八章 沼地の星獣

王都凱旋

 プラヴァスの一件も片付き、俺達は王都に凱旋した。


 凱旋と言っても誇れる成果がある訳じゃない。

 中立都市プラヴァスの恭順を勝ち取った。と言うのは大きい成果に聞こえるが、隔てるゾッデム砂漠が広大でそもそもプラヴァスの知名度が低いのだ。


「で、用意したのがコレさ」

『なにこれ?』


 ここは王都郊外の空き地、木村が並べて見せたのは、巨大な白骨死体であった。


『プラヴァスから小分けにしてラクダで運んで貰うのは骨が折れたぜ、骨だけに』

「面白くはありませんよ?」

「あ、ハイ」


 お姫様口調に切り替えてでも、つまらないギャグは切って捨てる。


「で、コレはなんです?」

「竜です!」


 ん? 竜? プラヴァスにこんなデカい魔獣が居るハズ……あー。


「コレが、リヨンさんと一緒に倒したと何度も自慢していた、地下水道のワニですか?」

「そそ、その骨を貰ってきた」

「これこそ、リヨンさんの手柄としてプラヴァスに残すべきだったのではないですか?」


 だってさ、リヨンさんは腹心のパノッサさんも失って、プラヴァスを纏めるのに一杯一杯。


 最後には俺がリヨンさんを持ち上げる歌まで歌って、なんとか求心力を維持していた感。


「いや、ソレはユマ姫がブタ扱いしたことが原因だと思いますが?」

「何か言いました?」

「いえ、あの実はコレ、プラヴァスを守る聖竜疑惑がありまして……」

「あーー」


 聖句にあったね、水域を守る竜に導かれて、プラヴァスを建国したって。


「隠蔽するために持ち帰ってくれって、むしろリヨンさんから頼まれたんですよ」

「……なるほど、それでどうするのです?」

「そりゃあ……」


 木村が適当なストーリーをでっち上げる。


 曰く、帝国は王都を焼き尽くす古代兵器をプラヴァスで発見。その起動にはユマ姫の力が必要であり、帝国が使役する悪竜にユマ姫は攫われてしまう。

 それを追いかけた英雄タナカがプラヴァスで竜を撃退。しかし既に古代兵器は起動していた。スフィールに向けて古代兵器が発射されてしまう。

 最後はユマ姫の祈りが天に届いて、古代兵器はスフィール上空で爆発してハッピーエンド。


「帰り道でもスフィール上空での大爆発は噂になってましたから、真実味はあるでしょう」


 なるほど、全部が嘘じゃないし、見たこともない竜の骨があればインパクトもある。

 だけど、たった一つ問題が。


『アイツ嫌がりそうじゃない?』

『まーしゃーないっしょ』


 なんでもない風にパタパタ手を振る木村だが、ああ見えてアイツはヘソを曲げると面倒だぞ。


 田中だ。


 アイツはプラヴァスでイマイチ活躍出来なかった事にフラストレーションを溜めていた。

 そこに持ってきて竜退治の功績を押し付けられるとあっては、面白いハズも無い。

 押し付ける側の木村は頭を掻いた。


『そう言や、アイツ、どうしてんの?』

『また、魔獣狩りの依頼があってさ』

『ほーん、イライラしてたから丁度良いじゃん』

『まーね』


 数日前、マーロゥ君が田中を呼びに来たのだ。曰く、結構な数の魔獣が溜まってるから助けてくれと。


 数日前、つまり、俺はかなり前にプラヴァスに着いている。


 何故かというと、プラヴァスからコッチに帰るのは三人ともバラバラだったからだ。

 俺は魔法で飛んだし、田中はバイク。木村だけが商隊を率いて帰ったから、一番最後の帰還となった。


 馬車は余りにも遅い。一ヶ月ぐらい余計に掛かっている。

 なんでわざわざと思ったら、こんなゴミを運ぶために帰還が遅れたとは笑えないな。

 俺の冷たい目線が伝わったのか、木村は大きな麻袋を指差した。


『ンだよその目は! カレー用の香辛料もタップリ持ってきたんだけど? 要らんの?』

『食べたいニャン♪』

『…………』

『…………』

『……恥ずかしいなら止めろよ』

「はい」


 そんなこんなで木村はこのまま郊外の空き地で骨をプラモみたいに組み立てるらしい。

