第7話 告白

 恭一が食べ終えて手を合わせると、かよ子が笑顔でこちらを見た。静流が気が付き、


「何だよ」

「甘い物、食べましょう」

「食べない」

「食べようよ。ねえ、矢田部くん。あなたは食べるでしょう?」

 そんな顔で言われたら、断れない、と恭一は思った。


「かよ。キョウイチを巻き込むのはよしな。キョウイチ。食べたくないなら、無理する必要ないから」

「あ、はい」


 恭一が困っていると、かよ子は、

「あ。何食べるか迷ってるんでしょう。ここ、チョコレートパフェ、おいしいよ」

「だから、何でキョウイチが食べることになってるんだって訊いてるんだよ。おまえ一人で食べればいい」

「それじゃ、つまらないじゃない。一緒に食べよう」

 誘われてしまった。どう答えたらいいのだろう。


「わかった。じゃあね、矢田部くん。デザート食べるのを付き合ってくれたら、そのライヴ行くわ」

「わかりました」

 そう言うしかなかった。


 静流がテーブルに肘を付いて頭を支えると、

「それ、汚な過ぎだろう。おまえ、キョウイチに嫌われたいみたいだな」

「静流、わかってないわね。交換条件って言うのよ、これは」

 涼し気に微笑む。全く敵わない。


 恭一は、静流の方に顔を向け、

「ありがとうございました。諦めて、食べます」

「わかったよ。食べな。ああ。どうして私はこんな子が好きなのかな」

 溜息混じりに言った。恭一も頷かずにいられない。振り回されているのがわかっているのに、嫌いにはなれない。


 二人でチョコレートパフェを注文した後、

「町田さん。もう一度、ちゃんと言っておきます。もう一度、と言うか、さっきはちゃんと言えなかったので、初めて言います。

 ぼく、町田さんが好きです。年下過ぎて相手として考えてもらえるかわからないですけど、付き合ってほしいです。もし、付き合ってもいいなと思ってくれるなら、このライヴに来てください。ダメなら、来ないで下さい。

 ずるいことしたくないので、一ノ瀬さんの前で告白しました。いいですね?」


 かよ子が顔を赤くしているのに気が付き、戸惑った。彼女は両手で口許を覆うと、

「静流。今、私、告白されちゃったみたい。嬉しい。だって、人生で初めて、男の人に告白されたんだよ。どうしよう」


 女の人からは告白されたことがあるらしい。人気者だったんだな、と思った。静流はかよ子をじっと見ながら、

「良かったね。おまえは幸せ者だな」

「それは、どういう意味?」

「別にどんな意味もないさ。そのままの意味だよ」

 静流が大きく息を吐き出した。やや疲れぎみのようである。


 チョコレートパフェが来たので、長いスプーンですくって食べた。おいしかったが、あまり頻回に食べてはいけないな、と思わされた。


(ぼくがかっこいい存在じゃないと…)


 ぼくがアスピリンだ、と自分に言い聞かせる恭一だった。





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