機械仕掛けの海風

柏陽シャル

第1話 新たな風…?

B.526市、海上保安庁…

明かりが一つしか着いておらず薄暗い中、聞こえるのはそこに集まった艦娘と保安官そして周りにいる海上自衛隊達の息の音だけ。少しでも音を発てたならば部屋中に響くだろう。そんな中、保安官が口を開けた。

「新しく、F.GM部隊の司令官が決まった。説明は彼女が到着してから詳しく話すとしよう。」

保安官がそう言うと手に持っていたボタンを押す

ボタンが押されてから二秒後、ガガガッと音を立てながらゆっくり奥の丸い扉が開く。

険しい顔をしている艦娘達の中、一人の艦娘が口を開いて言う。

「加賀〜新しい司令官、気になるね〜。」

赤城がニコニコしながら加賀を見て言う。

「赤城。司令官に失礼でしょ。」

「あははっ!加賀は厳しいね〜。こういう時こそ!笑顔で迎いれるんだよ〜」

赤城が言うと、食い気味に島風が言う。

「なんでだ?」

「え〜?だって皆、険しい顔してたら司令官がびっくりしちゃうかもしれないでしょ?それに保安官が『彼女』って言ってたから女の子なんだよ!」

「なるほどー」

和気あいあいと会話をしている島風と赤城に

「静かに。提督に失礼だ。」

後ろに腕を組み、常に真っ直ぐを向いている長門がサラッと言う。

そんな艦娘達の前にゆっくりと歩いてくる人影が見えた、カッカッカッと言う音が保安室に響き渡る。

「あれが、私達の提督…?」

艦娘達は皆唖然としていた。そうなるのも無理は無い、保安官の隣に居るのは少女だった。司令官になるのはほとんど男の人が多く戦時について詳しい者が着くことが普通なのだが今、目の前にいるのは戦場など知っているはずがない少女なのだ。艦娘達は保安官の方にゆっくりと目線を合わせた。そうすると保安官は「頼むぞ」と言わんばかりに目線を合わせた。

「今、私の隣にいる彼女こそが新しく司令官に任命された夜神 海風だ。海風、自己紹介を頼む。」

『私は、夜神 海風。呼び方は何でもいい。私はただ、今ある使命に従うのみ、間違ってることは教えて欲しい。』

海風の声は機械っぽいでも人っぽい声でもあった。それ故に艦娘達はなんだか親近感が湧いてきたのか冷静になり挨拶をする。

「夜神提督。これから宜しく頼む。」

「宜しくね〜夜神提督〜。」

「宜しくなのだ。」

【宜しくお願いします!】

手を頭の上に上げて敬礼のポーズをとる長門、上下関係何て無いように挨拶する赤城と島風そしてそれに続いて挨拶する艦娘達は一斉に頭を下げる。そんな艦娘達に海風は一言言う。

『皆様、宜しく御願い致します。』

「F.GM隊の皆に彼女について説明させて頂こう。彼女はかの有名な研究所、傀儡研究所で作られた人工司令官だ。高性能で中には司令官として指示を出す為に必要不可欠な物が全て入っており、戦術についての知識もあるAIだ。」

そんな言葉を発する保安官に艦娘達は驚く。

「傀儡研究所…聞いたことはありますが。ってそんな事はどうでも良いのです!なぜ提督がAIなのですか!」

吹雪は艦娘達が疑問に思った事を代表して言葉にする。

「そのことなんだが、実を言うと、、、」

『まって』

保安官が続きを言おうとすると海風が止めた。

『最近は、司令官として選ばれる自衛隊がどんどん少なくなっている、そして今のままじゃ今後の艦娘部隊は指示をする人が居なくなり、やがて艦娘だけで動くことになる。そういう事を阻止するために私が生まれた。』

そう海風は説明してくれた、そんな説明に艦娘達は顔をしかめる。

「傀儡研究所って、そんなに凄いところなのデスカ?」

金剛が疑問を口にすると

「あっ、そうだよね。金剛さんは外国から来たから傀儡研究所のことは知らないか。傀儡研究所っていうのは日本の中でも有名な研究所でね。一般的には研究所って言うと専門の研究所ってなるんだけどあそこだけは違くてAIとか人形とかの専門研究所だけど、他の部門も専門研究所に負けないくらい強いの」

知識に長けている榛名が詳しく傀儡研究所について教えてくれた。

日本の中心部であるB.526市に本部がある傀儡研究所は国事などにも参加しており、名の知れている研究所だった。傀儡研究所に司令官が足りない海上保安庁は得意分野であるAIの作製を頼んだのだ。普通ならAIは人の考えを読み取ることは出来ず、規則正しい行動しか出来ないため、常に相手の考えを読み取り予測不可能な行動を取らなければいけない海上では重要視されていなかったが、規則に沿った行動だけでなく、予測が出来ない行動を取ることのできるAIを創ることが出来るのは傀儡研究所だけなのだ、だからこそ海上保安庁は傀儡研究所に頼み海風を創ってもらったのだ。

