露出狂か?

「で、露出狂なの?」

「違うわッ!」


 否定するクセに、ユマ姫はまだドチャクソ露出のマイクロビキニ? を着ていた。


「着替えるタイミング、無かっただろうが!」


 そう、あの後、大変だったのだ。ポンザル家の二人も、あの娘は誰? 養子に欲しい! とか言い出し、楽屋まで踏み込もうとする。

 シャリアちゃんに至っては気が付いたら居ないし。聞くところによると、楽屋まで突撃してユマ姫をキープしてたとか。


 で、混乱する劇場の裏口から着の身着のままで脱出。

 その後はシャリアちゃんの手引きで、俺達が借りている物件に転がり込んだと言うわけ。

 三人ともなると、ブラッド家に居候って言うのもマズい。ちょっと関係もこじれてきたしね。


「で、なんで踊り子なんてやってんの?」

「それな」


 聞けば、体が完治して王都に戻ってみれば、田中も俺も居ない。しかも田中がシャリアちゃんを連れ立ってプラヴァスへ向かったのは、つい昨日と聞かされた。


「そりゃ追うでしょ」

「追うかなぁ?」

「追う!」


 ハイハイ、それでサックリ空を飛んでプラヴァスに向かったと。


「雷で死にかけたのに?」

「曇ったら降りれば良いんだよ」


 死にかける度にトラウマ作ってたら、ベッドの上で震えてるしか出来ない。とは良く言ったもんだ。

 むしろ、ベッドの上が一番トラウマが多いらしいよ? なにそれエロい。


「で、二日もあればひとっ飛びと、リュック一つで飛んで来たんだけど……」

「来たんだけど?」

「水が足りなくなって、遭難した」


 うーん、安定のクソ馬鹿。

 いやー思ってたより暑くてさぁ、とか言ってるの。砂漠を舐めてるね。


「で、ケンシロウリスペクトで、み…水…って言いながらさ迷ってたら、劇場に拾われたってワケ」

「何日前?」

「四日前」


 丁度、水不足だった辺りか?

 でも、それだけ時間があったら普通に合流すれば良くない? なんで踊り子なんて始めたわけ?


