第5話 色付く世界、越えられない苦しみ#05
ツムギの言葉を聞いて、サクラには何やら思うところがあったらしい。
言い争いをしていた時の感情的な言葉では無く、落ち着き平静にサクラは振る舞う。
「言葉に表す……それは姉さんに意見しろと?」
「う~ん、まぁそれもある。けど重要なのは目を背けて蓋をした感情の方。それをさっきみたいに、ちゃんと伝える事かな。一方クロエ、キミは自分の言葉できちんと伝えな?」
「?、してるわ」
首をかしげツムギの言葉を否定するクロエ。どうやら本気で伝える事が出来ていると思っていたらしい。
(あの言葉数の少なさで……サクラの汲み取りがなまじ上手く出来ていた結果か。コレは天変三巻の内容に近いな)
「絵で伝えてる?それだけじゃ、キミの真意はきちんと伝わらないよ?ちゃんと言葉にしないとね。絵だけでは相手が都合よく解釈できるしね」
「そうなの?」
「それは……」
ツムギの指摘にクロエはサクラをみて訊ねた。その言葉にサクラはハッキリと応える事が出来なかった。
するクロエはそうと、言ってポツリと一言漏らす。
「わたしは、サクラも同じ事を考えていると思ってたわ」
「っ……」
クロエの一言にサクラは言葉を詰まらせる。続けざまにクロエは言葉を発するがそれはマイペースな内容だった。
「そう言えばかなり騒いでいたはずなのに、誰も様子を見に来ないわ?」
「ちょっ、姉さん!?」
少しシリアスな空気になっていたはずが、クロエの新たな一言で霧散する。
そのクロエの疑問にツムギがそれはと応えた。
「この部屋に入る前に防音等の結界を張ったからね。この部屋での会話は外へ漏れない様になってるわけ」
「そうなの?」
「Yes、まぁこのアトリエなら必要無かったかもしれないけれどね?あいつ、娘にかなり投資しているとみえる」
「そう」
「ん、そう。でクロエ、これからはサクラにきちんと伝えなよ?」
「わかったわ」
「サクラもまぁ気にするな、って言っても無理だよね。昔にも言った事だけど、キミの観ている世界の主役はキミ自身だ。決してクロエではない」
ツムギの言葉にサクラは無言で頷きを返す。
「だから、キミが思う道を行けばいい。けど気持ちを押し殺して、と言うのは駄目だ。クロエに話すや独り言でもいい。一回は声に、言葉にするんだ。そうすれば、見えていなかった道が見えるかもしれないからね」
「……貴方の独り言みたいにですか」
「そう。私は言霊って言うものがあると思うんだ。発した言葉には、力が宿る。それは巡り巡って帰ってくる、かも……ってね」
「そう言う、考え方も在るんですね……」
(だいぶ魔導書の影響から外れてきたな。コレなら回収して問題ない)
「ん。そう言うのもあるんです。でサクラ、魔導書を渡してくれるかな?」
ツムギが魔導書を渡す様に言うと、サクラは分かりましたと言って部屋の棚に近付く。そこからの紐で綴じてある冊子を取り出した。
「コレが貰った魔導書です」
サクラから受け取った冊子は、確かに姉妹の入れ替わりの元凶の物であると、ツムギには分かった。冊子の文字が薄赤く発光していたからだ。
しかし姉妹は発光には気付いていない。そもそも冊子と気付いていない。それも当然で冊子には偽装が施され、一目では分からないようになっていたからだ。ではなぜツムギは見抜けたのか?答えは単純でツムギが掛けている眼鏡が神域遺物の中でも特殊な物であったから。それだけの事である。
冊子は魔導書では無いが
「ん、確かに預かった。じゃあ二人とも目を閉じて、十を数えてから目を開けるんだ」
クロエとサクラは、言われるがままに目を閉じ数を数えて始める。と同時にツムギは冊子を懐にしまいアトリエから退出する。
「「……9、10」」
2人がゆっくりと目を開けるとそこにあったのは自身の顔ではなかった。
「姉さん!!」
「えぇ、そうね。戻ったわ」
クロエとサクラ入れ替わりが元に戻ったのだ。姉妹のは安堵からか涙を流し、そして笑いあった。
アトリエを後にしたツムギは応接間に来ていた。
「問題は解決はしておいた。で、今回の対価はもう貰ったから、コレで帰らせてもらうね」
簡潔にリクへ依頼の完了を報せると、ツムギは足早に屋敷を後にした。
ツムギは懐にしまった冊子を取り出す。
姉妹近くにあった時は、薄赤く光っていた文字は、今は光っていなかった。
(天変3巻の模写。願い主の近くにあると効果を発揮する
「効果が切れている、今のうちに処分しないと」
ツムギは手にした冊子に魔力を過剰に流す。すると冊子は急激に輝きだし煙をあげる。
人工遺物は基本規程以上の力を注ぎ込むと、オーバーヒートを起こし壊れる。その性質をツムギは利用し冊子の機能を破壊したのだ。
(ん、回路は焼き切れた。後は薪の代わりにでもして、燃やせばいいだろう)
「それは後日にするとして、コレの制作者。探さないと」
(大方アースソウルとか言う連中の仕業だろう)
「う~ん、まぁそうだろうねぇ。ま、気ままに旅を続ければ、いつかかち合うだろう」
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