第8章 あのときの話

第41話 同窓会 ─side 彩加─

○会場……江井市立文化センター 小ホール

○時間……十三時~十五時(予定)

     ※開始前十五分ほど、混声合唱団Harmonieの演奏があります

○人数……五十人ほど

     ※先生方も多数出席されます!

○幹事……大塚華子(佐藤)

     山口美咲(紀伊)


 そう書かれていた同窓会の案内状の詳細決定版。高校を卒業してから地元を離れてバンドを組んでいたので、前回の開催時には参加は見送った。

 今回参加することになったのは、ライブ会場で華子に会ったからだ。出番が終わって外に出ると、華子と男性が待っていた。

「前のとき結構みんな来てて、それから会うようになった人もいるみたいやで。彩加ちゃんのこと、みんな〝連絡取られへん〟って言ってたで。来てな?」

 次回の同窓会に是非来てほしいとお願いされ、断りきれなかった。

 地元を離れたのはバンドをするためと、それまでのことを忘れたかったからだ。高校はともかく中学はあまり良い思い出がなかった。当時は友人たちと楽しく過ごしたけれど──高校に入ってから価値観が一変した。

 それは出会った友人にあったのかもしれないし、自分が気づいていなかっただけなのかもしれない。子供だったのもあって、周りが見えていなかったのかもしれない。

 高校に入って携帯電話を持ってから中学でも一緒だった人たちと連絡先を交換したけれど、好きだった人・朋之に偶然出会って付き合うことになったけれど、そのどれもが過去のことを思い出して違う気がして、いつの間にか関係をっていた。

 学生になってから、当時の親友・美咲がSNSで連絡を取ってきた。美咲は文章を何行か書いていたけれど、気づけば返信を一言で出していた。そのあとは何の連絡も来なかった。

 だから何となく気は進まなかったけれど、華子と約束をしているので同窓会に行った。Harmonieが出演することも気が進まない理由だった。一瞬だけ付き合った朋之がHarmonieに加入したのは聞いていたし、それが余計に美咲を思い出して嫌だった。美咲はいつも合唱のときはピアノを弾いていたし、話はしなかったけれど朋之が好きだったはずだ。

 それでも本当は会いたいし、二十年も経っていれば、笑い飛ばしてもらえるかもしれない──。

 文化センターには十二時半過ぎに到着し、受付で華子に会った。美咲も幹事のはずだけれど、受付に姿はない。

「彩加ちゃん、来てくれた! ありがとう! もうすぐHarmonieの演奏始まるから、好きなとこで聴いてて」

 既に到着している他の旧友を探し、声をかけてから隣に座った。近くには先生たちもいて、懐かしすぎて笑ってしまった。

 ステージの幕が開いて、Harmonieのメンバーが雛壇に並んでいく。

(あ──やっぱり、いてる……)

 先に出てきた男声メンバーの中に、やはり朋之はいた。そのあと女声が出てきて、最後に信じられないものを見た。

「え……美咲ちゃん? と、篠山先生?」

 美咲は雛壇の端に並び、篠山は指揮台に立った。

 最初は無伴奏のようで、静かに始まった。おそらくフランス語のその曲は聴いたことがないけれど、日本語版は知っていたしピアノでも習って弾いた。指揮をする篠山は後ろ姿しか見えないけれど、何となく楽しそうだ。

 二曲目も無伴奏で、今度は何語なのかさっぱり分からなかった。一曲目とは違いゆったりしていて、おそらく讃美歌だ。同じような歌い方をする外国人歌手を知っているので、もしかしたら同じ地域かもしれない。これは朋之のソロがあって、思わず二度見してしまった。

 無伴奏のまま終わるのかと思っていると、最後に美咲がピアノのほうに向かった。同時に朋之は上手かみてにはけてから、ギターと椅子を持って戻ってきた。美咲は中学の頃からピアノが上手かったけれど、確実に上達していた。曲のレベルが全然違うので、そう聴こえて当然かも知れないけれど。サビの辺りからギターも入って、思わず感動してしまっていた。過去に自分も合唱をしていたので、ものすごく懐かしかった。

 演奏が終わってから、篠山は振り返ってマイクを持った。

「私は普段は江井混声合唱団で指導してるんですが、Harmonieとも交流があって──そのメンバーの紀伊さんと山口君から、今日の指揮をお願いされました。明日、ここの大ホールであるコンサートに、Harmonieと、うちのえいこんが出ます。時間あったら来てね。じゃ、同窓会楽しんでください」

 Harmonieのメンバーは舞台裏に消えていき、会場には軽食が用意された。ホテルのような立派なものではなかったけれど、昼食は食べてきたので特に問題ない。

「佐方、久しぶり。元気やった?」

 声をかけてきたのは、高校でも一緒だった裕人だった。裕人は以前は独特な雰囲気を放っていたけれど、今は結構おしゃれになっていた。

「大倉君、今の……びっくりせんかった? 美咲ちゃんが……」

「いや? 俺、知っててん。──紀伊とトモ君、いまめっちゃ仲良いで。ずっと一緒におるんちゃうか? 紀伊の子供もトモ君大好きやしな」

 裕人は説明してくれたけれど、出てきた単語にまた疑問が湧いた。仲が良いのは何故だ。一緒にいるのも何故だ。美咲の子供が──ということは、美咲はシングルマザーなのか?

「ははっ、めっちゃ混乱してる!」

 裕人は面白そうに笑う。佳樹も近くにいて話を聞いていたようで、いつどこで何が起こったのかと、やはり二人の関係を探っていた。──それにしても、うるさい男だ。

 音楽が微かに聴こえてきたので見回すと、ステージで美咲と朋之が演奏していた。主にギターが伴奏で、ピアノがメロディを鳴らす。聴いたことがあるものよりゆっくりと弾かれ、わずかに明るくアレンジもされていた。いつか学校の授業で歌って、有志合唱でも歌った。

「あっ、もしかして」

 ふと思い出したことがあって、同窓会の案内状を見た。幹事の美咲の名前は偶然だと思っていたけれど、違ったのかもしれない。

「お、佐方、気付いたな? 説明ややこしいんやけどな……」

「ヒロ君、あいつらもしかして夫婦なん?」

「──そやで」

 なんとなくそんな気がしたので、特には驚かなかった。

「えっ、いつから? 俺、二人ともよく会うけど、そんなこと一言も言ってなかったで? あっ、子供は? 山口との子じゃないよな? うわ、また俺だけ仲間外れ……」

 隣で佳樹は騒いでいたけれど──放っておこう。

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