ティータイム短編集
玉露
二学期の下校
「あち゛ぃ~……、夏が終わったなんてウソだろ」
帰り道、シャツの胸元をぱたぱたと引き、たくみは少しでも風を入れようとする。
その際に、顎から鎖骨を伝って汗が流れ、シャツの中へ消えていく。伝う雫を思わず眼で追ってしまい、ゆいこははっとなり慌てて顔を背けた。
「暑い暑いって連呼しないでよ。余計暑くなるじゃないっ」
「ゆいこの方が言ってるじゃん」
「う゛……っ」
「でも、これだけ暑いんだから、まだ夏だろ。そうだ……、夏はまだ終わってない!」
「終わったって。二学期もう始まってるし」
「終わってないんだよ!」
力説するたくみに、ゆいこは意味が解らず首を傾げる。
「補習のせいで、花火も海も行ってない!!」
遊べなかったから、夏休みが終わったと認めたくないと解り、ゆいこは呆れる。
「ほとんどの教科、赤点を取ったたくみが悪いんじゃない」
「ゆいこも取ったじゃん」
「たった二つだもんっ、補習もすぐ終わったし、たくみみたいに夏休み潰してない!」
「も~、サイアクだ。可愛い彼女と浴衣で花火みたり、海デートで水着見たかった……っ!!」
願望だだ漏れの悲痛な声に、ゆいこの眼は据わる。
「あっそ、残念だったね」
「いや! オレはまだ諦めない!! ゆいこ、今度の日曜プール行くぞ!!」
「なんで、私まで?」
ゆいこが首を傾げると、たくみが不思議そうに見返した。
「お前以外に誰と行くんだよ」
「でも、彼女って……」
「オレの彼女は?」
たくみの質問に、ゆいこは考えて気付いた事実に頬を染める。
「…………私」
「よくできました」
たくみは、指を組んで繋いだままだった手を持ち上げて、正解したゆいこの手の甲に、軽く唇を落としたのだった。
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