百四十話:
困惑する山木3尉。
太鼓を叩く音が彼らの耳朶を打つ。
ドォン! ドォォン! ドオオオン!!
すわ敵襲かと皆が構えた。
しかし周囲に魔物の気配はなし。
「高校の中からでしたね」
「急ぐぞ!」
疲れた体に鞭を打ち、自衛隊員たちは駆けだす。
太鼓の音のする場所に急げは大勢の人たちが集まっていた。
なにをしているのだろうか?
何人かはこちらに気づいているようだが、熱狂に負けた。
普段、避難所に顔を出せば大勢の人たちに頼られるのだが。
一切そんな人たちはいなかった。
自衛隊に期待する者など皆無であった。
「な、なにをしているんだ!?」
武装する者たち。
鈍器、槍、大剣と様々な武器を持ち、レザー防具をつけている。
各自のファッションセンスか『猫の手』で購入したノービスシリーズやワイルドドッグシリーズを改良している。 ファンタジー感の強い見た目の集団になっていた。
そんな彼らの中心。
石造りの舞台があった。
そこでは槍の穂先に赤い布を巻いた服部と、見た目60歳くらいのおばあさんが対峙していた。
「危ないっ!」
青年の鋭い突きが老人へと放たれる。
思わず叫ぶ山木。
なんてことをするんだと、憤りで睨みつけるが杞憂であった。
「うああ!?」
老婆の持つ薙刀に簡単にあしらわれている。
落ち着いて見れば老婆の動きは熟練者のそれであり、青年のほうはまだぎこちない。
薙刀を持ち構える姿は凛としており背筋は伸び脚は地に根を張るが如く安定している。
「ふぉほほ!」
米子婆さん98歳。
つい数週間前までは腰の曲がったよぼよぼのおばあちゃんであったが、魂魄ランクの上昇、木実の聖水の力、さらに領地バフによって60代くらいの見た目まで若返った。
曲がっていた腰も徐々に直る。
靄がかかったように遅かった思考も、今では普通に思い出せる。
老人たちの信仰心はMAXである。
「凄いっ」
「頑張れ服部ー!」
「米子ばあちゃんかっけぇーー!」
もともと曲がった腰で高速移動し魔物を倒していた米子婆さんである。
昔のように動けるのが嬉しくてついつい張り切りすぎてしまった。
妖怪と間違われることもあった。
ただ腰の曲がりが戻り若返った今では、まさに奇跡の人である。
「達人っすかね?」
自衛隊員たちは気づかない。
自分たちの連れてきた民間人の困惑のベクトルの違いに。
彼らは思う、どうしてここの人たちはこんなにも明るい? どうして生き生きとしている?
武器を手に熱狂する人、仕事の手を休め応援する人、小さな子供たちも楽しそうに笑っている。
少なくともこの場には悲壮な面持ちでいる者たちは見えなかった。
駐屯地に蔓延する悲壮感はなかった。
「……」
もとよりその空気が嫌で飛び出したに等しい彼らには眩しかった。
彼らが戻った時、駐屯地にいる仲間になんと伝えるのだろうか?
「あら、山木さん。 お久しぶりですね?」
そして特大の爆弾は投下される。
「ふぁ!?」
まるで映画の中から飛び出してきたような、とびきりの美女がお出迎えする。
寺田の間抜けな声。
以前にあった時よりも、玉木の美しさに磨きがかかっている。
麗しきエルフは上機嫌なのか全ての男を魅了する笑みをもって挨拶にきた。
ファリードレスの谷間は毒だ。
若い男性、戦闘によって興奮している体には特に。
目の前の美巨乳エルフから有志の民間戦闘員7名の目は離せない。
聖銀のネックレスが光る。
「あ、ああ。 みなさん、元気そうでなによりです……」
「ふふふ」
エルフは語らない。
ただただ悠然と微笑む。
「それで今日はどうされたのかしら?」
「ああ……」
本来の目的は『魔王討伐』を誰がなしたか、どうやって?
その最重要人物の調査であるが、それを直接言えば警戒されるだろうと、山木は表向きの任務を伝える。
周辺地域の現状確認。
「そうですか。 シンク君が見学させてもらったと言っていましたし、ご自由に見学して頂いて構いませんよ?」
「助かります」
「ああ、ただし」
まるで東雲東高校の責任者であるかのように、いや女王であるかのような玉木の言葉。
実際周囲には女王を守る近衛兵が待機している。
「西校舎の3階には近づかないほうがいいわ」
微笑むエルフ。
「なぜ、です?」
山木は心臓を鷲掴みにされたように苦しい。
返答はなく、エルフは微笑み去っていく。
「はぁぁ……」
「なんか疲れたっすね……。 梅香、大人しかったな?」
寺田は梅香が暴走して質問の嵐を繰り出したら、羽交い絞めにして頸動脈を極め絞め落とすつもりであったが、思いのほかというか、借りてきた猫のように静かな梅香を訝しんだ。
「完全敗北です。 彼我の戦力差がありすぎであります。 無理です。 完全無欠のエルフ相手にどうしろと……」
「はぁ?」
ブツブツとどんよりした梅香に寺田は困惑した。
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