九十四話:

 軽トラで東雲東高校に突っ込むと軽い騒動となったが、犯人が俺だと分かると納得して収まった。

 荷台に乗せた狛犬像がなぜかご老人たちに大人気。

 曰く、アマミク様の守護獣像であらせられると。

 なんでや。

 

「気をつけてね、シンク君」


 なんだか魅力の増した玉木さんに新妻の笑みで見送られ、また探索に向かう。

 今度は橋のほうに行ってみよう。

 雷川いなずまがわに架かる藤崎大橋。

 東雲市と藤崎市を結ぶ大きな橋だ。

 越えた先には藤崎駐屯地がある。

 以前にお嬢様学校で出会った3人の自衛隊員たちの所属先だ。

 学校の帰りにコンビニに寄ってると、たまに自衛隊の車両とかみかけたことがあったな。


「これは……」


 ブラックホーンリアの機動力。 屋根上パルクールと忍者走りの合わせ技で最短距離で突き進む。

 バトラータキシードは大破中なのでR『朧風月』を着用中。 先日の黒のガチャから出たものだ。

 黒の羽織装束。

 月と雲の絵柄がクールな和装。

 中は着物ではなく忍者衣装みたいで動きやすい。

 なんらかの機能はありそだが、不明だ。

 そのうちにわかるだろう。

 今はそれよりもこの惨状・・が気になった。


「……」


 いったいどんな怪物が暴れまわればこんなに車が散乱するんだ?

 魚頭や野犬が暴れまわったところで住宅や道路に被害はでない。

 だけど……橋を越えた先、藤崎市内に入ると倒壊した住宅や横転した車などが目立つ。

 わりと田舎の市ではあるのだが、市内はそこそこに住民も住んでいる。

 自衛隊の駐屯地は少し外れた森の中にあったはず。


「行ってみるか」


 俺は自衛隊の駐屯地を目指し出発した。



◇◆◇



 藤崎駐屯地は自然災害や有事の際は空中機動を活かし全国へと隊員を派遣できる優秀な駐屯地だ。

 敷地内には隊員が訓練や学習を行う施設が多数有り、武器庫もある。

 現在車両は動かせないが戦車も保有している。

 売店では衣類や食料品に日用雑貨などなんでも売っている。

 災害に備えた備蓄もある。戦闘用糧食も合わせれば500万食ほどは確保している。

 しかし補給の無い現状では、沢山の避難民を賄う限界がくるのは遠くはない。


「どうしてわからないんだっ! 上の連中は……」


 坊主頭の厳つい自衛隊員、山木は苛立っていた。

 民間人の起用に反対をする上の連中。

 その原因の一端が自分の失敗であるとわかっているからこそ、苛立ちも大きい。


「仕方ないっすよ~。 一般人になにかあったらたいへんっすから~」


 同じ会議に出席していたはずなのに、寺田は飄々としていた。

 

「くっ、お前だって目の当たりにしただろう? その一般人の強さを!」


「まぁそうっすねぇ……」 


 でもアレは特別だと思いますよ?と寺田は呟く。

 現に自分には不可能だ。

 漫画やゲームの主人公のようにはなれない。

 現実は厳しい。

 世界が混乱に陥った時、寺田は真っ先に自分の可能性を試した。

 そして絶望した。

 自分はまごうことなき一般人であると。


「……」


 陸上自衛隊という特殊な組織にいるのだ。

 いかにちゃらんぽらんに見えても、正義感は人一倍にある。ただ表に出すのが苦手なだけ。

 

「まぁ物資集積所への作戦はOKが出たんでしょう? よかったじゃないっすか~」


 幸い近くに川があるため水は困っていない。敷地内には緊急用の井戸もある。

 しかし足りない物資は沢山ある。

 藤崎市内にある物資集積所から回収できればまたしばらく持つだろう。


 それでもいずれ限界はくるのだが。


「そうだな……」


 山木の構想する民間人を起用した部隊編成。

 上層部にわからせるためには、プロパガンダが必要だ。

 それも圧倒的で強烈な。

 のような――――


――――カンカンカンカンァン!


 藤崎駐屯地に敵襲を知らせる鐘の音が響き渡った。

 

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