理想的

くま

第1話

加治川高校映画部は良い。

発想力はあるが、無茶の多い2年、比島凌生。

とにかく撮るのが上手い2年、三木祐也。

騙されやすいがトーク力がずば抜けた1年、冴島京介。

そして、監督は俺、2年、相模原弘樹。

これは、彼ら4人が、一つの作品を完成させるまでのお話。


7月の部活動...そう、夏休み直前である。

この夏休み期間...作品制作に活かせないかと、2年生は某ファーストフード店にて、部長兼監督2年、相模原弘樹を中心とし、話し合いが行われていた。

そう、幹部会議である!...まだ俺と祐也しか集まってないけど。

「なあ...祐也さあ、この期間、なーんか活かせると思わない?なのにさ、なんか俺たち、なーんにも考えてなくね?」

「そうだねえ。」

「...まあ、まだ凌生は来ていないけど、幹部会議を開始する。録音機器持ってる?」

「そうだねえ。」

「...だから持ってる?」

「そうだねえ。」

「お前ちょっといい加減にしろよ!録音機器持ってんのかよ」

「...ひろちゃん(弘樹の愛称)さあ」

「なんだよ」

「このバニラのシェイクだけど...なんか飲み物って感じしないんだけど。麦茶買ってきて。これはひろちゃんにあげるからさ。」

「だからいい加減にしろよ。お前それ来るたびに言ってるよな。」

「ほら。」

「50円玉で飲み物買えるわけねえだろ!」

「大丈夫だよ。ひろちゃん、ペコペコするの得意でしょ。」

「好きでやってるわけじゃねえんだよ!お前ら(部員)が倉庫でキャッチボールとかするから俺がいつも先生に謝りに行かされてるだけで、別に得意技でもなんでもねえよ。」

「ひろちゃん...口悪いよ」

「うるせえよ。早く自分で買いに行けよ。ついでにソフトクリームも買ってこい。」

「そうだねえ。」

「その『そうだねえ』っつーのやめろよ!話本当に聞いてんのかよ!早くいけよ」

...ダメだ、全然会議にならない。なんでだ...なんで俺たちはいつも会議にならないんだ...。

このままじゃあ、夏休みを使って作品制作なんてできやしないじゃないか。

祐也は学習しないし。

「おまたせー。はい、ソフトクリーム。」

2年、三木祐也、カメラ担当...こいつは...馬鹿だ。本当に行動が予測できない。

中学からのつきあいだが、全く理解できない。

ただ、誰にでもあだ名で接することができ、すぐに親睦を深めることができるその

才能は認めよう。

「あ、ひろちゃん!りょうくん(比島凌生の愛称)来た!」

「おまたせ。監督。」

こいつは幹部(2年)比島凌生、企画担当。俺を『監督』と呼んでくれる。

彼は、発想力がずば抜けている。ただ...。

「ねえ、監督。企画考えてきたんだけど、雀島でトランプでゲームやって、

負けたほうが魚50匹採れるまでキャンプ生活ってどうよ。」

そう、凌生は...頭がおかしいんだ。

「なんで雀島なんだよ。中途半端だな。もっと良い島あるだろ。」

「雀島行ってみたいだろ?」

「行ってみたいだろ?じゃねえんだよ。行ってみたいかすら微妙だよ。つかなんでトランプなんだよ。」

「予算少なめにしたくて。」

「トランプの予算考えてどうすんだよ。魚50匹もおかしいだろ。限度があるわ。

 本当に通ると思って持ってきたのかよ。」

「通る通らないじゃない。やりたいかどうかだ。」

「お前のやりたいことの大半は俺らのやりたくないことで出来てんだよ。」

「ひろちゃーん。録音機あった!」

「遅えよ!なんで今なんだよ。」

「監督、雀島ってさ、鳩はいるのかな。」

「そこは雀を期待しろよ!」

「やっぱバニラシェイクは飲み物って感じしないよねー。」

「祐也はなんで麦茶買ってこねーでまたバニラシェイク買ってんだよ!」

「監督...雀島...どんなところなんでしょうねえ...。」

「だから行かねえっつってんだろ!」

なんやかんやで、意味のない幹部会議は幕を閉じた。


7月15日 金曜日 放課後 部室にて

俺たちは今日、部内全員での話し合いを始める。そう、部内総会議の開催である!

