百八十二話:剣筋
面白い。
「はぁっ!」
大剣とは違う太刀筋。
小刀の短さを活かした軌道でフェザーダガーが振るわれる。
腕と体の間を通るように一直線に最速の道を通ってくる。
長い剣では体を切ってしまうが、短いゆえに使える最速の剣筋。
「ふっ!」
手首を返すようにトドメの二撃目も飛んでくる。
「……」
知っていなかったら危なかったな。
小太刀術……か。
彼の人の使っていた技に似ていた。
「さすがシン兄ちゃん! 普通に躱されたーー!」
うん。
躱さなかったら首切られてたよ?
信頼の証だよね……?
なにか恨みでも……。
時間を持て余したのでリョウと模擬戦をしている。
円ちゃんに小太刀術を教わったらしく戦いに飢えている。
明確な目標を持っているからだろう。 強さに貪欲である。
「……」
翼があるからかな?
こちらの攻撃を体全体で大きく避けている。
背中にピッタリと畳んでいるが、多少は的が大きくなる。
近接は不利になるかと思いきや、上手く使えば武器になる。
超低空から一気に頭上を取ったり、急静動にも利用している。
ブラックホーンリアを使った俺の動きにも似ていた。
「お待たせして申し訳ありません、シンクさん」
黒髪ロングが起きたのでミーティング。
伊織さんがタオルとレモン水を持ってきてくれた。
有能マネージャーかっ。
「『クラフトワークス』? 秘密結社っぽいね!」
秘密結社っぽい? 俺はなんかネトゲのクラン名っぽいなと思ったよ。
「皆無事で良かったぁ……でも、あの大人数で押しかけて大丈夫なのかな?」
いきなり人数が増えて大変だろうね。
援助はするけど俺一人じゃ限度はある。
服部先輩も街道整備に動いてくれていたから、いずれ交流もできるだろう。
「私たちも何かサポートできれば良いのですが……」
ゴブリンとアンデット系の侵攻を防いでいるから十分では。
あそこの位置は他の避難所をバリケードにしているようなものだ。 土地勘のある人たちなのだろう。
もしくは魔物から逃げて最後に行き着いた場所か。
「藤崎市の方はどうなのでしょうか? 自衛隊の方々は帰られましたか?」
そういえば、『きになります』の人だけ残して帰ってたな。
なにかあったらしくしばらく療養させてほしいとのこと、ほんと一体ナニがあったんだろうね。
僕知らない。
藤崎市も気になるが、周辺の魔物に備えたほうがいい。
アンデット系の勢力も着実に領土を増やしてきている。
「そうですね、まずは地盤を固めましょう。 できれば私たちも東雲東高校と交流を持ちたいのですが」
お嬢様学校と交流を持てるなんて聞いたら、うちの男子どもが張り切りすぎて怖いぞ。
服部先輩に相談しておこう。
それとは別に個人的に藤崎市の様子も見てくる。
鶏肉……じゃなかった、バード系の魔物の調査もしたいし、藤崎市の【猫の手】の場所も探したい。
東雲市役所の時のように地下にある可能性もあるし、大変だ。
でも鶏肉とか卵とか交換出来たら最高じゃない?
それと琥珀色の魔結晶を渡す。
これはゴブリンの中継拠点で強奪してきた物だ。
ボスゴブリンには逃げられたけど、魔結晶だけ奪ってきていた。
恐らく土属性、なのかな?
「ありがとうございます、シンクさん」
前の綺麗なウ〇コと合わせて二つ目か。
後、二つ。
綺麗なウ〇コは土か闇かはたまた毒の可能性もありそうだが……。
できれば水と火を手に入れたほうがいい気がする。
どう影響するのかわからないが、【猫の手】の主人の言い方からして。
◇◆◇
作戦室に重い空気が流れる。
「梅香3曹が?」
「はい。 心を病んだようで、PTSDかもしれません。 戦力的に厳しい状況でしたので、東雲東高校にて保護して頂いています」
「……そうか。 救助を送りたいが、こちらの状況も差し迫っている。 拠点の問題解決を優先させたいが、問題ないか?」
「はい、あちらの領主にも許可は頂いています」
「
梅香三曹のことは残念だったが、今回の情報収集任務は成功だ。
『京極 武蔵』はレポートに目を通し今後の指針を決めた。
「領地化に向け動くぞ。 民兵の招集も認める。 山木3尉を中心に組織し、藤崎市街地を散策、敵の掃討、物資の収集を任務とする」
「っはい!」
避難民の戦闘員化には難色を示していた『京極 武蔵』の急な方向転換に面を喰らうが、山木にとっては最良の指令である。
失礼します!と張り切って去っていく。
「よろしかったのですか?」
戦力を持つことでの避難民の暴徒化。
精神的な訓練を受けていない者が強力な力を手に入れれば、抑えられない危険を伴う。
また保護するべき一般人に犠牲者を出す可能性もある。
駐屯地を預かる駐屯地指令としては容易に許可できなかった。
「仕方あるまい。 他からの支援は期待できない以上、我々でどうにかするしかない。 領地化し領主になれば、暴徒も押さえつけられるだろう……」
詳細がわからないという不安はあるが、すでに政府への見切りはつけている。
報告の為に作っていた書類もすべてダンボールにぶち込んだ。
すっきりとしたデスクを指でトントンと叩きながら京極はため息を吐く。
「梅香3曹は、……いや、なんでもない」
「……」
握手の痛みを思い出すよう手は震え邪悪な笑みを思い返す。
「戦力強化は必須だ。 我々の手で、護らなければならない」
必ず……と、その震える手を強く握りしめた。
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