二章 薄幸の美少女の追憶
巻き込まれた田中
――あなたは死亡しました。
「……は?」
いーみがわからん、まーったくワカンネ。
「いや、死んだって言われてもよ『――ワタシは地球の管理者です』にゃわかんねーよ」
俺の言葉はアイツの言葉に遮られた。
いや、違う?
アイツって誰だ? 俺は誰だ?
いや、俺は田中だ、それすらもしっかりと意識を保たなければ不安になる。
なんなら俺が喋ったのかアイツが喋ったのか、それすらも自信がなくなる、何だこれは? いや、ホントなんだコレ?
――ここは神界、天国とでも思ってください。
これは、間違いなくアイツの言葉だ、俺は喋ってないんだから間違いない。
一体アイツはなんだ? いや、距離が近いからコイツなのか? いや近いのか遠いのかそれすら解らない。
――距離は有りません、ゼロであり無限でも有ります。
なるほど解った、俺は喋る必要が無い。アイツは心を読む。
だったらアイツの正体は……
――神と、思っても支障は有りません。
だろうな。
――あなたは死亡しました。
「どうして?」
心を読まれるなら喋る必要は無い、それでも俺は喋ろう。意識をハッキリ保つために。
――賢明ですね、死亡した理由ですが、『隕石の衝突』となります。
「…………は?」
いーみがわからーん。
――事実です。
「地球が滅亡した?」
――いえ、直径20センチ程度の隕石ですので、それ程の被害は有りません。
「20センチ……それでも死ぬんだな」
――爆発したようですよ、ああ言う隕石が20センチまで目減りしたとはいえあそこまで原形を保ったまま着弾する事が奇跡、いえ『偶然』の賜物です。
「偶然?」
――ええ、『偶然』です。
「なんだよそれ、ツイてねーな」
あーあ、これじゃアイツの事、笑えねーじゃねーか……
――気になりますか?
「あ?」
――高橋敬一、貴方は彼に巻き込まれたのです。
「は?」
――高橋敬一、彼の魂はこの世界の物ではありません。
「あいつ、地球人じゃなかったのか? あんだけ異世界モノに憧れてたってーのに?」
――違います、彼の魂だけが異世界の物なのです、彼はハッキリと地球人です。
「だーかーらー! さっきから何一つ意味がワカんねーよ!」
――難しい話ですか?
――死んで、他人に生まれ変わって、前世の記憶を持つ方がおかしいでしょう?
――異世界の魂を持って生まれても、地球人と何も変わりがありません。
確かにな、少なくとも高橋はブッダじゃない。
アイツは好きだったみてーだが、転生モノってヤツはだから好きになれねー。
大人の知識のままに子供に生まれ変われたら誰だって天才児だ。
別に異世界じゃなくたって、持て
――そもそも、魂に記憶は保持出来ません。
――魂とはただの識別番号にすぎないのですから。
「……そうかよ? 俺は天邪鬼だからな。そこまで言われると、そんな事無いって言いたくなるね」
――なぜです?
「感じるからだよ、剣を握るとな」
精神を研ぎ澄ませれば感じる事がある。
人間の表っツラじゃない、言葉で表せられない魂の叫びをよ。
――有り得ます。
……どっちなんだよ!
――魂は記憶を持ちません。魂が持つのは送信機能。日々の感情や思考をデータとして我々に送信しているのです。そして送信が出来るなら受信だってもちろん可能です。
……つまり?
――同じ人間同士、気持ちが伝わってしまう事も有り得ます。
――一種の不具合ですが、トラックの無線を勝手に受信してしまう貴方のゲーム機と似たような物です。
ゲオゲオくんポケットの悪口は辞めろ! 小遣い貯めて買ったんだからよ。
俺の買った携帯ゲーム機は、作りが甘いのか良く無線の電波を拾ってしまう。
ゲームで遊んでると運ちゃんの怒鳴り声が聞こえてくるから堪らねー。不良品だ。
そこまで知っている神には舌を巻くが、あれはトラックの電波が違法な出力なだけだ。
いや、同じ事か? 相手の強い思いが予期せず伝わってしまう事が有る、そう言う事か。
――魂に意味なんてない、ただの送信機、ワタシもそう思っていましたが。
「違うな」
――ええ、魂は輪廻しますが、使い回すのは識別番号だけなのです。
「つまり?」
――死んだ人間の識別番号を新たな命に、魂として割り振るのです。すると何故か特定の番号を持つ人間だけが『偶然』に
「へー高橋がそれだって? じゃあアイツも死んだのか?」
――ハイ
「はーマジかよ」
――どうしました?