「傀儡研究所ってそんな凄い所なのデスネ。日本はやはり向こうと違って色々と発展しているのデス!」

金剛が目をキラキラさせながら言うと重かった空気が一気に軽くなる。

「金剛…。提督の前だぞ。」

「ハッハッハッ!相変わらずだな!」

保安官が楽しそうに笑う。そんな顔を見て長門もなんとも言えなくなる。海風は相変わらず真顔だが、少し表情が柔らかくなっているような気がした。

『F.GM隊はどんな場所でも明るいと聞きました。ほんとにそのようなのですね。これが…ほんわかする、というものでしょうか。』

「そうなのだ!我が部隊はとても明るいんだぞ!夜神提督もここに慣れるとそんな暗い顔から、明るい顔になってニッコニコになるんだぞ!」

島風が海風の言葉に乗せて発言をすると。

『ニコニコ…ですか…?』

「そうなのだ!」

「いつも、ニコニコなのは怖いですねけどね…笑」

響はクスッとしながら言う。

『それが、感情…というものなのでしょうか?』

海風はAI、ゆえに機械にはわかり会えないものが感情だ。

「ねぇねぇ、長門。」

「なんだ?」

長門に小声で話しかける雷。

「AIは表情、感情というのがないなら、この部隊には向いてないんじゃ…?」

「……そう、だな…。」

(この部隊は相手の表情を見ながら連携をとったりするのが基本なため表情が動かない提督にとっては不得意な部隊、だがそれを見越して保安官は提督に頼んだ、何か確信があるのだろう。)

雷の言葉で冷静に考える長門はなにか裏があるのではないかと思いついたが、保安官は正義感が強くそんな裏があることはしないと思い考えるのをやめた。

「さぁ、今回は解散しよう。F.GM隊は海風を頼むぞ。」

「ハッ!」

保安官が解散を伝えると艦娘達は声をそろえて返事をした後、後ろを向き歩いていった。

『私もお暇します。これからよろしくおねがいします。』

「あぁ。」

海風も保安官に挨拶をし自室に戻っていった。


海風の姿が見えなくなると保安官は下を向きゆっくりと口を開く。

「すまない……。」

その言葉を口にした瞬間、保安官の視界はぼやけて一粒の涙をながした。



今日は、F.GM隊本部に海風が来る日だった。

司令官を迎える準備で大忙しの艦娘達はドタバタしていた。

「あぁ〜!島風それはこっちだよ!」

「え?でも地図ではここと…。」

「ウッソだぁー!って逆じゃん!」

島風のドジに振り回される電。

約二時間後、司令官を迎える準備が終わり外で艦娘達は待機をする。だが、そこには二人ほど欠けていた。それは龍田と天龍だった。

「おい、龍田と天龍はどこに行った?」

「龍田なら、忘れ物をした天龍を追いかけたよ?」

「追いかける必要あったの、かな、それ…。」

天龍と龍田が居ない間に時間は進み、海風を乗せた船が見えた。すると後ろから、

「おーい!まだ、提督来てなってやば、もう来てるじゃん!」

「だから、早くしろと。」 

遅れてきた二人に長門は満面の笑みを浮かべていた、その笑顔を見た他の艦娘は、(二人共終わったな)と感じたのであった。


海風が到着すると艦娘達は敬礼をした。

「提督、この度は来ていただきありがとうございます!提督の期待に添えられるよう頑張らせて頂きます!」

長門の発言が終わると艦娘達は順番に挨拶、そして意気込みを言った。

『私こそ、宜しくお願いします。分からないこともあると思うのでそのときは優しく教えてくださると嬉しいです。』

「はい!先ずは、本部をご紹介します。こちらへ」

長門に連れられて歩く海風の後ろ姿を見て艦娘は少し懐かしさを感じた。

「ねぇ霧島。」

「なんだ?」

「後ろ姿とかさ、喋ってるところもだけど完全に提督って少女だよね。人のようにみせるってのが傀儡研究所の凄いところだけどなんだが、ホントの人間何じゃないかって思うの。」

