ペット・ドック

ジョン・グレイディー

第1話 お利口さん達

 ペットショップの可愛い犬達。


 チワワ、トイプードル、ヨークシャーテリア、ポメラニアン、マメシバ…


 小型の可愛い、従順な犬達。


 血統書付きは、一匹50万円は裕に超える高級ペット。


 飼い主に直ぐ懐き、ご褒美欲しさに芸を覚え、愛想良く尻尾を振る。


 早速、お金持ちに引き取られ、家族のアイドルと君臨して行く。


 街の公園では我が仔の自慢話に花が咲く。


「うちの仔、吠えないのよう~!」


「まぁ、凄いわ。お利口さんねぇ~」


「そうなの、猫にしか吠えないの。」


「うちの仔は『待て』を直ぐ覚えたのよう~、『よし!』と言うまで絶対に待つの!」


「まぁ~、凄いわねぇ~、お利口さんねぇ~」


「見て見て!うちの仔を、今から見せるからね!


『お手!』、『お座り』


 ねっ!


 凄いでしょう!」


「まあ、お利口さん、言う事、ちゃんと聞くのねぇ~」


 犬科というオオカミの本能を全て失い、そのDNAは見事に分解し、愛玩動物に成り下がった人工物。


 狩猟本能の微塵の欠片もなく、敵に咬みつくことさえ忘れてしまい、持って生まれた顎の力は宝の持ち腐れ。


 吠え、唸ることは禁じられ、クンクンと鼻を鳴らして合図を送る。


 肉を貪り食べることはなく、『カリカリフード』を器用にお食べになり、見事な犬歯は邪魔でしかない。


 毎日、お風呂に入り、歯磨きは欠かさず、主人と同じベットで眠り、体臭の消えた分、類稀なその嗅覚は劣化の一途を辿る。


 更には、頻繁に美容室に連れられて、爪を切られ、毛を刈られ、ブラッシングで艶を出し、見掛け重視の産物となる。


 飼い犬、ペット・ドック!


 我が社の上司も皆んなペット・ドック!


 決して上には歯向かわないお利口さん達。


 告げ口以外は「はい。」しか言わず、意見などはもっての外!


 常套句、決まり文句は、「仰る通り」。


 出来の良いほど歯を見せず、低頭平身にツムジを見せる。


 誇れる能力は辛抱強さ。


 上席空くのを『お座り』上手にひたすら『待つ』。


 平時の寵児


 あいにく有事は役立たず。


 牙の抜けた飼い犬共は番犬には向いてない。


 そんな輩が会社を掌る。


 俺は愛想を尽かして、おさらばしました。


 ご紹介して行きましょう!


 我が社のお利口、ペット・ドックを!


 


 


 


 

 

 

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