「部長兼監督、相模原弘樹より命じる。これより、部内総会議を始める。議題は次の『シャイな高校あんちきしょう』の企画についてだ。発言がある者は手を上げろ。」

「監督!僕、企画考えてきました。」

「凌生!でかした!言ってみろ!」

「はい!森の中で採取した雑草を家庭科室で揚げた後、校長の愛妻弁当の中身をそれに入れ替えて...」

「却下!」

「先輩!」

「なんだ冴島!先輩はやめろっつってんだろ!」

1年、冴島京介。彼には映画部が学校中で流す一月に一回の企画、

『シャイな高校あんちきしょう』の、まあ...所謂タレント的な立場で活動をしてもらっている。ちなみにこの番組(といって良いのかわからない)では、エンディングを歌ってもらっている。

「弘樹!」

「先輩に対してなんていう口の聞き方だ!監督と呼べ!」

「はい!監督!僕はグルメが良いと思います!月イチで全クラス内で流すあの番組は『最初は面白かったけど飽きた』という声が大きいです!なのでなんかバカでも面白がれそうなグルメが良いと思います!」

「よーしグルメだ!凌生!企画書作って明日中に持ってこい!部員のスケジュール表もちゃんと確認しながら日程も決めてこい!」

「分かりました監督!」

「祐也は機材にトラブルが無いか確認しろ!」

「はーい。」

「冴島は俺と稽古だ!将来はタレントになるんだろ⁉」

「はい!監督!」

...今日はなんだかいつもより会議が進む。話し合いが進む。

こうも順調に話し合いが進むと...逆に不安だ。


7月17日 日曜日

機材トラブルは無い。予算もある。無事に皆が集まれた。

冴島は今日は調子が良さそうだ。比島も珍しく無茶な要望をしなかった。

何故か、異様にデカい荷物を持ってきているのは気になるが、きっとなにもないだろう。

(祐也)「ひろちゃん、カメラ準備ok!」

深呼吸だ。大丈夫。きっと面白い。祐也の後ろで何故かニヤついている凌生が気になるが、まあ良いだろう。冴島...もうカメラには慣れたみたいだ。

俺ももう慣れた。きっと...大丈夫。

「はい!どうも!映画部の月イチ昼番組、『シャイな高校あんちきしょう』の時間がやってまいりました。今日はですねえ、いつもの通り、冴島くんには企画をお伝えせず、集合場所までね、えー私の父、『信勝』の愛車で僕と来てもらったんですね。」

