二百十九話:世界が変わってもクズはクズ

「ベルゼ君、それはグレートソードで出来る技じゃないんだよ?」


 ツインテはなにか言っているが知らん。

 彼女の技を盗み見て試していたのだ。 うむ、勉強になる。

 お父さんが『剣聖』とかいう凄い人らしいからぜひ教わりたいぞ。


「シン、あそこ!」


 『万軍の不死王支配地域』を巡回中。

 やけに魔物がたむろしている所が多く、魂魄集めに最適だ。

 狩りつくしても一定時間経つとまた復活している。

 復活といっても湧き出る訳ではなくて他の場所から流れてきているようだが。

 魔物はどうやって生まれるのだろうか?

 倒せば煙となって消えてしまうし、謎が多い。


「『SOS』だね!」


 マンションのベランダに『SOS』と書かれた布が巻いてある。

 アンデット系はあまり建物に執着しないようで、時たま逃げ遅れた人たちを発見する。

 それらに共通する点は少数のコミュニティということだった。

 聞けば避難所を襲撃されバラバラに逃げて来たらしい。

 大勢が集まる所のほうが危険だと判断し隠れていたようだ。


「大地の母よ、地に満ちて岩となり、我が敵を貫け!」


 葵の持つワンドは彼女の詠唱に反応して光を放つ。

 魔力の高まりを感じさせる。

 マンションの周囲にいた魔物たちがこちらに気づき向かってくる。

 両手に持つワンドで照準を合わせた。


「――アーススパイク!!」


 広範囲を対象に岩杭の山が咲く。

 下からスケルトンを砕き、ゾンビの肉を串刺しにする。

 その範囲は以前に見た時よりも広く威力も上がっている気がした。

 俺がいない時でも東雲東高校の付近で雑魚狩りを続けていた成果か。

 

「やるね!」


 残った雑魚をツインテと倒す。

 問題なく制圧したのだが……。


(トラップか)


 マンションへと進むとトラップが仕掛けられている。

 魔物対策だろうか?

 そもそもこのマンションは妙だな。

 避難している人たちは顔を出さないが気配察知には複数の反応を感じる。

 前に見た巨壁のある避難所が近いのだ、そこに逃げたほうが安全だと思うのだが……。


「あ、ありがとう、ございます。 こちらへ……どう、ぞ?」


 マンションから出てきた女性。

 痩せ細った体でもしっかりと化粧をしている。

 いや、なにかを誤魔化すように厚化粧なのか。

 俺を見てトラップのある方へと誘導し、背後の二人を見て固まった。


「だめっ、逃げてっ!」


 女性が声を発するのと同時。

 マンションから人が動く気配がする。

 ああ、そういうことかと、出てきた男たちを見て思った。


「はっ、女はガキかよ! もっとこうさぁ、いい女がいいぜぇ」


「うっ!?」


 逃げろと言った女性の髪を掴み胸を鷲頭掴むクズ男。

 汚らしい金髪に口と鼻にピアスをしているクズ男。

 絵に描いたようなクズ男である。


「シン……」


 周囲からも出てきた男たちに囲まれる。

 ヤンキー崩れの格好をした馬鹿そうな男たちだ。


「ねぇベルゼ君、斬ってもいいよね? いいよね??」


 おい。

 一番ヤバそうな顔で頬を赤らめるな。


「はははっ、怖くてだんまりかぁ? 武器と女ぁ置いてけば見逃してやるぜぇ?」


 世の中こういう馬鹿が増えていくんだろうか?

 治安の良い日本でもこれなのだから、海外はもっと惨いんだろうな。

 ニヤニヤと罠に嵌った獲物を見るようにこちらを見ている。

 

「おっ、バカが!」


 あえてワイヤートラップに足を踏み入れる。

 女を抱く男が顔を歪め愉悦の表情を見せる。

 横の壁からもの凄い勢いでドラム缶が押し寄せてくる。

 上に吊ってあったのだろう振り子のように俺の体を横から打ち付けた。


――ガァン!


 右腕の一振りで弾き返す。

 振り子のようにドラム缶は元の場所に戻り、吊り下げていた道具を破壊し天井へと衝突した。 振り子を繰り返すことなく重力に従い地面に落ちる。


――ガァン!


