第21話 神域遺物の収集、気ままな一人旅#02

 タッタッタッと走る音とゴロゴロと岩が転がる音がダンジョンに響く。狐の獣人の青年が大きな岩に追い掛けられていた。

 ここは秋ノ葉あきのは迷宮。彼は鍛練のため探索している時、最新のマップに記載の無い通路を発見した。

 繋がる先は未踏破エリア。未踏破エリア=お宝が眠っている。そう考えた彼は探索するべく、一人で未踏破エリアに挑んだのだ。結果の罠を踏み、大岩に追い掛けられる今に至る。


「い、行き止まり!?」


 長らく走っていたがとうとう追い詰められる。

 青年は迫り来る大岩に向き直り、腰に差した刀の柄に手をやり抜刀の構えをとる。


白狐流びゃっこりゅう居合いあい炎天抜刀えんてんばっとう!!」


 居合斬りにより大岩が真っ二つになる。青年が放った居合技は、炎を纏った刀で敵を斬ると言うものだった。


「さぁて、隠し扉とかないかな~」


 安全を確保して青年は辺りを調べてみる。


「お!スイッチ見っけ」


 壁にスイッチがあるのを見付け青年は押してみる。すると壁が動き広い場所に出る。


「何か広いとこ出たなぁ……ん?誰かいる」


 青年の視線の先には、眼鏡を掛けオーバーサイズのコートを着た背の低い人が立っていた。


「……キミ、失礼なこと、考えなかった?」


「いや?特には」


「……ふぅん。耳と尻尾の感じからみて狐の獣人さん?」


「そうだ」


「白髪に赤メッシュが入った髪。それに白の革コートで、刀持ちの狐の獣人……。キミ、聖上のお気に入りでしょ?」


「あんた何者?」


 青年は警戒し刀の柄を掴む。


蒐集者コレクター、って言えばわかる?」


「コレクターと言うと……聖上の友人、ツムギか」


「正解」


 青年は警戒を解き自己紹介を始める。


「見掛けたことはあるが、言葉を交わすのは初めましてだな。俺はジーク・レイア。ジークでもレイアでも、どちらでもかまわんよ」


「そう、ならジークと呼ぶわ」


「おう」


「……でジーク、あなたはなぜ秋ノ葉迷宮こんなところにいるの?」


「俺は長期休暇の機会に鍛練をと思って。そしたら、隠し通路を見付けて、未踏破エリアあるかもって思って、鍛練と一攫千金を狙って今に至る。ツムギは?」


「そうね……。神域遺物レリックの蒐集に潜っているだけ。ちなみにここは、未踏破エリアではなく安全地帯。キミが見付けた通路って罠が無かったかい?」


「……あったけど?」


「それなら、それはダンジョンが生成するトラップだわ。よく生き残れたわね?」


「大岩が転がって来るだけだったから、斬ったよ。にしてもそっか~、一攫千金ならずか~」


「……そうね。ん。ジーク、私と一戦交えてみない?」


「どういう風の吹き回し?それに俺に利点あるの、それ?」


「聖上のお気に入り、その強さはどれ程か。ちょっと気になっただけ。利点は、そうね……私が納得できれば、刀の神域遺物をあげるよ」


「う~ん……経験値積めそうだし、戦うのはいいけど、刀を見せてくれよ。それによってやる気違ってくるな」


「……ん。そうね。ちょっと変えるわ。今から渡す、刀の神域遺物を使って戦って、使いこなせていたらあげるわ」


 ツムギは懐から一振の刀を取り出すと、ジークへ放り投げる。


「おっと」


 ジークは刀を受け取り、鞘から取り出し刀身を見る。


「おぉ~」


 その刀は刃文の部分の色が鮮やかな赤色であった。


「気に入った?銘は『黒炎こくえん』。炎を操る神域遺物だよ」


「面白い。俺と相性が良さそうだ」


 ジークの言葉を了承と受け取ったツムギは、魔導書ラノベから細剣『白日はくじつ』を取り出し、魔導書には栞を挟んでポケットへセットした。


「いつでもどうぞ?」


 ツムギは細剣を自身の正面に構える。

 ジークは刀の柄を持ち居合の構えをとる。


「白狐流居合、炎天抜刀!!」


 炎を纏った斬撃がツムギに当たると思われた瞬間、キンッと言う音が響く。ツムギが白日を振るいジークの斬撃を弾いたのだ。


「ッチ」


 ジークが舌打ちをし、後方へと跳ぶ。すぐに体勢を整えると、刀を構え直す。

 その隙にツムギは白日を持つ手を引き絞り、ジークに狙いを定めると地を蹴りだし刺突を放つ。

 ジークに刺突が命中するが、刺突を受けたジークは揺らめき消える。


白狐流びゃっこりゅう狐火灯籠きつねびとうろう


 ジークがツムギの左右に立つように現れる。


「……なら本体は?……ん」


 ツムギは背後を振り向き空を斬る。するとキンッと言う音が響き白日が空中で止まる。ゆらゆらと揺らめくと白日を黒炎で受け止めるジークの姿が現れる。


「何で場所、分かったんだ」


「んー、分析かな?で、どうかな、黒炎は?」


「そうだな。手に馴染む感じだ」


「そう。ならいいわ」


 ツムギは白日をしまう。それにならってジークも黒炎を鞘に収めた。


「もういいのか?」


「じゅーぶんよ。聖上へのお土産のつもりだったけど、聖上はキミへ与えそうだったからね。遅かれ早かれキミのになった物よ。大切にね」


「おう。じゃあ貰います」


「ん。あとは自分で使い込んで慣れるといいわ。それじゃあ私は帰るところだから」


 そう言うとツムギはその場を後にしたのだった。

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