「来てもらったんですねじゃないよ。てか初めて知ったよあなたのお父さんの名を。

の、信勝って言うんですか。」

「さて!今回はですね...」

「無視すんじゃないよ!君のお父さんの名前だぞ⁉君の元だぞ!おい!」

「ラーメンです!」

「...」

「おーっと、どうも彼...とぼけたような顔をしていますね。」

「え...ら、らーめん」

「そうですね」

「いや...そうですねじゃなくてそれ本当に面白いんだろうねえ」

「さあ行きましょう!」

「だーから無視すんじゃねえっつってんだよ!」

祐也と凌生の笑い声。上手く騙せたみたいだ。

...本当に凌生のあのバックはなんなのだろうか。


ラーメン屋に入り、席に付きカメラを設置する。

「ひろちゃん!」

祐也の合図に合わせ、息を吸う。

「さあ!やってきましたラーメン屋!...冴島くん、今のお気持ちは?」

「いや...もう...僕...」

「はい、なんでしょう。」

「...これ以上無い企画だと思う。」

ラーメン屋に笑い声が響く。

「冴島くん...冴島くん、ここで一つ、ゲームしませんか。」

「はい。」

「ブラジリアンワックスって...知ってる?」

「え?あ、はい一応」

「おやおや冴島くん、察したように笑いますねえ。」

「うるさいな君は。いいからゲームってなんだよ。」

「えー、これから私達、ラーメンを食べるわけなんですけれども」

「ええ」

「このラーメン、早食いで負けた方に、ご自身の鼻の毛をこのブラジリアンワックスでですね...」

「ええ」

「ワックス脱毛してもらいます!」

またもやラーメン屋に笑い声が響いた。店主に事前に確認しておいて良かった。

「じゃあさ、凌生くん。スタートの合図お願い。」

「はい!じゃあ...レディー...ファイッ!」

妙にダサい合図で、俺と冴島はラーメンをむさぼり食う。

中盤になると、冴島の鼻から麺が出てくるなどのハプニングが続いた。

冴島の涙...汗...何故か鼻から出てくる麺...良い画だ。

...男子校で良かったあ。

結果、冴島が負け、ブラジリアンワックスで鼻毛を抜くことになった。

「さあ!冴島くん...冴島くん?なんだそれは!なんだその顔は!びっちゃびちゃじゃないか!あははっはははっ」

「あははじゃねえよ...」

「なんと!なんと弱々しいんでしょう!実に!実にかっこ悪いです!」

「うるせえんだよ!いいから鼻毛抜かせろよ!」

「そんなに鼻毛を抜きたいんですか!頭大丈夫ですか!?」

「お前らが企画したんだろうが!」

「そうです!そうでした!」

「おい今忘れてただろう!」

「...では凌生くん、例のアレを」

鼻に某鼻毛抜きを刺す。

(凌生)「60秒間そのままでお願いします。」

凌生ディレクターのその言葉と同時に、冴島は絶妙な渋い顔になる。

60秒が経った事を知らせるアラームが鳴った。

「さあ!...ふふっ...ぷふっくくっ...」

「笑ってんじゃねえ」

「はい!...でも...ふっ」

「はよせえ」

「ふふっ...じゃあ引きます!へいやっ!」

「ゔぁああああ!」

...これは神回だ。よし...よし!

「あはははっ!」

「あははじゃないよ監督!」

「だって!あはははははははっ!」

「監督う!」

「な、涙目...あははっ!」

「こんな監督会ったことねえよ!お前の自慢の革靴シボ加工してやろうか。」

「なんでシボ加工なんだよ!しわっしわじゃねえかよ」

「いいだろしわっしわで。」

「良いわけねえだろ!」

よし。冴島の毒もいい感じに吐かれている。本当に今日はうまく進む。


「さあ!ラーメンも食べ終え、企画も終了となります!冴島くん、何か一言。」

「...一生あんちきしょうだよ。」

「はい!ではまた来月の...」

凌生がにやりと笑う。

「えー...凌生...?」

(凌生)「まだ、終わってません。」

凌生がそう言った瞬間、察しがついた。俺に手渡されたフリップボード、そこには...

『沖ノ島キャンプツアー2泊3日の旅』と書かれていた。

(凌生)「えー...皆さんには僕、凌生ディレクターこと2年比島凌生に騙されていただきました。お二人には、1泊2日、沖ノ島でキャンプ生活を送ってもらいます。この大きなカバンの中身を開けてみてください。」

ファスナーを俺が開ける。そこにはテントらしきものが入っていた。

(凌生)「えー、監督と冴島くんはもう呆然としちゃってますねえ。あ、着替えとかももう事前に監督のお父さん『信勝』さんに持ってきてもらっています。皆さんの両親にも許可は取ってきています。じゃあ...沖ノ島!行きましょう!」

「...やられたよ、凌生。」

手回しの速さ、気にならないほどのヒント、騙し方、比島凌生の恐ろしいところだ。

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