 その間に、さっき考えたストーリーを商会を通して広めるからそのつもりでと念を押された。


 果たして、物語はあっという間に広まった。


 なぜなら、木村の商会は、豚や鳥の骨を王都中の料理店から二束三文で回収。圧力鍋で煮込んで出汁を販売している。

 他にはパンの酵母菌や乾物、香辛料などを扱っているので、今やほぼ全ての飲食店が木村の商会と関係があるわけだ。

 そんな商会が痛快な物語と共に、凱旋パレードの日取りを流したらあっという間に広まるのは当然だった。


 いよいよ当日、組み立てが終わったワニの骨が、巨大な山車だしに乗せられ、ゆっくりと大通りを進んでいく。待ってましたとばかり、王都は活気づき見物人で溢れかえっていた。


「想定通り、盛り上がっていますね」


 その熱狂を、俺は三階建ての宿屋の屋根から見下ろしていた。楽しげな雰囲気を静かに楽しめる特等席である。


 朝も早くから王都に入った山車だが、余りの人出のためにその速度は遅かった。山車がいよいよ中央広場に入ったとき、既に日は大きく傾いていたのだ。そして、ここからが俺の仕事となる。


 オルティナ姫の記憶を授かったり、公開処刑の憂き目にあったりと、なにかと中央広場では散々な目に遭ってきたが、ココが一番人が集まるのだから仕方がない。


 俺は魔法を制御して、山車の上に飛び乗った。


 ――ワァァァァァ!


 歓声が大きなうねりとなって、広場を埋め尽くす。


「嘘だろ! 飛んで来たぞ!?」

「ユマ姫! なんて神々しい!」


 祈りを捧げる人まで現れる始末。何だかんだで気分が良い。


「お姿が輝いて見える! これが聖女! 神の使者なのか!」


 ……言うまでも無いが、魔法で光らせています。


 本日の俺はアラビアンドレス。異国帰りと言うテイだが、実は一ヶ月前に王都に到着してひっそり隠れていたのはご愛敬。


 ピカピカと光る自分の体に眩しさを感じながら、俺は大きく開いたワニの下顎の骨へと腰掛ける。

 本当は横に開くらしいのだが、見栄えが悪いと縦に開いた状態で骨をくっつけたらしい。だからなのか、いよいよデッカイワニの骨にしか見えなくなった。

 ゴツゴツした骨に腰掛け、取り出したのは弦楽器リアンリュース。エルフの国で散々に学んだ楽器である。


 俺は慣れた手つきで弓を引き、演奏を始めた。


 ――一緒に空は飛べないけれど、一緒に星を眺めたい。でも、それも無理なのね。


 歌うのは、亡き母の詩。そして、私が殺した父への歌だ。


 俺は、一ヶ月前に王都に帰り、秘かにこの曲を練習していたのだ。

 父の前では仕方無くアカペラで歌ったこの曲を、どうしても自分の手で演奏したかったのだ。


 歌いながらの演奏は思っていた以上に難易度が高い。ここだけの話、木村の帰還が後れて助かったぐらい。


 ――アナタは星に還るの。私は空へと祈るわ。


 しっとりした悲恋の歌。魔法で拡声し、広場全体に音を届ければ、辺りはシンと静まり返った。


 エルフの詩は迂遠で解りにくいのだが、悲しい雰囲気は何となくでも伝わるモノだ。


 なにより、演奏している俺自身が父へのレクイエムとして悲しみを込めて歌っている。


 次から次へ、幼少期の思い出が脳裏を過ぎり、父への思い出が夕焼けの街へ溶けていく。


 知らず知らず、俺の目には涙が溢れていた。


 頬からこぼれる涙と共に、やっと歌い終わったその時だった。


 ――ワァァァァァ!


 熱狂する観客が一斉に山車へと詰めかけたのだ。

 グラグラと山車が揺れ、不安定な顎骨に腰掛けていた俺はバランスを失い転がった。


「危ない!」


 誰かの叫び声。

 そして、俺に大きな影が差す。その正体は?



 ワニの骨!



 開かれたままに固定した顎の関節が壊れ、大質量の上顎が俺を押し潰さんと迫っていた。

 化石に食べられる! 俺は自分の運の悪さをスッカリ忘れていた!


 血の気が引き、冷や汗が噴き出す。


 その時だ。


 ――バツン!


