エピローグ 改めてスフィールへ
グリフォンを撃退した後、広場でぐっすり眠っちまった俺は、翌日に村長宅のベッドで目を覚ました。
正直アレだ、今世では気絶するように眠る事も、眠ってる間に運ばれる事も慣れっこで、ちょっとやそっとじゃ一切起きない。
結構危ない事な気がするが、今更どうしようも無いだろう。
起きてからはまずはサンドラのオッサンの治療だ。こればっかりはゆっくりやっていくしかない。
サンドラさんの健康値が高いとは言え、一気に治そうとすれば健康値を削ってしまう。
とは言え後遺症も無く治せそうで安心した。本当に回復魔法は凄い。
残りの魔力は魔石の精製に費やした。この魔石精製の魔法がえらい魔力を食うのだ。
そもそも、魔石ってヤツは魔力を体内で濾過する臓器の澱みたいなモノ。抜群に魔力の通りが悪い。
だから精製炉は結構大掛かりな装置で、起動にもかなりの魔力が必要かつ制御も難しいとかで、精製士と言う専門職があるぐらい。
精製士を目指すには魔力値に200近い値が必要なので、魔力が高いが戦いは苦手と言う輩が目指す職業だったりする。
そんな精製を巨大な魔道具の補助も無しに行うなんて、我ながら無茶苦茶だ。
実のところ、初めて精製炉の魔法を使った時は、ちっちゃい魔石の精製を一つやるだけでへばってしまった。
しかし今の俺の魔力値、健康値はこうだ。
魔力値:362
健康値:38
まぁ、流石に魔力が薄い土地なのと、魔法の制御失敗や疲労から、かなり減っているが、それでも王都に居た当時の1.5倍はある。
たかが1.5倍と侮るなかれ。
魔力ってのは指数関数的に威力が増す。
そもそもにして健康値と相殺して残りが効果として現れるのだから、ちょっと上がっただけで手応えが全然変わってくる。
今回はこの魔力の増加分が丸々時間の短縮に効いてくるはず。
そんな俺の目論見通りに精製自体はスムーズに運んだ。
だが流石に千近い量の魔石の精製は無茶が有った。
皆が村中の糞の始末や、村の家や柵の修復に駆り出される中、俺はひたすらサンドラさんの治療と魔石の精製で一日が過ぎていく。
魔力を吐き出すとその日は暇になってしまうので、初日こそ挨拶周りやら他の怪我人の治療なども行っていた。
しかし、三日目辺りでやる事も無くなった。
魔力が空っぽの俺は村をブラブラ回っていく。しかし、村は復興作業で手一杯、構ってくれる者は居なかった。
サンドラさんがグリフォンから落とされてのたうち回った広場も、今は土木作業の真っ最中だ、村長の息子さんから元気よく号令が飛ぶ。
「よしっ! この村を人間とエルフの交流の拠点にするぞ!」
「「「おぉ!」」」
アカン……
完全に、
呆然とする俺の頭に、誰かがポンと手を置いた。
「姫様の望み通りになったな、この村を起点に、エルフと人間の交流が始まるんだ」
田中だ、キリッとした顔で良い話みたいに言っているが。一つだけ望み通りに行ってないじゃんか!
「えるふ……ですか……」
「ああ、精霊っぽい響きで、森を守る民として誇れる名前だとかで大好評だぜ?」
うーん。
ま……良いけどね?
俺のネーミングセンスが無いなんて解り切ってましたよ?
うん傷付いてない、おれは無傷、ノーダメージ。
「なんで怒ってんだよ? 最高の結果だろ? ほら見ろよ」
田中が指さす先では、ザッカさんと村のエルフたちが協力して材木を運んでいる。
エルフと人間の共同作業だ。
「別に! 怒ってません」
そんな俺に苦笑すると、田中は俺の頭をポンポンと二回叩いてから駆け出して行く。
「おい、手伝うぞ! 何を運ぶ?」
そう言って皆に混ざると、制止を振り切って巨大な丸太を一人で肩に担いでしまう。
「「「おぉーーー」」」
そうして起こる喝采を羨ましくも白い眼で見ながら、俺は田中が叩いた頭をポリポリと搔いて、今回の顛末について考える。
なるたけ早く王都に着くのが目的と考えると掛かった日数は大きなマイナスだ。だがエルフと人間が仲良く出来ると言うモデルケースを作れた意味はそれ以上に大きいだろう。
魔石に関しては値崩れが起きないように少しずつ流通させる予定の様だ。
現状だと村で魔石を精製する術は無いし、精製炉があるエルフの都市がどうなってるかも解らない。
異常に純度が高い精製した魔石が人間社会でどれだけの価値があるか、実は不透明だったりする。
だが、魔石が無くても二つの村の交流は続いて行くだろうな、いや続いて欲しいと願って止まない。
ぼんやりと見つめる先。
丸太を担ぐ田中が意気揚々と道を曲がると、丸太の端が長老の頭を直撃した。
ゲラゲラと広場で爆笑が巻き起こる。
殴られた長老は元気にガミガミ怒っている。田中は平謝りだ。
そんな光景を俺は目を細め眺めるのだった。
結局、ハーフエルフの村ピルテには六日も滞在してしまった。
村人みんなに惜しまれつつ、最後は全員で見送ってくれた。
随分と遅くなったけど、いよいよスフィールへ出発する。王国南方の大都市だ。
村人達がたくさん立候補したけれど結局エルフの護衛は断った。
単純に彼らでは戦力にならないのだ。
精々が俺の『偶然』から身を守る盾に使える程度。でも、それはひょっとしたら俺の命を助けるかも知れない。
だがそうはしたくない。
この村の記憶は綺麗な物として取っておきたかった。
最初に襲撃した六人組は最後まで一緒に行くと譲らなかったが、俺達の戦いぶりを見ていたので、足手纏いと言えば最後は引いてくれた。
そうして、俺達は村を出た。
ソノアール村の住民やラザルードさんも一緒だ。
「帰ったら畑仕事が大変だぁ、テイラーの奴にも心配させちまっただ」
「んなモン、コイツがありゃー一発だっての」
嘆くサンドラさんに、
そうして戻ったソノアール村は平和そのものだった。僅か一日か二日の距離のピルテ村でアレだけの事件が有ったと言うのに、ここでは僅か二匹の迷い込んだ
「今帰ったベー」
「あなた! 心配したのよ!」
抱き合うテイラーさんとサンドラさんを見届けた。
そして役場で魔石を見せびらかすラザルードさんに。
「お嬢ちゃん、その野郎のおもりは任せたぜ!」
「はい、任せて下さい!」
「オイ! 逆だろ逆!」
そんな風にからかわれながら、スフィールへ向けて二度目の旅立ちを迎えるのであった。
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