二百六十八話:誤解でありますッ!
結婚式場で披露したような派手さは無い。
質実剛健。
まさにそんなガチャである。
「なっ!?」
『空飛ぶバイク』の秘密を知りたいそうなので、ガチャの実演だ。
しかし俺は引くことができないので、京極さんに引いて頂こう。
突如現れたガチャに驚きの表情を見せたが、すぐさに顔を引き締めた。
ゆっくりと近づき、検める。 さすが本職、厳しいチェックだ。
検分が済んだようなので、魔石を一つ渡す。
「ここに、当てればいいのかい?」
電子決済のように、タッチと描かれた黒い枠内に魔石を当てるよう促す。
【猫の手】の主人もビックリな速度で査定され、回数表示が浮かびあがる。
レバーを引くタイプではなく、グルグルと回すタイプのガチャだ。
一周回すごとに、中のカプセルが音を立てて掻きまわされる。
三周回せば、ゴトンとカプセルが落ちてくる。
「むっ!?」
手に持ったカプセルが割れ光りが辺りを包む。
さすがの京極さんも驚愕の表情を見せ、辺りの隊員は警戒を強めた。
「こ、コレは……?」
青いカプセルから排出されたのは『衣装』だった。
いきなりRランクを引き当てるとはさすだ、と言いたいところだが、初回サービスで高ランク確率UPのバフがついているのだ。
まぁSRまでしかでないガチャなんだけど。
結婚式のときの引出物ガチャでSSRはやめておこうと思ったのだ。
その代わり、初めて引くときは高ランクが出やすい仕様となっている。
「なるほど、この魔道具?……を使って、『空飛ぶバイク』を引き当てたと……」
理解が早いようで助かる。
京極さんも小さい頃にガチャをやったことがあるのかな?
このガチャで引き当てたとは言っていないけどね。
【ガチャ】で引き当てたのは間違いないが。
「魔石か素材、なるほど……」
ガチャの前でイケオジが真剣な表情をしていると少し変な感じだな。
アゴに手をやりよく観察している。
ちなみに魂魄でガチャを引く仕様は止めておいた。
いまさらだが、なんだか怖いよね。 俺はよく引いたものだと思う。
「鬼頭君。 無理を承知でお願いしたいのだが、この魔道具を貸してもらえないだろうか?」
予想外に食いついた。
どうやって設置する方向にもっていこうかと思っていたのに。
机に手をやり頭を下げる京極さん。
少し考えてしまうな。
どうしてそこまで気になるのだろうか?
バイクフェチとか……?
自衛隊の人ってバイクとか機械好きそうだし。
「もちろん、タダでとは言わない。 それなりのモノを支払おう」
「うむ」
タダでも全然よかったのだけど。
実験的な意味合いもあるし、まだまだガチャの筐体は設置できるから。
むしろ俺が場所代を支払うべきなのではないだろうか?
「ありがとう! 感謝する!」
いやいや本当に、申し訳ない気持ちでいっぱいですよ?
「まずは一週間試してみたい。 そうだな……魔石を通貨として用いてはどうだろうか? とりあえず、これぐらいでいかがかな?」
話しを勝手に進めてくれるので楽だな。
京極さんもお偉いさんだから、取引とかに慣れているんだろう。
サクサクと話しを進めてくれる。
主導権を取られている気もしないでもないが、まぁ経験か。
別の場所で設置するときの目安にいいかも。
「うむ」
お試しの一週間プラン。
一度引き上げて再度打診するときは一月定額プランとかね。
「取引成立だ」
再度、固く握手を交わした。
◇◆◇
神駆の帰った夜。
『指令室』
「梅香三曹。 何か言い訳はあるか?」
「はっ……申し訳ないであります!」
重厚なデスクを京極の指が叩く。その音は指令室に木霊している。
現在、指令室には二人だけであり、梅香三曹は極秘指令の失敗の責を問われていた。
トントントンと叩かれる音だけで、言い訳は発せられない。
「重要な任務だった。 貴様を信じ送り込んだ結果、我々はなんの成果も得られず、時間を無駄にすることになったわけだ」
「申し訳ないでありますッ!」
トントントン。
直立の姿勢で口を引き締め駐屯地指令の後方に視線をやる梅香三曹。
はぁ……と、ため息が漏れた。
「言い訳はないのか?」
「ないでありますッ!」
重要な任務であることは自覚していた、それに信じてもらえたことも嬉しかった。
だから梅香三曹は失敗した自分が許せなかった。
「……君のことは知っている。 素直で真面目な良い隊員だった」
少々真面目過ぎるぐらいだったな、と京極は懐かしむように微笑んだ。
藤崎駐屯地には約千人ほど自衛官がいた。
その中でも女性の自衛官は少なく、彼女のように特徴的な者は目立つ。 良い意味でも悪い意味でもだ。
若くそこそこにルックスも良い。
「それなのに、なぜ裏切る?」
「えっ?」
「私を馬鹿にしているのか? 貴様と共に任務へと赴いた二人は私を裏切り、多くの優秀な隊員を引き抜いて脱走したぞ?」
「それはっ……」
自分が聞きたいくらいであります!と梅香三曹は思ったが言い淀む。 京極は言い訳を嫌う、どういえばいいのか? 彼女が考え口に出す前に、京極は結論付けた。
「貴様の報告は肝心な内容だけ抜けている。 まるで都合の悪いことは『何も覚えていない』とでも言えと、言われたようではないか……なあ、梅香三曹?」
そんなことはない。 だが思い出そうとしても靄が掛かったように思い出せないのだ。
心が思い出すことを拒むように蓋をしている。
「……取り調べる必要がありそうだな?」
梅香三曹の表情を見て、京極はナニかあると判断した。
会話を聞いていたのか、縄を持った男たちが指令室に入ってくる。
初めからそのつもりだったのか、用意がいい。
「っ、誤解でありますッ!」
「証明してみせろ」
――――――――――――
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