三百二十六話:


 これは酷い。


「そんなっ!? 美愛さんが……」


 人が苦労して造ったゴーレム砦でが酷い有様だ。

 そかしこが壊れている。

 いやそんなことはいいのだ、もはや九条先輩のゴーレム兵破壊で修復はお手の物だから。

 俺が酷いと言ってるのは糞尿だ。 

 マジ許さん、クソ蝙蝠どもがっ!


「覇王様から怒気がっ!」


「やはりハーレム候補だったか」


 蝙蝠の消化速度は非常に早い。

 だからすぐに大量の糞をするのだ。

 ゴーレムブロックは痛まないだろうが、乾燥した糞がエアロゾルとなって大気を汚染する。 許さんぞ蝙蝠どもっ。


「ふん!」

 

 蝙蝠の糞害に憤慨していると、栞さんが一点を見つめている。

 ツインテの訃報がショックだったのだろう。

 親友らしいからな。

 アンデットに連れ去られたのだ、今頃は食肉として怪物の腹の中だろうか。

 いやしかし、妙だな?

 ゴブリンや魚頭に連れ去れてた人はいたが、アンデット達に連れ去れた人は聞いたことがない。

 

「まだ、大丈夫……シンクさん。 美愛さんは生きています」


「ふむ」


 今にも泣きだしそうな栞を胸に引き寄せる。

 

「ただ、念話が届かないので、恐らくですが黒い靄の中だと思います……」


 生きているなら助けるか。

 いや、これが、狙いか……?

 

「……」


 栞も同じことを思ったのだろう。

 助けて欲しいとは言いださない。

 彼女は冷静な判断ができる優秀な指揮官だから。

 これが敵の罠だったら、救出に向かった人たちの被害が甚大になるのは目に見えている。


「……助けて、シンクさん」


 だから、俺の胸の中だけで、小さく叫んだ。


「任せろ」


 ポンポンと栞の頭に手をやる。

 

 ツインテとはいえ見捨てるのは後味が悪い。

 奥様の親友だしね。

 なにより俺の砦を糞まみれにしたんだ……落とし前はきっちりと取ってもらう。


「……クハ!」


 久々に暴れちゃうぞ。


 


◇◆◇




 暗い部屋を照らす紫の炎。


「ん……」


 目を覚ました美愛の肌を撫でるひんやりとした空気。

 炎が僅かに揺れている。

 彼女が動こうとするとガシャンと音が鳴る。


「……あー」

 

 自分の状態を見て一つ呟いた。

 彼女は薄暗い牢屋にいた。

 産まれたままの姿で手足を鎖につながれて壁に磔にされている。

 恥ずかしいという感情は無かったが、焦りが彼女の思考をクリアにした。


「捕まったかぁ……」


 敵に敗れて捕まった。

 そう理解してもなお、美愛に恐怖の感情はない。

 あるのは後悔だ。


「栞ちゃんに無理させちゃうなぁ……ごめんね」


 クールに見えて実は一番熱い心を持つ親友に謝罪する。


「みんなにも迷惑かけちゃうよねぇ……」


 自分の心配をする状況だというのに、他人の事ばかりであった。 


「……」


 一通りの後悔、いや懺悔を終えると彼女は瞳を閉じた。


「……楽しかったなぁ、もっと戦いたかった」


 思い返すのは世界が変わってからの数か月の出来事。

 存分に刀を振るった。

 抑え込んでいた感情を解き放ち、自分の命をベットして敵を斬り続けた。

 楽しかった。

 誰からも理解されることの無かった自分の本当の願いが叶った。


「もっと斬りたかったなぁ……パパも、ベルゼ君も……斬りたかった」


 美少女の最後の願いにしては色気のない。



「来たか」



 音が聞こえる。

 ぺたりぺたりと、死神の足音にしては柔らかい足音だ。

 

「……」


 両手両足を鎖に繋がれ武器も何も無い。

 けれど抜き身の刀のように美愛の剣気は高まる。

 

 『斬る』


 開かれた扉。

 姿を現した人物に対して全力の斬撃を放つ。


「「……」」


 しかし、斬撃は起きなかった。

 またしてもガシャンと音が鳴り美愛の両手両足が傷を負っただけだ。

 だけど届いた。

 ふわりと、フードローブのフードが浮き後ろへと落ちた。


「……女の子?」


 現れたのは紫色の髪のあどけない少女であった。


「おはよう。 剣士さん」


「喋ったっ!? ……日本語?」


 背丈は小柄な美愛よりも小さく、葵よりも大きいといったところ。

 あまり強そうには見えない。

 怪物だと思っていたのに喋った。

 しかも日本語だ。


「あたたちに聞こえるように、翻訳の魔法が掛かっているの」


「ほえー? 便利だね!」


 なんだかわからないが便利だ、と美愛は屈託のない笑みを向ける。

 そしてそれに少女は初めて微笑を崩す。


「……不思議ね。 怖くないの?」


「え? 何が?」


「……私は、あなたを攫ってきた、怪物なのよ?」


「あっ、そうだった!」


 本当に忘れていたような美愛のマヌケな顔に、少女は困惑する。

 

「戦っている時とはずいぶん違うのね」


「あは、よく言われるー」


「……」


 また微笑に戻った少女はなにか考えているようだ。

 美愛もまた少女を観察するがすぐにやめた。

 この少女は剣士ではないと、武に身を染めた者特有の匂いがなかったからだ。

 お嬢様学校にいた良家のお嬢様たちと同じ匂いがすると、美愛の興味はなくなった。


「少し、計画の変更が必要ね」


「ねー、おしっこしたい」


「……」


 少女の眉間を指で挟んだ仕草は、やけに似あっていた。






――――――――――――――――


KADOKAWA大変そうだな~と思ったら

私が昔ニコ動で買ったえちえち本が全部読めないのだが……('ω')?

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