陰陽の偽物
「清明殿!?」
男は驚愕した。二条に住まう友の
友の驚き様に、邸の主は首を傾げる。
「どうした?」
「
「なんと!」
男は目を丸くする。清明は一刻前から自分の目の前にいた。友の言葉が真実なら、今ゆるりと
「なんと
「いや、確かに清明殿であったぞ!」
背丈も高く、涼しげな顔立ちは見間違えようがない、と友は主張する。
「まさか、清明殿の法力か!? 式神か!?」
「
邸の主は興味津々、友は怯えたように清明に訊ねた。
すると、清明はまるで狐のように目を細めた。
「さて、どうでしょう」
空が白む頃になり、安倍邸に清明が帰ってきた。
清明は迷いなくある部屋へ向かい、その
「また勝手に出かけたな」
「おお、
叱ったというのに、意にも返さない様子で自身と瓜二つの顔がにまりと微笑んだ。
「またお前のせいで陰陽師の怪しさが増したではないか」
「どうせ、目に見えぬものは霊、異人を鬼・
風評被害が増した、と兄が苦情を申し立てると、弟は元から悪いと反省の色を見せない。
この二人、見ての通りの双子である。不吉だと騒がれるのを防ぐため、彼らの母の命で双子であることを隠し、二人一役で生きている。それが偽物の正体だった。
兄は長い溜め息を
「陰陽師など、吉兆を占うことで
学者染みた業務がほとんどだが、易術が含まれているために、法力があるなどと誤解をされている。陰陽術を学ばぬ者から正しい理解が得られず、迷信ばかりが出回るため兄は頭を悩ませていた。一方、弟はむしろ周囲の盲目ぶりを利用し人を
「理屈で
可笑しげに笑みを刷く弟の眼は
「
「人は変わらぬよ。限りある命だ。視えるものにも限りがある。どんなに我ら陰陽師が暦を刻み語り継ごうが、な」
「そうか?」
「そうさ」
まだ人を見限らぬ兄に、弟は
「ただ恐れるものが変わるだけの話よ」
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