしヨルミ女王が動きます。話し掛けた相手は民衆、では無く、助けを求めたユマ姫でした。
「余計な事ができないようにしてあげるわ」
そう言うと、千切れて余計に短くなったユマ姫のミニスカートに、容赦なく手を突っ込んだのです。
そうしてユマ姫から剥ぎ取ったのは、紐で結ばれた小さな下着。
ええ!? いけませんよ!
ただでさえ千切れてスリットが入ったミニスカート、これでは何かの拍子に見えてしまいます。
そればかりかヨルミ女王は、剥ぎ取った下着を容赦なくユマ姫の口へと突っ込んだのです。
「んんっ!」
意表を突かれたユマ姫は、甘くくぐもった悲鳴をあげます。
猿ぐつわが外れた口から、再び言葉が封じられました。
いえ、言葉を失ったのは観客もです。皆が顔を赤くして、一時流れた不穏な気配を掻き消したのです。頭を失った兵士が倒れていると言うのに、もう誰も見ていません。
異様な空気が広場を包んでいました。
そしてヨルミ女王はそのまま鞭打ちを続行します。
広場には鞭を打つ破裂音だけが連続しました。パンツを噛み締めるユマ姫は切なげな悲鳴を漏らし、下着を失った下半身をモジモジと摺り合わせます。
あまりにも色気に溢れる可哀想な光景。
さっきまで死に掛けてたのに随分と余裕ありますね……って気もしてしまうのだけど、見ている男性諸君にはそんなのは何の障害にもならないみたいで、顔を真っ赤に馬鹿面で涎を垂らしながら壇上を見上げていました。
ヒラヒラと揺れるスカートから目が離せないみたいです。
あ、横のラミィさんも同じでした。同じ女の子として恥ずかしいです。
そして五十振り目。純白だったドレスもすっかり赤く染まり、深紅のドレスへと変じていました。ユマ姫の顔は羞恥に色付き、擦りあわせるふとももは悩ましい色気を放ちます。
……その太もも、さっき弾けてた気がするんですけど?
ラミィさんや他の民衆と違い、私はそんな事を考える余裕が出来るぐらい。私はこの残酷ショーを落ち着いて見る事が出来て居ました。
私が一番、ユマ姫の異常さを知ってますからね、慌てる事は有りません。
でも、ヨルミ女王の様子がおかしいのです。
ガクガクと震え、呼吸も浅く、私にはユマ姫よりもよっぽど追い詰められているように見えました。
「ら、埒が明かないわね。コレを使うわ」
上ずった声でヨルミ女王が取り出したのは、また別の水牛の鞭? いえ、より長くて立派な水牛の鞭、なんとそれに有刺鉄線を巻き付けています。
ええっ? これは流石に?
普通に死んでしまうのでは?
もうこれは、刑罰用の鞭と言うより単純に人を殺すための凶悪な武器ですよ。
さしものユマ姫もそれを見た瞬間。「え? 嘘でしょ」と言いたげな表情で取り乱したので、コレは本気で予定外の恐れがあります。
っていうか、あんなので打ったら剣で斬りつけるのと変わりません。鞭打ち刑でもなんでもないですよ!
本気で焦ってるユマ姫を見ると やっぱり今までのは演技だったんだなと思う反面、これで打たれたら流石にどうにもならないと言う事です。
凶悪な武器を手に、ヨルミ女王は興奮と恐怖に震えていました。
これは、ユマ姫を殺す気です!
良く考えたらそりゃそうかも知れません。賢いヨルミ女王のこと、これほどまでに危険な姿を見せられて、施政者としてユマ姫を生かしてはおけぬと考えても無理はないのです。
五十一振り目。
有刺鉄線のトゲに、純白のケープが残らず剥ぎ取られ、ユマ姫の滑らかな肩が無造作に晒されます。
ココまでの人数、衆人環視の中で肩を曝け出した女性はストリッパーでも居ないでしょう。あまりにあまりな仕打ちと言えます。
更に何度も鞭が振るわれ、白く滑らかな肩が瞬時に赤く染まります。パンツを噛み締めたユマ姫は狂った様に悶え苦しみ、狂気を孕んだ悲鳴と、鎖が奏でる金属音が、絶え間なく響きます。
六十振り目。
いよいよ鞭を打つ場所が減ってきました。それほどにユマ姫の体は血で赤く染まり、多くの肉が弾け、そぎ落とされた無惨な姿になっていました。
それこそ、生きているのが不思議なぐらい。
そこでヨルミ女王が打ち据えたのは、腕。鎖で縛っていたので守られていた部分です。二回三回と鞭を振るうと、純白の革で仕立てられたロンググローブがあっという間に赤く染まり、細腕を守り切れずに無惨に斬り裂かれます。
そればかりか、針のついた鞭ですもの、音速の鞭を受ければ少女の腕などどうなるか。
「え?」
ユマ姫の可愛らしい指が残らず飛び散り、舞台下に撒き散らされました。
革のグローブに包まれたまま飛んで来た小指なんて、ぽかんと開けたラミィさんの口にホールインワン。
「ゴホッ! え、ぐ」
吐いた方が良いですよ、きっとあんまり体に良くないです。
気が付けばユマ姫の手からは指がなくなっていました。そして腕もボロボロに肉が削ぎ落ち、巻き付いていた鎖が固定されずグラグラと揺れています。
「あっ!」
叫んだのは誰でしょう? 私かも知れません。
七十振り目、とうとうユマ姫の腕が外れ。吊り下げられたユマ姫がドチャリと地面に落下しました。
人間が転がる音じゃありません。
ユマ姫も床も血まみれで、水風船が潰れたような、奇妙で不気味な音がしました。
死んだ、間違いなく。
無抵抗な少女を、これ以上なく残酷になぶり殺した。
皆がそう信じて、もう苦しむユマ姫を見なくて済むのだと、悲しみとか安堵が混じり合ったグチャグチャの感情で、声にならない声で引き攣った呼吸音を響かせています。
でも、それでも、なのに!
