百三十八話:福音


 世界中に福音は響く。


>>>【ワールドアナウンス】

>>>人類による魔王討伐を確認しました。 【神々の祝福】を発動します……。

>>>……ジョブシステムを開放しました。


 脳内に流れる機械音声のようなアナウンスはあらゆる言語に翻訳された。

 地球に住まう全ての危機に瀕する人たちに届けられる希望の福音。

 

 一体誰が?

 どこでどのようにして倒したのか?

 詳細は一切不明。

 

 もしネットが使えていたなら今頃はお祭り騒ぎで犯人・・探しにやっきになっていただろう。


 そして彼のことを知る人物達は思う。

 ひょっとしてまさか……!と。

 

 神鳴館女学院付属高校の作戦室では『一ノ瀬 栞』によってリリス隊の強化プランが練られ、神駆特別室の改良までが計画されていた。

 『仙道 美愛』は落ち着かない様子で剣を振るう。

 次に会うまでに剣の腕を少しでも磨くために。

 リリス隊に選ばれない脳筋女剣士は武を鍛えるのだ。

 

「ああ、早く逢いたいなぁ~~ベルゼ君!」


「お姉様……」

 

 『鳥居 円』は複雑であった。

 慕っている美愛お姉様の想い人にハニトラを仕掛けるが見事玉砕。

 自身まで落とされそうになる始末。 

 『一ノ瀬 栞』にはよくやったと褒められたが、複雑であった。

 次こそは鳥居流忍術で落として見せると再戦を誓うのである。



 藤崎駐屯地。

 

 「……魔王討伐?」


 疲弊しきった自衛隊員たちの隊舎。

 かんめしで僅かな休息をとっていた山木と寺田の元にもアナウンスは届く。

 

「まさか……鬼頭君だったりして、なんて、ないっすよねぇ……?」


「……」


 寺田の脳裏には超大型怪物を圧倒する神駆の姿。

 嗤いながら魔王を倒していてもおかしくないと、ブルリと震えた。

 山木は難しい顔で何か考えているようだった。 


「山木っ、寺田っ! 京極指令が指令室でお待ちだ! すぐにこいッ!」


 無情にも僅かな休息の時間は奪われる。

 かんめしはうまい。

 最後に取っておいたハンバーグをかっこむ寺田を呆れた様子でみる山木。

 

 駐屯地の様子は悲惨なものだった。

 到底足りないのだ。

 避難してきた住民の数に対して自衛隊員の数が。

 ボランティアを募りどうにか回しているが限界はくる。

 戦闘員もそうだ。

 敵戦力もその総数も未知数。

 心と体が削られていく。

 そして武器弾薬、食糧にも限りはある。

 

 状況は良くない。

 それは自衛隊員総意であった。


「忙しいところすまいな。 ……先ほどのは聞こえたな?」


 指令室にて『京極 武蔵』は3名に向け指令を出す。


「山木3尉、寺田2曹、梅香3曹。 至急確認し報告せよ!」


「「「承知しましたッ!!」」」


 作戦内容は周辺地域の敵勢力の情報収集である。

 だが、地図で示した場所は一か所のみ。

 そしてこのメンバーだ。

 なぜ梅香まで呼ばれているのかは不明だが、山木と寺田は自分たちの役目は分かっている。

 神駆へと接触し、情報収集。

 情報は重要である。



 そして世界中に衝撃を与えた当の神駆は悩んでいた。


「ふむ……」


 目の前にはガチャのウィンドウ。

 リミテッドガチャである。

 黒のガチャは残念ながら期間終了してしまい、もう回すことはできないようだ。

 ひょっとしたら再販もあるのか?

 わずかな期待は残している神駆。

 

 排出率アップガチャ。

 神の奇跡に比べると、いささかしょぼいアップ率。


 当たり確定天井ガチャ。

 これは一定回数回せば必ずそのガチャの目玉である商品が手に入るというもの。 良心的なように見えてこれは罠かもしれない。 騙された経験から神駆はあまりこのタイプが好きではない。


 そしてもう一つは、『今のあなたに最適ハウジングガチャ』である。

 なんだそのネーミングは?と訝しむ神駆であった。

 ただ最適だというのはわからなくもない。


 なにせ不自由なのだ。

 水電気ガスの止まった、今まで当たり前のようにあったライフラインが止められてしまった生活というのは。

 神駆に至ってはジェイソンのNINJYA修行があったのである程度耐性はあるのだが。

 普通の女子高校生たちにはツライ。


 つまりだ。


 この『今のあなたに最適ハウジングガチャ』をパーティで共有できるなら……。

 木実ちゃんたちの好感度うなぎ登り間違いなし!


「く、く、くくく!」


 次のリミテッドガチャは『今のあなたに最適ハウジングガチャ』に決めた神駆であった。






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