「いや、歌姫が居るって言うから歌を覚えようかなって」

「成果は?」

「なにも!」


 だよな、そんなんでド音痴が治るならとっくに治ってる。


「でも、顔は良いから踊りを覚えてねって言われて、結構楽しんでた。コッチは筋が良いって」

「そりゃ……」


 社交ダンスが完璧なオルティナ姫の記憶がある、基礎が出来ているのだから当然だ。


「そんで、お前ら交渉の時に注意を逸らしたいって歌姫に注文出しただろ? それを聞いて俺も、文字通り一肌脱いだってワケ、上手く行ったんだろ?」

「うん、まぁ」


 しかし、脱ぎ過ぎ! 目のやり場に困る。聞けば用意してくれた衣装を、土壇場で更に過激に改造して貰ったとか。

 いろいろと小さいから収まってるモノの、大きければ零れてしまうだろう。伝統のショーが、ただのストリップになってしまう一歩手前。


「でさ、着替え、ないか?」


 流石に恥ずかしいのか、頬を紅潮させ、体までピンクに染まっているのが隅々まで確認出来る。

 モジモジと恥ずかしげに身をよじる仕草がとにかくエロい。若干涙目なのも堪らない。


「いや……丁度良いサイズはないな」

「ええ~?」


 いや、だからってワザと意地悪してるんじゃないよ? シャルティア嬢の服じゃサイズが合わないのよ。胸部とか。


「折角だし、もう一回踊ってよ、俺見てないんだよ必死で」

「何でだよ! 馬鹿かよ!」


 馬鹿でーす! 駄目かぁ……しょんぼり。


「俺からも頼むぜ、もう一度見たい」


 と、そこに田中が帰ってきた。田中にはリヨン氏に石版の奪取が成功した事と、ユマ姫が挨拶に伺いたい旨を連絡して貰ったのだった。


「じゃあ、シャリアちゃんが衣装を買って来るまでって事で」

「ヤンヤヤンヤ」

「ヤンヤヤンヤじゃねーだろ! 恥ずかしいっての、露出狂じゃないんだから」

「恥ずかしがる事ないだろー、俺とお前の仲だし」

「どんな仲だよ! じゃあお前が着てみろ」

「嫌だよ、恥ずかしいし」

「ぶっ殺!」


 止めて! その格好でのし掛かって、首を絞めに来るの止めて! クセになるだろ!

 ユマ姫は湯気が出る程に怒っている。赤みを帯びた肌は匂い立つ程の色気を感じさせた。いや、実際に甘い匂いが立ちこめていた。ユマ姫独特の甘い体臭が鼻孔をくすぐる。

 クラクラと頭が冷静さを保てない。


「いや、だって、俺が着たって見苦しいだけだし、似合ってる。可愛いよ」


 俺がそう言うと、ユマ姫は益々体を赤く染めた。


「……あぅ、いやいや、コレマイクロビキニが似合ってるって言われても嬉しくないし!」


 椅子に座った俺の膝の上で恥ずかしがるのは止めて欲しい。理性が限界だろ。


「戻ったわ、……私が居ないときに、楽しそうなコトしてるのね」


 するとシャリアちゃんが帰ってきた。大層不機嫌である。


「良い服が無かったのよ。そもそも貴族が着るような服が、その辺に売っている訳無いわ」

「それもそうだな」

「それに、その格好より可愛いってのは無理よ」


 シャリアちゃんがチラリと見るのは露出の激しいユマ姫のお腹。

 今にも抱きつきそうだ。……あ、抱きついた。


「止めッ! ああ、もう」

「スンスン」


 ピンクの髪を掻き分け、うなじへと顔を埋めて匂いを嗅いでいる。羨ましいような、見ているコチラも嬉しいような。


「でね、どうせなら突拍子も無い格好の方が良いと思ったのよ」

「コレは?」


 シャリアちゃんが用意したのは、ベルトやカフス、チェーンなどだ。どれもゴテゴテした意匠で、中二病的お洒落アイテムみたいである。


「コレらを、このコートと合わせるの」


 コレは舞台で着ていたスパンコールのコートだ、回収していたのか。ソレをベルトとか金属でゴテゴテと彩れば……


「……怪しいな」

「怪しいぐらいで丁度良いのよ、この子には」

「ヒドイ!」


 ユマ姫は抗議するが、彼女が着るならド派手で妙ちきりんな格好でも無いと、却ってちぐはぐな印象を与えてしまう。


「……コレ、どうなの?」


 で、実際に着て貰ったワケだが、なんと言うかラスボス感がある。

 スパンコールのロングコートにゴテゴテとベルトを巻き、右腰に佩いたサーベルも彫金が眩しい程。一方で無骨な左腰のリボルバーがいっそ異様に映る。

 カフスやチェーンもゴテゴテと盛られ、紅白歌合戦に出るのかと言う感じ。


「遠い異国のお姫様なんだから、コレぐらいで丁度良いわ」

「派手だな、オイ、宇宙世紀かよ」


 田中が楽しそうに笑う。確かにちょっとSFっぽさも感じる。だがハッタリを利かせるには十分だ。


「じゃあ、コレでリヨン氏に会いに行こう」

「暑いんだけど? 重いし!」


 肝心のユマ姫が不満たらたらだけど、無視!