ヨルミ女王はユマ姫を立たせ、吊しました。
肉がなくなった腕を縛る事が出来ず、金属の無骨なフックに指のなくなった手の平を突き刺して。
そんな目にあっても、ユマ姫はピクリとも動きません。
もう止めてくれ、その娘はもう死んでいるんだ。死体をこれ以上傷つけないでくれ。
そんな民衆の願いは、容赦ない鞭の一振りでなぎ払われます。
七十一振り目。
「アアァッッ!」
漏れた悲鳴は、ユマ姫がまだ息がある証拠でした。
しかし、既にその声に真っ当な精神は含まれておらず、狂気だけが音を伴って口から漏れ出るようでした。
天使が完全に破壊された瞬間です。
今度のヨルミ女王が狙ったのは、その天使の象徴たる羽でした。
七十二、七十三、七十四! 鞭を振る度に純白の羽が舞い、その羽もあっと言う間に深紅に染まりました。
七十九。
遂に殆ど羽もなくなり、翼は手羽先みたいな無惨な姿になっています。いいえ、酷く肉がこそげ落ちた様は、いっそ食肉として下ろされた手羽先よりも無惨だったかも知れません。
八十振り目。
今までで一番力が乗った一撃。とうとう羽毛がなくなり、最後の力を振り絞ったユマ姫が痛みに暴れると、吊られたフックから再びズチャリと落ちました。痛ましくも手の穴が裂け体を支えられなくなったのです。
……そして、そして、ヨルミ女王は今度はズタボロになった翼に容赦なく大穴を開け、フックでユマ姫を吊し上げたのです。
「ああ、なんと罰当たりな」
どこかでお婆ちゃんが呟いた声が聞こえました。
翼をフックで吊るし、むりやりに開かせた光景は本当に食肉のようで、血まみれで骨ばかりになった翼が痛々しくて、天使をと畜してしまったみたいな、魂の奥底から恐ろしい地獄の光景に、震える事しか出来ないのです。
更に鞭打ち。
翼で吊されたユマ姫の体は不安定にグラグラと震え、噛み締めた下着の奥から絞り出す金切り声は、狂気がそのまま形になった様でした。
九十振り目。
ひきつけを起こしたユマ姫がガクガクと震え、濁った悲鳴をあげます。顔がみるみる青く変じ、開かれた目が明滅します。
どうやらショックで下着を飲み込み、舌に絡まり、喉に詰まった様でした。そんな無様すら、異様な美しさがあるのです。
暴れた事で翼に突き刺したフックも外れ、再びユマ姫は地面に落ちて、潰れた音を出しました。
そんなユマ姫に近づくと、ヨルミ女王は優しい手つきで口の中に手を入れて、唾液と血にまみれた下着を喉の奥から取り出したのです。
ああ赦されたんだな、と安心したのもつかの間。女王はユマ姫の小さくて可愛らしい舌を掴み、思い切りひっぱりました。
取り出したのは、大型のフック。
まさか?
そのまさかでした。女王はユマ姫の小さな舌に、図太いフックに突き刺したのです。
ジャラジャラと鎖を鳴らし、今度は舌だけでユマ姫が吊り上げられます。
「ギェ!”#$%」
声にならない悲鳴、背中は弓なりに仰け反り藻掻く度に全身から血が飛び散ります。もうとっくに死んでいなければいけない体のどこにそんな力がと思わせる程。
そんな、ユマ姫に女王は更に鞭を振るいます。
腕が吹き飛び、腹が裂け、内臓も零れます。
それでも、鞭で打たれる度に激しく痙攣するユマ姫の体が、まだ生きている事を我々に伝えるのでした。
そして百回目。
打ち下ろすような一振り。ユマ姫の舌が裂け、鮮血が舞いました。
床に叩きつけられたユマ姫がグチャリと血の海に沈むと、グチャグチャになった体は死体そのもの、いえ、ここまで無惨な死体もそうは無いと言い切れる程の姿。
「あ、ああ……」
終わった、全部。
そして完全に死んだ。
しかも、そこまでされた死体を女王はゴミを処分するように片付けて舞台袖に引っ込もうとするのです。
私は弾かれた様に舞台に飛び上がり、女王の後を追いました。私が、弔って、そして、一緒に死んであげないと。
――グチャグチャ
そんな私が見たモノは、赤黒い粘液が巨大なハムをむさぼる姿。
……私には解ります。
それは、ユマ姫でした。
人間を喰らい、小さくなった体を修復している!
「殺せなかった、殺せなかったぁぁ!」
一方のヨルミ女王は、舞台で見せた氷の仮面を脱ぎ捨てて、顔を蒼くしてガクガクと震えていました。
……やっぱり、殺そうとしてたんですよね?
いや、もうコレ見ちゃったら、殺した方が良いと私も思いますけどね、怖いですもん。
そんな我々の目の前で、みるみるユマ姫は元の可憐な姿を取り戻していきます。それどころか!
「皆様の祈りが通じ復活しました」
そう言って、舞台に舞い戻るまで数刻も経っていませんでした。
こんなの、こんなの……
……どうやったら殺せると言うのでしょう。
きっと、もう、王国は終わりです。
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