第5話 恋人?

 席に戻ると、二人の食事は運ばれてきていたが、手を付けていない。恭一は「戻りました」と言ってから、

「あの…どうぞ食べてください。冷めちゃいます」


 かよ子は、静流と目を合わせ頷き合うと、

「じゃあ、先に食べるね。ありがとう。優しいんだね、矢田部くん」

 笑顔で言った。恭一は、顔が赤くなるのを感じて、下を向いた。隣で静流が笑う。


「おまえさ、かよが好きなんだな」

 答えに困った。が、鼓動が速くなっている。


「あ、あの…」

 やっとそれだけ言ったものの、言葉が続かない。かよ子がまっすぐ見てきているのを感じていた。が、顔を上げられない。


 その時、ウェイトレスが料理を持ってきて、テーブルに並べて行った。静流はそれらを見ると「へー」と言い、

「同じだな」

 口の端を上げて笑んだ。恭一は頷き、

「はい。同じです」

「それから、人の好みも同じだ」


 背中に冷水を掛けられるような気持ちとはこういうものか。一気に気分が落ちて行った。


「静流。なんでそういう言い方するのよ。矢田部くん、小さくなっちゃったじゃない。ご飯の味、わからなくなっちゃうよ。あなたって昔からそうよね」

「おまえは何にもわかってない。そうやって、平気で人を傷つける」

「前にも言ったでしょ。わからないに決まってるって」


 また言い合いが始まった。が、それほどにこの二人は仲がいいのだ、とわかった。これは、きっと今に始まったことではない。それでもずっとそばにいたのだろう。それは、どういう意味か、恭一は考えた。そして、絶望的な答えが見つかってしまった。


「そういうことですか?」


 が、恭一の言葉は、二人に理解されなかった。静流が首を傾げた後、


「キョウイチ。おまえ、何言ってるんだ? はっきり言いな」

「つまり、えっと…」

 言い淀んだが、どこからか力が湧いてきて、


「お二人は、付き合ってるんですか」


 恭一の発言に、二人の動きが止まったが、やがて静流が笑い出した。かよ子も一瞬遅れて笑い出した。勇気を振り絞っての言葉が、何故こんなに笑われるのか、理解できなかった。が、静流が恭一の肩を軽く叩くと、言った。


「そうだったらいいな、と何度も思ってきた。そこの人は、全然わかってないけど」


 静流はかよ子の方に向き直り、少しも笑わない顔で、


「かよ。学校時代から、ずっとおまえのこと好きだったんだ。今まで黙ってたけど、もう限界だ。っていうか、この少年に、気持ちの上で負けたくない。

 キョウイチは、さっき知り合ったばかりで、しかも年上のおまえに、全然ダメだろうって思ってたはずなのに、こうやって思い切って言ってきた。

 キョウイチに負けてる感じがして、恥ずかしい。

 出会ってからずっとおまえのことを想って来たけど、言えなかった。おまえ、全然わかんないから」


 言うだけ言うと、静流は、かよ子から視線を外し、俯いた。

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