百一話:バード


「グココココ、グココココ」


「……」


 ニワトリを想像していた俺の前に、デカい怪物が現れた。

 山木さんが好戦的で危険な怪物とよんでいたバード。

 やる気満々でうなり声をあげている。


(ニワトリではないなぁ……)


 ニワトリをそのまま大きくしたというよりは、ダチョウにちかい。

 緑色の体毛。胸元はカラフルだ。

 小さな顔に猛禽類の目が光る。


「む!」


 見た目通り速い。

 縮めた首を放つ鋭い嘴による突き。


「っ!」


 飛ばないといってた翼が開き、前蹴りを放ってきた。

 翼を開いたことで滞空時間を稼げるのか、数発の連続蹴りだ。

 ヴォルフライザーで受ける。

 スピードもパワーもなかなかだ。

 もし群れていたら危険な魔物かもしれない。


「はっ!」「らあっ!」


 左右から二人がバットとバールで襲い掛かる。

 バードは飛んだ後は無防備なようだ。


「グココココ……」


「よしっ!」


 運動神経のいい人ってなんとなく見た目でわかる。

 この二人、『吉田 太陽』と『斎藤 一華』もそうだった。

 もしかすると、俺の能力が上がった影響で相手のステータスを感じ取りやすいのかも?

 確証はないけれど。

 

「とどめよ」


 『斎藤 一華』の放ったバールがバードの小さな頭にめり込んだ。

 一切の躊躇がない。

 真顔で撲殺できる素敵なお姉さんです。

 いいね。

 運動神経があっても戦闘できるかは別物だ。

 ミサも最初は酷かった。ダメでも慣れるまで追い込めば問題ないが。

 

「案外やれるもんだな」


 1対3だからね。

 敵の数が増えるごとに難易度は跳ね上がる。

 

「羽」


 ドロップアイテムは小さな魔石と羽だった。

 何体か狩ってみたけど肉も卵も落とさない。

 やはり猫の手で売って販売品を増やすしかないか。

 しかし一つ懸念事項がある……。

 東雲東高校の近くの猫の手で売ったとして、ちゃんと販売品は増えるのか? という問題だ。


「……」


 黒の魔皇帝とかいうやつのせいで、どこかゲームのような仕様が多い。

 そうなると増えないという可能性もある。

 この周囲の猫の手を探しておく必要があるかも。


「次、いきましょ」


「ああ! いこうぜ!」


 野宿はしたくないから今日は探さないけど。

 頼もしい新人たちと共闘しつつ、東雲東高校を目指す。

 今回の遠征は大成功だな。

 魂魄がっぽりに魔結晶、それに戦力2名の追加だ。

 東雲東高校は犬に魚に忙しいから、やる気のある人材は大歓迎ですよ。

 朝から朝までみっちり働ける。

 生き残ればすぐに強くなるよ、二人とも。


「いくよ」


「よっしゃああ!!」


 帰ったらみんなにも相談しようかな。

 伝わるといいのだが。



◇◆◇



 『吉田 太陽』と『斎藤 一華』の二人が東雲東高校にたどり着いたのは夕方であった。

 日は暮れ始め街灯の無い街は闇に包まれていく。

 駐屯地にいれば今頃は炊き出しの手伝いでもしていただろう。 電気はなくスマホもテレビすらない場所で人が集まる。 恐怖と不安で避難している人たちは不満を漏らしていた。

 それは最悪の空気だった。 二人は集団から離れて自衛隊の手伝いをしていた。 そのほうが気もまぎれるし、なによりそんな集団の側にはいたくなかった。


「「っ!」」


 東雲東高校の夕方というのは忙しい。

 主に夜に襲ってくる野犬と朝から夕方にかけて襲ってくる魚のダブルパンチだからだ。

 人と魔物が争い、魔物同士ですら縄張り争いを行う。

 けたたましく聞こえる争いの音に、二人は驚いた。


「た、助けにいかないと!」


 校門に殺到する野犬の群れと対峙する学生たち。

 それを見た吉田は走り出す。

 しかしその心配は杞憂だった。


「構え! 突けぇっ!!」


 低い位置から襲い掛かる野犬を相手に、学生兵たちはさらに低い位置に竹やりをカートに装着し待ち構えた。

 号令と共に押し出される竹やり。

 可動式槍衾だ。

 ジャンプして回避した野犬には野球部のバットが炸裂する。


「おお!」


 東雲東高校では常に新しい作戦が考えられ実行される。

 みれば男も女も、小学生くらいの子供も、70歳を過ぎていそうな老人ですらもみんなで戦っていた。

 そこには確かな団結力があった。


「すごい……」


 グラウンドからはいい匂いも漂ってくる。

 電気もスマホもテレビもない。 人が集まって喋るのは一緒だったが、こちらはまるでお祭りのようだった。

 人々が困難な状況で頑張って必死で生きている。

 今を乗り越えようとしている。

 

「「……」」


 その光景を見た二人は、自分たちの選択は間違っていなかったと安堵した。

 

 

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