「うーん、確かにそうだけど…。」

人に似すぎている所から疑問を持ち始めるのは、響だった。霧島も確証がないことから上手くは言えず濁らせることしか出来なかった。

「お二人共、何話してるんです?」

「赤城さん、実は…」


「なるほど~でも確かに人間味強いですよね。それに家族の写真を本部で見たときに少し寂しそうな顔をしてました。」

「傀儡研究所は何か隠してるのではないか?」

「まだ分かりません。確証が無いのは確かですし、でも警戒するのはありかと…。」

響と霧島に合流した赤城は二人の話を聞いて、少し考えてから長門に報告にしにいった。長門は今、海風を案内している最中なため、榛名に相談してからにしようと霧島は提案した。



「よっしゃあ!提督が来たってことは私達は出撃出来るって事だよな!やっとだぜ!」

「相変わらず五月蝿いですね。今静かにご飯を食べる時間では?」

「そうよ、提督だってびっくりすると思うわ。ね?提督。」

『いえ、私は構いませんが…やはり、提督が見つからなかったF.GM隊は出撃許可は下りなかったのですね。』

「はぁ、嬉しいのは分かるが何でもそこまで騒ぐものか…。提督の言う通り我々は出撃許可は出されませんでした。私達だって計画するぐらい出来るのですが。」

『それはやはり、心配…だからなのでは無いでしょうか。心配というものは上手く分かりませんが失いたくないのでは?』

「心配…か。」

食堂で出撃許可がおり喜ぶのは比叡だった、食堂で騒ぐ比叡に怒るのは加賀そして提督の気持ちを尊重する暁。艦娘は許可無く出撃することは出来ず、F.GM隊の皆はもう終わりなのではと思ったときに海風が来た。それ故に艦娘達は海風に感謝をしていた。

「提督…ご飯全然減って無いわよ。女の子なんだからもっと食べなきゃ。」

『…そう、でしょうか。いつもこのぐらいしかご飯を渡されないので。』

「機械なのに飯って食うのか?」

比叡の発言に暁と加賀は顔が青ざめる。何を聞いているんだと言わんばかりの顔で。

『特別に、食べられるようにされております。普通は食べれませんがね。』

「ふーん。」

海風の言葉に二人は安心し、食器を洗い場に置いた。比叡はおかわりを頼み今日の給食当番の愛宕を困らせていた。

「愛宕!おかわり!!」

「もう駄目です!他の人の分が無くなるでしょ!」

「ケチンボ…。」

『なら、私の食べますか?今は食欲が少し無くて』

比叡はお礼を言って、海風が残したご飯を完食した。

 海風はそのまま自室に戻り、扉の鍵を閉めた。

「疲れた…。にしても良心が痛むな。騙すってのは研究所のお陰で私はここに戻ってこれたけど、少し辛いなぁ。皆私の事、忘れてるかなぁ。」

海風は自室に戻ると人が変わったように喋りだす。それはF.GM隊の元提督、八神 零だった。

零は艦娘を助けるために一度死んだ。だが、研究所のおかげで生き返りここに戻ってこれたのだ。零は高校生の女性だった。八神家は代々提督として働いており、幼き頃から提督になるために勉強をしなければならなかった。敬語で話さなければ行けない場所より、自分の事情を分かってくれる場所F.GM隊本部のほうが過ごしやすかった。

海風の姿はいつも傀儡研究所の最新技術によってすり替えられていた。

「声とか変えるの面倒くさいんだよなぁ。うまく出来ないし話し方も…普段と違う風に話さなきゃ行けない。なにより、何時も一緒にいた皆とまた距離が出来たみたいで苦しい。でも、これも皆のためだもう少しの辛抱だから。」

零は顔を隠すように腕をもってきて悔しそうな顔をしたその目には雫があった。



「今から!艦娘会議を始めまーす!」

「おおー!」

艦娘だけで話し合う会議、艦娘会議を開いたのは比叡だった。

「でも、何を話すんです?」

「確かに、何をするのか聞かされていない。」

「フッフッフ、今日は提督についてだよ。私は気づいてしまったのだ、夜神提督は八神提督なのではと…。」

「そりゃそうだろ、夜神提督は夜神提督だ。」

「漢字が違う!昔の提督の方だよ!」

「なるほどな。」

漢字ってむずいなと困った顔をしてる比叡に加賀は何故そう思ったのかという顔を返す。

「だって、歩き方や保安官に対する態度とか凄く似てない?」

「確かに!今思えばそうかも。」

「そうだな、そらなら辻褄が合う。私が提督を案内してたときに場所がすでに分かってるように歩くんだ。」

「おっほぉ?これは確では?」

「なら、明日あったときに八神提督が言われたらいつも困る言葉を言えば分かるかも!」

「ならば、明日は皆で提督に会いに行かねばだな」

あることに気付いてしまった艦娘達は行動を起こす。そして、寝てる八神提督は艦娘達に振り回されるわけだが、無事に事を隠すことが出来るのか。

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