「確かにアイツはツイて無かった、でも俺はあいつだけは殺しても死なないと思っていたんだよな」
――どうしてです?
「どうしてかな?」
――推測は可能です。
「へぇ?」
――人には運命が有ります。
「メルヘンだな」
――いえ、分析と統計の賜物です。
「は?」
――神の観察と、魂が集めた情報の分析、膨大なデータからの統計。そこから導き出した未来予報です。
「そんな事が出来るのか?」
――天気予報を高度にした様な物と思って頂いて構いません。
「ほう」
――受信機の話に戻りますが、他人の運命も感じられてしまう個体が居る可能性は有り得ます。
――特に感受性が強い人間ならば、尚更でしょう。
「へー占い師でも目指してみるかね」
――未来予報では、あの高橋少年は、事故とは無縁の何一つ何も無い、強固に平坦な運命の元に生まれ、何も起きずに生きて行くハズでした。
「トラブルばかりだった気がするが?」
――それがおかしいのです、未来予報は何一つ当たりませんでした。
「役に立たないな」
――全くです、彼は死と最も遠い所に居る存在として神に選ばれたのですから。
「どういう事だ」
――他の世界の神から助けを求められたのです、特定の魂を割り振った人間が次々死んで行くと。
……。
――笑いました、馬鹿にしました、識別番号に意味を見出すオカルト話に。
「おい」
――彼の世界に下らないバグが有るだけだと。
――だから私の世界に、地球に転生して何も無かったらどうすると?
――そういう下らない賭けをしたのです。
「まさかオイ!」
――私は、一番死から遠い彼にその番号を割り振りました。
――たかが番号ですから、何か起こる筈が有りません。私は賭けに勝てると思った。
「ふっざけんな! じゃああいつ本来は運が悪くも、死ぬハズも無かったって?
おっまえらのクッソ下らねー賭けで! 実験動物としてあいつは殺されたのかよ!!」
――実験動物、良い例えですね、人間が其れをしていないとでも?
「クソッ! クッソぉぉぉ、あんまりじゃねーかよ、あいつが、あいつが本当は持ってた筈のささやかな、お前らにとっては『何でもない』幸せを根こそぎ奪うんじゃねーよ」
――ワタシが奪ったつもりは無いのですが。
――取りあえず高橋少年の事は彼に、あちらの世界の神に委ねる事になりました。
「ふざけろテメー」
――ワタシはむしろあなたが哀れです、完全にとばっちりですから。
――あなたもまた死ぬハズではなかった。
「ッんだよオイ、何が言いてぇんだよ。解るように言え!」
――やってみますか? 天才児を。
「どういうつもりだ?」
――ちょっとしたお詫びですよ、我々の賭けがあなたまでをも殺すとは一切考えても居ませんでした。
……。
――それこそ魂に記憶は保存できませんが、受信機能をオンにして生まれた後、貴方の記憶を滑り込ませる事は可能です。
「ゾッとしねぇな」
――そうですか? 先程言っていたでしょう? 天才児としてちやほやされると。
「俺は、生まれて来た自分の子が、他人の子供だったら気持ち悪くて仕方がねぇよ」
――まぁ、そうですかね? 黙っていれば良いのでは?
「どうしたって、会いたくなっちまう、母ちゃんや父ちゃん友達にもだ」
――この世界に、元の体のまま生き返らせてあげたいのは山々なんですが、流石に隕石がほぼ直撃しては。『形』を留めていません。
――それが生き返ったとなれば大変な騒ぎが起きてしまいます。
クソッ! 何もかも苛立たしい!
