閑話:沖縄一人旅


 困った。


「ぃやー、何者やん? ぬーしーがちゃん?」


 武器を持った原住民に囲まれた。

 なんて言ってるのか全然わからん。

 褐色肌のなかなか引き締まった体躯をした男たち。

 日本人なのだが、目元がクリクリしていてどこか異国風の顔立ち。

 そして謎の方言。


 そう俺は沖縄にきていた。


「いふーな格好しーやがってぃ。 ぬーが目的やん?」


 新婚初夜から三日。

 淫靡なる退廃的な生活を過ごしていたのだが、ふと青い空が見たくなった。

 あのまま甘い日々に溺れるのもマズイと思ったし、木実ちゃんの女神の双丘の影響か、とあることをすると無限にムスコが元気になるのだ。

 俺の体力も魂魄ランクの影響か強化されていたし、本当に無限にできてしまう。 

 自制心が大事だ。

 お猿さんと思われるのも嫌だから。


「ぬーやんくぬひゃー?」 


「わからん。 あったに、空から降てぃちゃん」


 沖縄の海。

 素晴らしい。

 とてつもない透明度だ。

 昔行った関東の海とはスケールの違う大海原。

 『監禁王の洋館』のは湖だからちょっと違うんだよね。

 アレも素晴らしいのだが、沖縄の海のエメラルドグリーンは別格。


 そうだ、新婚旅行は沖縄にしよう。


 『首都大阪』から2時間くらいでこれた。

 ちなみにまたたこ焼きを貰ってしまった。 あのお兄さんいい人だな~。

 お礼にまたお酒を樽で渡してきたよ。 マスクで表情は読めなかったが、きっと感謝してくれてるはず。 ……関西でたこ焼き渡したら早く返れって意味はないよね? 


「米兵が?」


「ちゃーだるう? やまとぅぐちゆどーたしが、まぁ喋りーるひゃーんうふさしが……」


 マズイな。

 謎言語を喋る人たちが集まってきている。

 老若男女問わず。

 わらわらと集まりだした。


 本当にココは日本か!?


「……」


 まぁいいや。

 白い砂浜に腰を下ろし海を見る。

 透明度の高い海。 地平線の先まで何もない。 空はスカイブルーだ。

 ちなみに白い砂浜はサンゴや虫の死骸らしい。


「良」


 これは……みんなも連れてきたいなぁ。

 となると、後ろで武装している人たちとも友好関係を築くべきか。

 しかし面白い武装だな。

 盾と短槍。

 盾が海亀の甲羅なのが沖縄っぽくていいな。

 

 そういえば、昔ジェイソンの修行で聞いたことがあった。


「ティンベー術」


 独特で多彩な武術が多いらしい。

 なんかトンファーの達人に習ったとか喜んでいた。


「くだみー」「やっちーぬーそーん?」


 ジッと海を見ていると害がないとわかったのか、子供たちに囲まれていた。 子供に怖がられなくなるとは俺も丸くなったものだ。

 大人はまだ不審者を見る目で後ろに控えているが。


 しかし武装しているなぁ。

 ここにも魔物が出るのかな?

 マップでは闘争地域になっているから、魔王の支配地ではないようだけど。


「ちゅーさぁ!」「ふぇーくふぃんぎら!」


 仲良くなる為に子供たちにお菓子を与え、一緒に砂の城を作っていると、急に辺りに緊張が走った。

 やはりこの傑作に慄いているのだろうか?

 城作りが楽しすぎて頑張りすぎたよ。 肌がピリピリしてるんだが、日焼け確定ですわ。 皆も熱中症にならないようにネペンデス君のジュースをあげよう。 


「「「あまーうぅい!」」」


 そうだろう? 甘いだろ? やっと意味の分かる単語が出て来たな。 この調子で沖縄語をマスターしよう。


 しかしなんか違うっぽいな~、みんなが謎の言語で騒ぎ始めている。


「お?」


 島が動いてる?

 そう錯覚したが、違うな。

 目の前に島のような何かが近づいてきている。

 

「怪物ぬちゃんどーー!」


 島のように見えたソレは巨大なカメの背だった。

 その背には無数の怪物が乗っている。

 魔物の襲撃だ。


(海から来るのか……)


 海に魔物がいるとなると、呑気に海水浴はできないなぁ。

 というか漁にも出られないのでは?


「魚頭」


 魚頭ではあるが、東雲東高校を襲った奴とは違い体も魚だ。 頭の部分もサメみたい。立派なヒレと水搔きを持っている。 なかなか強そうな見た目だ。

 上陸するぞ。


「またちーやがった……! 撃退すんどー!!」


「「「おおーー!!」」」


 海亀の盾を持った原住民たちは隊列を組んで迎え撃つ。

 サメ頭の怪物たちは爛々とその丸い瞳をギラつかせてにじり寄ってくる。

 今にも駆けだしてきそうな怪物のプレッシャーに、ゴクリと盾の向こうで息を呑む声が聞こえた。


「あ」


 ザッザッザッと白い砂浜を蹂躙する怪物の水掻きが、白い城を崩した。

 子供の悲鳴が聞こえ、俺の中でブチっとなにかがキレる。

 俺たちの傑作を!


「デックイグニス」


 詠唱に合わせ長剣を振るう。

 ギョッとする人たちを飛び越えて炎獣がサメ頭に喰らいつく。

 燃え上がる炎柱。


『『『シャアアアアアアアクッ!?』』』


「燃え尽きろ」


 ロックオンはサメ頭だけじゃない。

 そのデカイ亀の乗り物にも喰らいつく!

 特大の炎柱が大海原に上がる。


「「「ちゅらーー!!」」」


 大人たちが押し寄せる熱波に顔を顰める中、子供たちの歓声が上がる。

 そうだよな、俺たちの白砂城の仇はとったぞ!


「ヒヌカン!」


「シネリキヨッ!!」


 大歓声だ。

 

 なんだか知らないけど、もの凄い歓声が上がった。


 もうその後は大宴会だよ。

 宴会というか、もう祭りだ。

 神輿のような変なものに担がれて、島内を練り歩く。

 まるで神様のように扱われ、もう訳がわからないよ。

 木実ちゃんはいつもこんな気分を味わっていたのだろうか。


「ふぅ……」


 祭りは終わらない。

 新婚旅行にはとても来られそうにないな。

 ゆっくりできる気がしないよ……。


 

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