九十七話:藤崎駐屯地

 大喝采。


 山木さんの案内で藤崎駐屯地に入ると大勢の人が待っていた。

 それも歓迎ムードだ。

 拍手の嵐とはこのことか。


 初めて駐屯地の中に入ったな。

 戦車や榴弾砲が準備されていた。

 ひょっとしたら手助けは必要なかったのかな? まぁ弾薬節約に貢献したということで。 魔結晶は渡さんぞ。


「凄いっすねぇ、さながら英雄の帰還っす~」


 三下っぽい喋りかたをする寺田もいた。

 身分証をアイドル系アニメキャラでデコっていた強者だ。

 そういえばコイツ、玉木さんをエロい目で見ていたな?


「はひっっ! どうしたっすか!?」


 冗談でヘルメット潰そうかと思ったら逃げられてしまった。

 なかなかに感が鋭い。


「……コスプレ?」

「外人さんかな?」

「ハリウッドスターみたいだな」


 ありがとう!や助かったなどの声に紛れてコスプレイヤー扱いや外人なのかなどの声も聞こえる。

 クォーターではあるけど。

 そういえば、ガードドッグイヤーが浸食されている影響で銀と紺碧の混ざったような、現実離れした髪色してるんだよね。髪も伸びちゃってるし。光の加減で光るし。

 ハリウッド映画とかで出てきそうではある。

 ちなみに装備解除すれば元に戻る。 怖いのが浸食されたガードドッグイヤーは戻らないということだ。

 ≪ベルセルク≫怖すぎィ!


「あらためて礼を言わせてくれ。 助かった、ありがとう鬼頭君!」


 相変わらず漢を醸し出す山木さんと握手を交わした。

 避難してきていた人たちと自衛隊員の方たちからまた拍手の嵐が起こった。

 なんだろう?ずいぶんと温かい場所だな。


「……」


 グラウンドには多くのテントが張られている。

 東雲東高校でもお嬢様学校でもやっぱりこうなるよね。

 おお、丸いドームのような貯水タンクがある。なんか可愛い。野外入浴できるテントコーナーとはなかなかに機能性だ。

 お嬢様学校の天然温泉には勝てないが。

 東雲東高校でも風呂設備が欲しいな。

 部活棟とかにシャワー室はあるけどお湯はでないんだよね。


(しかし、これは……)


 人が多い。

 いったいどれだけの人が避難してきたんだ?

 ああ、自衛隊員が積極的に避難させてきたのか。

 お嬢様学校でやっていたことをプロがやった結果だろう。

 しかも忖度せず全てを受け入れて。

 ガラの悪そうな奴とかが集まっている場所もある。

 

「……」


 黒髪ロングはその点きっぱりしていた。 粗相したら去勢して即刻退去とか脅されたからな。

 備蓄とか大丈夫なんだろうか?

 日本の災害対策って基本プッシュ支援型って呼ばれてて、被災地に別の場所からどんどん支援物資を送り込む。

 でも今ってどうなってるんだろう?

 猫の万屋の話しの感じ、地球規模で起こってそうだけどな。

 魔皇帝争奪戦このお祭り


「少しいいかな?」


 人だかりを割って、雰囲気のある軍服の人がやってきた。

 陸自の人は迷彩服を着ている。

 帽子を取りにこやかな笑顔でこちらをまっすぐと見てくる。


「駐屯地指令の『京極 武蔵』だ。 今回の助力感謝する! 君のおかげで犠牲者を出さずに超大型級を排除することができた。 ありがとう!」


 ビリビリと圧を感じる、言葉に力があるね。

 自分よりも背が低いはずなのに大きくさえみえるとは。

 こういうところのお偉いさんてのは凄いんだなぁ。

 俺は笑顔でだされた手を取って握手した。

 ちょっと嬉しくてはにかんだ笑顔になってしまったがご愛嬌だろう。


「っ!」


 これを見ていた人たちからはまたまた拍手喝采だ。

 山木さんはなんだか驚いていたようだけど。

 

 颯爽と帰っていく姿も様になってるな。

 


◇◆◇



 一人になった指令室で『京極 武蔵』は腫れた手を水で冷やしていた。


「くっ……どういうつもりだ?」


 あの邪悪な笑みはなんだ。

 骨さえ砕かんばかりの握手は!


「はぁ、はあ……」


 全身に嫌な汗を掻いた。

 かつてこれほどまでに悪寒がはしったことがあっただろうか?

 ああ、一度。

 元アメリカ特殊部隊のエースだった男にあった時以来か、と京極は椅子に腰を掛ける。

 コップに入ったぬるい水を呷った。


「……対策は考えておかねばな。 誰か草をつけるか」

 

 様々な報告書で埋もれるデスク。

 異変が起きてからは怒涛の時間が過ぎた。

 その分だけ報告書の山は高くなる。

 

 京極は引き出しの奥から名簿をだし眺めるのだった。


―――――――――――――――




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