「で? 異世界に転生させてくれるってか? 天才児として? 良いのかよ? 居るんだろ? 異世界の神が」
――そうですね、仲良しでは無かったのですが今となっては知らない仲では有りません。
――私からお願いすれば問題はないでしょう。
こうなったら高橋の供養だ、アイツの代わりに転生して異世界冒険でもしてやるよ。
――ですが、必ずしも転生する必要は有りませんよ。
「……は?」
――言っていたじゃないですか? 他人の子供など気持ち悪いと。
――かと言って、もし地球で生き返ったら? 大問題になります。他の運命に与える影響も甚大でしょう。許可出来ません。
――でも異世界で生き返ったら? あの世界はそれこそ戸籍だっていい加減な物です。
「……つまり、何がどうなる?」
――あなたが、あなたのままに、アチラに転移させる事が可能です。
幼児からバブバブ言いながらやり直さなくて済む。他人の人生を乗っ取って、知らない奴らを父だ母だと呼ばないで済む。
魅力的な提案に思える。
しかし、コイツは罠だな。
「はぁ? ただの中学生がたった一人、知らない場所でどうしろって言うんだよ」
そうだ、ただの中坊が身よりもなくコネもなく。常識すらも役に立たない世界で生きて行くなんて無理だろう?
――そもそも全くそのままでは生きて行けません。
――大気の構成が数パーセント異なるだけで体は不具合を起こすでしょう。
……確かにな、ちょっとのガスが大気に含まれていただけでも、毎日吸ってりゃすぐに命を落とすに違いない。
――元よりその世界で順応するように体に手を加えるつもりでした。
――それをちょっと派手にやるだけです。
……どういう事だ?
――その世界では当然知っている常識も、言葉も知らないままに異世界で生きていく。
――そのハンデに免じて、多少は色を付けようと言う話です。
つまり、転生するなら大人の知識を持ったまま幼児からやり直せる。
転移するなら、肉体を再構成する過程で超人に仕上げてくれるって、そう言う意味か?
――その通りです。
――超人と言うより、人間の範疇で最高レベルの才能ってあたりが限界ですが。
「考えてるんだから思考を読むんじゃねーよ!」
マージで苛立つぜ。
「で? ……どういうつもりだ? 死んだ実験動物に随分とサービスがいいじゃんかオイ」
――コチラとしてもアナタにはアチラの世界で生きて欲しいのですよ。
「話が遠いぜ、何が目的だ!」
――先程も言ったでしょう? 魂は情報送信していると。
――地球の魂を持つアナタに、アチラの情報を収集していただきたいのです。
「あーなるほどな、おまえの目や耳になれと? スパイとして?」
――特に情報収集をしろと命令する気はないのですが。あえて否定しません。
「はいはい、お優しい事で」
何となく解った。
コイツらにとっては、俺の異世界冒険物語すらも実験なのだ。
檻から飛び出した実験動物をゴミ箱に捨てるか、カメラを括りつけて野に放つか程度の差でしかない。
――では、異世界転移ボーナス、何にしますか?
「ふざけた言い草だな。まぁ、貰えるモノは貰う主義だ」
――では?
「やるよ、やってやる」
――能力は? 何を求めます?
「剣だな」
――剣ですか? 剣を扱う為の優れた肉体と理解しても?
「ああ、物理的な剣も欲しいが、どうだ?」
――地球の武器など、メンテナンスが出来ず維持が難しいでしょう。
――なにより、体の改造と同時に剣を紛れ込ませるのはむずかしい。
「チッ、現地調達か。アッチに剣がないって事は無いだろうな?」
――もちろんです。コチラの世界よりも手に入りやすいでしょう。
――なにせ、アチラはまさにファンタジー世界ですからね。
「あークソッ。遊びやがって! どうせ治安だって良くないんだろ? そう言えば魔法はあんのか?」
――ありますよ? 憧れませんか? 魔法の世界に。
――使えるようにする事もやぶさかではありませんが?