 落ちてきた上顎は両断され、山車の上から転がり落ちていく。

 そこに立っていたのは?


「ハァ……いつも死にかけてんのな」


 面倒臭そうに頭を掻く本人に代わり、誰かが叫んだ。


「タナカだ! 英雄の帰還だ!」


 見慣れた黒衣の剣士がソコに居た。

 英雄の登場に、広場の熱狂は更に大きく膨れ上がって行くのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「マジで死ぬかと思った」


 もう、クタクタ。俺はぐでっとソファーで溶けていた。

 場所は王宮の応接間。熱狂渦巻く広場をなんとか脱出した俺達は、なんとか王宮で落ち合うことに成功した。


 あの後、それはもう酷い事になったのだ。

 薄暗い王都で、田中と俺のツーショットをなんとしてでも見たいと人が殺到。

 太い丸太で汲み上げた山車が、ギリギリと悲鳴を上げ始める始末。

 俺の『偶然』も手伝い、破滅の足音がヒシヒシと。


 そこで俺がやったのが、いつかゼスリード平原でやった大ジャンプ。田中の膂力と魔法の併用で、天高く舞い上がった俺の姿。王都の人々の目に焼き付いたに違いない。

 その後のドサクサで田中も離脱、なんとか王宮に転がり込んだ次第である。


「んじゃ、チキチキ近況報告会と行きますか!」


 と、木村が音頭を取って三人での近況報告会が始まった……のだが。


「ングング、いいぜー」


 全く緊張感が無いヤツが一名。


 田中ァ! スプーンを構えて点呼の代わりとは、食いしん坊か?


 いい加減にしろよ! 帝国は核まで持ち出してきてるんだぞ? なにより俺ももう十四歳、打倒帝国に待った無しなんだが? この状況でおまえ、ナニ食ってんの?


「ナニって? カレーだよ。見てワカンネーか?」

「解るわ! 解りまくるわ! 俺だって食いてぇよ! 今日、昼飯食ってないんだよ!」


 俺が叫べば、田中は苛立ちを隠さず舌打ちをひとつ。


「チッ! コッチなんて朝からなんも食べてねーよ。大急ぎで帰ってきたからな、モグモグ。んで、帰ってきたら王宮には誰も居ねーし、王都はお祭り騒ぎ。挙げ句の果てに、誰かサンは馬鹿な真似して勝手に死にそうになってるじゃネーか! 文句を言う前に、お礼のひとつもあってしかるべきじゃネーか?」


 一理、ある。


 ぐぬぬ、会議でカレー食ってるヤツに常識を問われるとはね。

 しかし、コイツが良いところで助けてくれなかったら、今度は足を失うところだった。流石の俺も、お礼を言うぐらいはやぶさかでは無い。


『ありがとニャン♪』

「…………」

「…………」

『……きちぃわ』

『フザケンナ!」


 コッチのが十倍きちぃわ!! しょーがないだろ! ギャグにするしかネーだろ! カレー食ってるヤツに神妙に謝る方法、あるって言うなら教えて欲しい。


「助けられた癖に、生意気だなオイ」

「正直、油断していた」


 いや、真面目に。

 いやはや、ちょっと俺の『偶然』の怖さ、最近忘れて来てたかな? 木村が組み立てたなら大丈夫って思ってしまった。


 ん? 良く考えたら、それもこれも、組み立てた木村が悪いんじゃん? どうなの?


「スマンスマン、メッチャクチャに気をつけて顎を固定したんだけど、金属ネジが一斉に抜けてた。奇跡に近いよ? コレ」


 テヘペロ……ってそれで謝ってるつもりか? 木村ァ! 誠意を見せろ!

 椅子を蹴飛ばし恫喝すれば、いよいよ木村から謝罪の言葉が……。


『許してニャン♪』

「うわっ……」


 カレーを食ってた田中の手が止まる。コイツの食欲を減ずるって相当だぞ?

 奇妙なポーズで固まった木村へ、俺は渾身の火の玉ストレートを投げ込んだ。


「歳を考えろよオッサン」

「ふっざけ! そんなぐでっとしたポーズのヤツに謝れるか!」


 一理、ある。

 いよいよ空腹が限界で、俺はソファーに沈んでいる。ソファーと一体化するのも時間の問題だ。


「それにしても、マジで呪われてるわな」


 田中はなんだよ! 俺が悪いみたいに言うな! いや、悪いのか? 悪くない!!