 ……そりゃ砂漠にロングコートは暑いよな。なんかゴテゴテと盛ってしまったし。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「で、俺は何すりゃ良いわけ?」


 ソファーで足をブラブラさせながら、手持ち無沙汰のユマ姫が俺を見上げる。


「あーそうだな」


 ブラッド邸へ向かった俺達だったが、素気そっけなく質素しっそな客間に押し込められていた。

 邸内はバタバタと慌ただしく、落ち着かない。

 ひょっとしたらマジで討ち入り準備の真っ最中の可能性がある。


 こりゃあ、まずはリヨン氏をなだめなくては。


「とにかく、リヨン氏のご機嫌をとってください、頼めますか?」

「ンだな、姪のカラミティって娘が麻薬で廃人になっちまってから、アイツどうにもピリピリしてンだ」


 俺と田中が不安そうに言い募ると、ユマ姫はフフンと胸を張った。


「私を誰だと思っているのです? 王国の至宝、硝子の薔薇に例えられる私であれば骨抜きにすることだって造作もありません」


 なんだか自信満々だ。

 それもまぁこの姿を見れば解る。


 あれから一年、ユマ姫は身長も胸も成長したとは言い難いが、逆に言えばロリ体型のままに体は女性らしい丸みを帯びたと言う事。

 少女と女性の境界に咲く奇跡の華の風情であった。


 性癖はおろか性別すらも無視して、強制的に目を奪う様は歌姫シェヘラでは無いが呪いを思わせる。


 だけど、硝子の薔薇って例え、コレを自慢にされても困る。

 美しさと言うより、手を触れれば壊れそうな儚さと、壊れると同時に飛び散る破片が、伸ばした手を切り裂く様子までを例えての言葉である。

 砕けて貰っては困るし、辺り構わず周りを傷つけて貰っちゃ、もっと困る。


 田中と俺は揃って苦い顔をした。


「いや、口説いて欲しいワケじゃねぇんだけど……」

「変に刺激されちゃ堪りませんよ」


 なのにユマ姫はニヤニヤと笑みを絶やさない。


「信じていませんね? 私にはとっておきがありますから」


 その自信の正体は、男を口説く能力に長けた少女プリルラの記憶だろう。


 恋多き乙女だった彼女は、相手のタイプを瞬時に見抜く力があるとか。

 でも、恋多き乙女って惚れっぽいって事では? 任せて大丈夫なの?


「逆に、骨抜きにならないで下さいね」

「そうだぜ、リヨンは男の俺が見ても惚れ惚れするような色男だからな?」


 リヨン氏は俺達より若い二十の半ば。黒豹に例えられる浅黒い肌には染み一つ無く、体はしなやかな筋肉がみっしりと載っていて、その強さは地下水道で見せて貰ったばかり。

 顔の造作も良い。最近はしかめっ面が多いが、甘いマスクは何人もの女性を悩ませたに違いない。


 俺達がリヨン氏の魅力を語れば、ユマ姫は膝をギュッと握った。


「……兄様よりカッコイイ男なんて居ませんから」


 思い詰めた目をしていた。

 彼女にとってイケメン=兄なんだろう。あまり家族の事を思い出させる訳には行かない。家族の話をするときのユマ姫は、常に狂気を孕んでいるのだから。

 田中は話を変えるように、リヨン氏の情報を付け加えた。


「性格だって気取らない気持ちが良い奴なんだぜ? 俺のバイクに張り合ってラクダで砂漠を競争してな、気が付けば帰って来れない程の砂漠のど真ん中。二人で星を見上げてゲラゲラ笑い合ったもんだ」


 そうなのだ、親父さんが早世した故に、若くして太守として振る舞う必要から、無理をしている部分があるが、リヨン氏の本質は気の良い若者である。

 だから、変に攻撃的に対応されても困るのだ。


 なのに、ユマ姫は益々悔しそうに歯を食いしばった。


「気取らない性格だったら、ボルドー王子の方が上ですから!」


 助けて! この、全身地雷原なの!


 コレには田中もお手上げとばかり肩を竦めた、その時だ。


「境界地の権利書を奪ったと言うのは本当ですか?」


 いよいよリヨン氏が登場した。

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