「憧れるね、でもよ魔法ってのは高校デビューで極められる物なのかよ?」
――さぁ? なんとも? 地球の知識を活かした魔法で無双出来るかも知れませんよ?
「お前マジでふざけてるだろ?」
――失礼しました、つい楽しくて、すみません。
――我々の実態は神と言うよりは管理者なのですよ。観測し想定通りの世界に到達するかを確認するのが仕事です。
――それゆえ世界に干渉する事は御法度なのです。折角作り上げた運命がズタズタに狂ってしまうのですから。
――今回は、毒を食らわば皿までと申しますか。他人の世界ならどうなっても良いと言いますか。
「恨むべきなんだが、異世界の神に同情するぜ」
――ええ、そもそも魂のバグなんて意味が解らないのです、其の原因が解るならワタシの存在が消えても良いと思えるほどに意味が解らないのです。彼も被害者ですよ。
「そうかよ」
――そうです。
「じゃあやっぱり剣だな、俺は剣道よりも実践的な剣術が好きでいろいろやってる。こいつが異世界で通じるか試してみてぇ」
――そうですか。
「ああ、誰も見た事のない剣術だ、モノになるか解らない魔法よりよっぽど世界を引っ掻き回せるだろうぜ」
――それはそれは、アチラの神も可哀想に。
「だろ?」
俺は思いの外、浮ついた気持ちを抑えられなくなってきた。
そしてふと、今更に気になった。
「オイ? 木村は、それに黒峰さんはどうなった?」
――死にました。彼ら以外は不自然じゃない程度に介入して回復させる事も出来たのですが。その二人はあなたと同じですよ。直撃コースで『原型』が無かった。
「じゃあアイツらも」
――ええ、彼らとの話はこれからです。
「じゃあ伝えてくれよ、俺は異世界で剣士として大活躍してやるってな」
――解りましたお伝えしておきます。
「そんで高橋は? アイツはどうなる?」
――高橋少年には彼が、異世界の神が不具合たる『偶然』の原因を知らないかと事情聴取していますが、無駄でしょうね。神が解らない物が人間に解る道理が無いでしょう。
……。
――高橋少年と、異世界神が何を思い、何を選択するかはワタシにも解りません、死んだ人間の予測などリソースの無駄、システム外ですからね。
「俺は解るぜ」
――でしょうね、ワタシはあなたより高橋少年について知識としては知っていると言えるでしょう。
――ですがそれはデータの上の事でしかない。
――データが全てと思う程、傲慢ではないつもりです。
「へぇ」
――彼は実験動物だったのですから、我々は常に彼を観察し、そして彼は常に運命予報を裏切り続けて来たのです。
「予報とか統計学なんて持ち出すもんでもねぇだろ? アイツは何時もそうして来た、自分を攻撃してきた奴を攻撃するんだ」
――では異世界神を攻撃すると?
「いや? アイツを殺したのは結局何らかの不具合なんだろ? ソレを見つけるまでアイツは暴れまわるぞ」
――まさか、神でも発見出来ない不具合と言う『偶然』に対処するなんて不可能でしょう。
「たとえ無茶でも、アイツは周りを巻き込んででも復讐してやろうと噛みつきまくる、そういう奴だ」
――とても
「だろ?」
――嬉しそうに見えますが?
「俺が? そうかもな」
――では、そろそろ良いでしょうか?
「ああ、伝えといてくれ」
――先ほどの件ですね?
「ああ、また会おうってな」
――先ほどの言葉と意味が異なりますが? その言葉で彼らの選択を狭めたく有りません。
「だな、でもきっとアイツも選ぶ、そしてまた会う」
――それに高橋少年には私から伝えようも有りません。
「いいさ」
――そうですか。
「もし、同じ世界に居るのなら、トラブルの中心に居るのがアイツさそうだろ?」
――転移するかも解りかねます。
「そうだな、あいつなら犬とか動物、或いは化け物に変わってても不思議じゃない」
――はぁ。
「とにかく大迷惑な奴なんだ」
――では。
「ああやってくれ」
かくして俺は異世界転移を体験するのだった、その先に居るのは友かそれとも……。
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