 と、色々感情をぶちまけた所為かは知らないが、いよいよ俺のぷにぷにのお腹が『きゅ~』と可愛い音で鳴くではないか。

 それもこれも、狭い応接間にカレーの匂いが充満するのが悪い。俺も早く食べたい。


「なぁ、俺もカレー……」

「いや、待ってよ。どう考えてもこれ以上グダグダになるのはマズイ」


 木村が止めるが、もう既にこれ以上ないぐらいグダグダでは?


「田中は、マジで食うモノも食わず帰ってくれたんだからそれを無駄にしたくねーし、食わなきゃマトモに報告出来ないだろうから、マズは食って貰ってるんだって」


 むぅ……確かに、朝から飲まず食わずで駆けつけたと言われれば、仕方が無いか。

 じゃあ早く、話す事話してよ! と、田中に水を向ければ、俺を無視して田中は木村に向き直る。


「いやな、マーロゥとの魔獣討伐は即行で終わらせたんだがな、ソコで思いがけず頼まれてたモノが見つかったんだわ。ンで、食うモノも食わず駆けつけてみりゃ、勝手に竜殺しの英雄になってて参ったぜ」

「それは謝る。んで、頼みのモノってまさか?」


 全然悪いと思っていない木村の軽い態度に舌打ちを返しながらも、田中が懐から取り出したのは真っ白い石だった。

 どこにでもありそうな小汚い石である。俺は胡乱げな目で見つめる。


「コレは? なによ?」


 手に取って見ても、汚い石。全然価値は無さそうに見える。

 少なくとも俺は欲しくない。


「貸せよ!」


 つまんなそうに手の上で転がしていたせいか、木村に毟り取る様に奪われてしまった。そのまま血走った目で石を観察した末に、木村は口の端を大きく歪める。


「間違い無い、イケるってコレ! 量は? どれぐらいある?」

「見渡す限りさ、十年は採れるぜ」

「マジか!」


 なんか盛り上がっている。どうも木村が田中に頼んでいたシロモノみたいである。

 うーん、この石がなんだってんだ? ひょっとして石灰? 俺は手にとって見つめるが何度見てもゴミ。


 ちゃんとした石なら石材として使えるが、コレは土と石の中間ぐらいに脆い。

 匂いも……殆ど無いな、若干かび臭い。


「コレなんなの? そろそろ教えてよ、俺にはウンコ以下のゴミに見えるんだけど?」


 俺がすんすんと白っぽい石の匂いを嗅いで訊ねれば、穏やかな顔で木村が微笑む。


「うんこ以下だなんてとんでもない!」

「じゃあ何だよ?」

「うんこだよ!」

「死ねッ!」


 俺はうんこを投げつけた。木村へ1のダメージ。


「オイ、やめろ」


 木村は必死にウンコを拾っている。


「なんでウンコ探してたんだよ!」

「ウンコじゃない! 厳密に言えばグアノだ」

「グアノってなんだよ? 日本語?」

「インカ帝国の言葉だな」

「意味は?」

「うんこ!!!」

「やっぱりウンコじゃないか!」


 話がちっとも進まない。まぁいつもの事である。

 しかし、今日だけは、俺と木村の会話に歯を剥き出しに怒る男が居た。


「ふざけんじゃねーよ!」


 田中だ、珍しく本気の怒号である。

 それもそのはず、木村たっての願いで探していたモノの正体がウンコ。それも危険な大森林で探し回った末、命懸けの強行軍で急いで報告に来たと言うのにウンコ。


 そりゃ怒るのも当然である。


「カレー食ってるときにウンコの話するんじゃねーよ!」


 違った、カレーの邪魔が嫌だったらしい。


「ウンコの話してる時ぐらい、カレーを食うな!」


 そして、何故か木村が逆ギレしだした。もうメチャクチャだよ。ウンコで喧嘩とか、おまえら小学生か?


「すまん……」


 しかもなんで田中が謝るんだよ! デカい図体でシュンとするな! カレー食ってる所でウンコの話するほうがオカシイからね?