 その光景を見ていた男と女の視線はシンクロするようにドラム缶の行方を追っていた。

 戦場で目を逸らすとは命取りだな。


「は?」


 一瞬で距離を潰し間抜けな声をだす男の顎を撫でる。

 顎関節が外れ下顎は限界まで顔の外へと向かう。

 それを戻すように逆側からもう一度顎を撫でる。

 目を回す男の顎を掴み元へと戻してやる。


――ゴチン!


「ひぁぁ……」


 目をパチパチと瞬かせる男の顔を覗き込めば、恐怖に染まっていた。

 男と女どちらのものか分からないが、地面からはアンモニア臭がする水溜りが出来ている。

 男の髪を無造作に掴み、ブチブチと音を立てながら地面へと押し込む。


「あがっ!?」


 ツインテが近づいてくる男たちを切り伏せるのを見ながら、男を地面に繰り返し叩きつける。

 ダンダンダンとマンションに響く。 男の低い呻き声がベースのようでいいね。

 良い戦闘BGMなのでは?


「おお?」


 葵に近づこうとした男が障壁に阻まれた。

 葵の背負ったトランクケースが僅かに光っているので、トランクケースの能力だろうか? そういえばノズがせっせと魔石を吸収させていたけどそれのおかげだろう。

 

「ライトニング」


 稲妻が障壁に阻まれた男に直撃する。

 激しい音と稲光に襲撃してきた者たちの動きが止まったようだ。 

 プスプスと全身を貫かれた男の体から煙が立ち上り糸を切られた人形のように膝をついた。

 葵の手元からカードが光となって消えていく。

 葵さん容赦ないっす。

 シャム太とノズが葵の横で控えているが、戦えるのだろうか?

 

 シャム太のおもちゃの剣は鋭く、動きも軽快だ。

 たとえやられてもしばらく時間が経てば復活できる装備品と同じ機能がある。 破損や大破率で復活までの時間が変わるようである。 

 杖を持つ魔術師タイプのノズはどうやって攻撃するのか?

 そう思っていると、肉球弾が男に向かって飛んでいく。


『ニャァ』


 肉球弾が男に当たると猫の鳴き声が木霊した。


「わっ!?」


 当たった男はふらふらと頭を押さえてその場で立ち止まってしまった。

 数秒して頭を振り立て直す。

 ダメージは無さそうだがスタン魔法なのだろうか?


「っ!?」


 男が意識を取り戻すころには全てが終わっていた。

 囲むといっても俺が倒した男を含めても6人程度だ。

 残りの4人もツインテが瞬殺した。

 本当に殺してはいないけど、指とか飛んでるけど?


「弱すぎてつまんないよー」


「ヒッ……」


 横に構えた刀の先が男の喉に触れ赤い血がスッと落ちてくる。

 ツインテの向ける表情がゴブリンに向けるソレと変わらない。

 まぁ実際違いなんてないのかもしれないけれど。


「どうしよっか?」


 男どもは縛って放置でも良いだろうが、被害にあった人たちは避難所に連れて行こうか。

 まだ上に何人かいるのが気配察知に反応している。

 これだけ下で騒いだのにピクリとも動く気配がない。

 男どもの仲間ではなさそうだ。


「ぎゅぎゅ、しゅてぇ」

 

 おっと、地面に口づけさせていたクズ男を忘れていた。

 一度隣の女性を見てから、思い切り地面に叩きつけた。

 なんとも言いずらい表情で男を見ていた。


「縛れ」


「ひ!? ――――ひゃい!!」


 残った最後の一人に仲間を縛るように命令する。

 こんなやつら連れて行っても迷惑かもしれないが、一応連れていく。

 見殺しにしてもツインテは気にしないかもしれないが、葵はわからないからな。

 

 さて、いよいよ接触しますかね。

 なんだかんだと狩りをしながらパーティプレイの練習をしていたけど、そろそろ巨壁の避難所、いや拠点というべきか、に接触しようか。

 巨大な壁は領地の機能だと思う。

 つまり領地化に成功している戦力を持っているということ。

 人数も多かった。


 緊張するね。


「どうやって連れてくの?」


「ふむ」


「車……乗せる?」


 ワゴン車に乗せて『ブラックホーンシャドウ』で引っ張って行こうか。

 それほど遠い距離でもないのでなんとかなるかな。

 





――――――――――――


そういえば昔、こんなタイトルの小説を書いていた気がする……!

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