 メチャクチャになったところで、いよいよ木村の解説が始まった。


「ずっと前から探してたんだよ、それこそお前等から、恐鳥リコイのウンコで白く染まったハーフエルフの村の話を聞いたときからさ」


 木村が勿体ぶって指先でウンコを転がす。

 なるほど、確かにコレは白くて固まった鳥のフンに近い。あの時見た光景にソックリだ。


「もっとズーッと長い年月で固まって、濃縮されてるヤツだけどな。鳥のフンが肥料に良いって知ってるか?」

「聞いたこと……あったな」


 そう言えば、農家のサンドラさんがそんな事を言っていたような? ひょっとしたらハーフエルフのピルテ村は今頃豊作に湧いているかもしれん。


「で、肥料を作る魔法が火薬も作れるって言ったけど、逆もまたしかり、肥料になるフンからも火薬が作れるって訳よ」

「マジで?」

「マジ」


 例によって木村の長いウンチクが始まった。ウンチだけに。


 曰く、硝酸は水に溶けてしまうので乾燥地帯で採れる事が多いらしい。逆に湿潤な日本ではまるで採れない。

 元寇で火薬の脅威に苦しんだ後も、火薬が広まらなかったのは日本に硝石がないから。とかそんな事を生き生き語ってみせる。

 で、乾燥地帯ならとプラヴァスには期待していたらしいが、それらしい資料はまるで発見出来なかったという。


『そんで、次に目を付けたのは南米のコウモリの洞窟』


 湿潤な地域でも、洞窟の中ならばウンコが溜まって雨風にも晒されない。ウンコが堆積して固まる事が多いそうだ。


「空を埋め尽くす程の恐鳥リコイ。まるでコウモリみたいだし、巨大な恐鳥リコイが止まれる木なんてそうそう無い。ひょっとして洞窟を巣にしてた可能性は結構あるなって見つけたら中を調べる様に言ってたのよ」


 それで田中は見つけたのだ。恐鳥リコイの巣であった洞窟を。

 それも大森林と王国の中間、ピルタ山脈に目当ての洞窟が無数にあるらしい。


「お前が頭を吹っ飛ばされた遺跡からなら目と鼻の先だぜ?」

「何度も通ったのに、気がつかなかったなぁ」

「そりゃ、肝心の恐鳥リコイはゼスリード平原で死にまくったからだろ? 今は廃墟よ。その代わりに大森林じゃ今、虫の魔獣が大量発生してるって言うぜ?」

「あー、考えたくない」


 カマキリの魔獣、大岩蟷螂ザルディネフェロの大群だって、恐鳥リコイがいなけりゃエサになっていたのは俺達の方だ。


 今回、マーロゥ君からヘルプが入った魔獣退治も、虫の魔獣の大量発生だったらしい。


 しかし、火薬の供給にメドが付いたのは朗報だ。火薬さえ揃えば、プラヴァスで鹵獲した火縄銃と合わせて、それなりの銃が運用可能になるだろう。


 俺は白いウンコを転がしながら、ニマニマと笑みが止まらない。


『これに木村が作ってるボウガンを組み合わせれば、遠距離攻撃力は十分だな』


 木村も悪い顔で目を細める。


「ああ、ボウガンね、アレ、失敗したから」

「ふざけんな!」

「痛いッ!」


 俺はうんこを投げつけた。木村へ1のダメージ。


「いやさー、全っ然量産出来ない」

「ンはー情けねー」

「だってさーボウガンってのは鉄の弓。弓にするには竹みたいにしなやかな鉄が必要なんだわ。粘り気があって割れない鉄なんて、かなりの上物よ? 全然足りない」

「そんなの、初めっから解りそうなモンじゃん」

「いやさ、レールも引きたいし、根本的に鉄が足りないのよ」

「うへぇ」

「クロスボウには工作精度も必要で、銃作る方がよっぽど楽だね。マジ」

「えーー?」


 木村の言葉を信じるなら、かなり状況は良くないだろう。火薬のメドがたっても、昔から銃に絞って揃えていた帝国には、既に相当な数が出回っている。

 遠距離武器と言うのは数を揃えてナンボの世界だけに、今からじゃ間に合わない。


「ま、そこは色々考えてるからさ」


 木村は悪い笑みを浮かべたまま、何かアイデアがありそうだ。ならば俺にはこれ以上何も聞くことは無い。


 と、一方で田中にはまだ聞きたいことがあるらしく、スプーンを掲げ質問の構え。


「なぁ? カレーおかわりしていい?」


 食いしん坊か! 駄目! 俺の分が無くなる!

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