六十五話

「~~~~ハフ」

 

 眠い。

 長いあくびが出た。

昨日は少し夜更かしだったかな。

 だけど雑魚狩りで魂魄ガッポリですわ。 野犬や魚頭より少しポイントが多いのでつい夢中になってしまった。

 

 祭壇のような塔は骨の塔。

 紫の炎は灯り、禍々しい雰囲気を醸し出す。

 まぁ、塔の上で祈祷するマントを羽織った骸骨ごと、粉砕したけど。


 コッソリと帰ると木実ちゃん達は心配していたらしく、手厚く出迎えてくれた。

 初めての場所だからね。 みんな不安なのか、いつもより密着度が高い。 俺の筋肉枕でぐっすりと眠っていた。 

 おかげで俺は寝不足ですよ。 

 

 

「来ましたね」 

 

 明けて早朝。

 作戦の為に門前に集合していると、自衛隊の人たちは遅れてやって来た。


 坊主頭の厳ついおっさんは近寄り手を差し出してくる。

 

「山木だ、よろしく」


 本物の自衛隊員らしい。

ちゃんと身分証明書の手帳を持っていた。

頼りがいのありそうな肌黒の偉丈夫。 自衛隊員って感じがするね。


「寺田っす~」


 対照的にひょろっとした頼りなさそうな男性。

 こいつも偽物なんじゃって思ったけど、手帳はちゃんと持ってた。

 アイドル系アニメキャラでデコってあり、余計に偽物じゃないかと疑っているのだが。


「……?」


 昨日のヤンキーみたいな奴らの姿が見えない。

 遅れてやって来た三人目が坊主頭に報告している。


「見当たりません。 逃げたみたいですね」


「なんだと……」 


「さっきまでいたっすよ?」


 元々作戦を中止させるために来ていたみたいだし、怖くて逃げだしたのかな。 でもどこに行ったんだろう?


「官品が……」


 坊主頭の厳ついおっさん、山木さんは顔を青くした。

 なにか大人の事情でもあるのだろうか?


「どこに行ったんでしょうか?」


「何がしたいんっすかねぇ……」


 どこに行っても敵との戦闘は避けられない。

 面倒そうな奴らだったから、東雲東高校には行ってほしくないね。

 

「おはよー! ベルゼ君」


 暗い雰囲気を壊す明るい声が響く。

 ツインテを揺らしこちらに近づいてくる。


「んーー! 昨日は久々に早く眠れたから、気分爽快だよぉ~~」


 人懐っこい笑み。 スパッツに制服。 所々にサポーターを着け、腰のベルトに刀を差している。 

 遅れて黒髪ロングもやって来る。


「皆さん、おはようございます。 ……昨晩はお楽しみでしたね?」


「……」


 いやいや。 どこの宿の主人ですか!?

 一緒に寝てたけど、お楽しみはしてないからね! むしろ生殺しですから!! 何か含んだような笑みを向けてくる黒髪ロング。 なんか雰囲気変わってないか!?

 

 黒髪ロングの態度を訝しんでいると、山木さんが話しかけてくる。


「すまない、うちの者たちを見なかったか?」


「あの方々でしたら北の方に行かれましたよ。 何か別の任務でも?」


「いや……分かった」


 極秘任務だ! と、ツインテがはしゃぐ。

 いや、絶対違うと思うぞ。 ただの敵前逃亡じゃないかな?


「出発します」


 黒髪ロングの掛け声で、東雲市街地に向け三十名が出発する。

 遠距離部隊のアルテミス隊十名。 近接部隊のフレイヤ隊十名。 それに遊撃のツインテに司令塔の黒髪ロング。 自衛隊三名に俺たちが五名だ。


 だいぶ少ないが、残りの戦力は学校の防衛で動かせない。


「うーん。 少数精鋭って感じかしら?」


「頑張りましょう!」


 玉木さんはいつも通り。 薄紫色のワンピースタイプの服を着て、木製のロッドを装備している。 ガチャの白から出た杖だ。 エルフと言えばミスリルの短剣とかレイピアが似合いそう。 出たらプレゼントだな!

 

 メイスを握り締める木実ちゃんは気合満点だ。

 装備も少し新調して青を基調とした上下服に茶色いレザー防具を着けている。 こちらは猫の万屋で購入した防具『ノービスレザーセット(青)』だ。


「……うん」


「お腹痛くなってきた……」

 

 葵はローブを羽織りステッキを装備。

 まだ魔法は覚えていないみたい。

 基本はスペルカードで戦闘になるのかな。


 ミサは両肩から鞄を掛けている。

 恰好は動きやすい体操服。

 荷物持ちだけじゃなくて止め刺しもしている。

 ただ戦闘は未だに慣れない模様。


「あれ、栞ちゃん。 リンクはしなくていいの?」


「……そうでしたね」


 出発しようとした黒髪ロングはピタリと動きを止めた。

 リンクって念話魔法で送信するための何かだったな。

 恥ずかしいから男には嫌だとか言ってたけど。


「すみません。 すこし、屈んでくださいませんか?」


 近づいてきた黒髪ロングは前髪を上げながらそう言ってきた。

 俺は言われた通り黒髪ロングの前に片膝立ちになる。

 彼女の両手がそっと俺の顔に近づけられる。

 そして疲労の見える彼女の端正な顔は、俺と重なる。


「「「「えっ!?」」」」


 うちのPTメンバーから驚きの声が。

 いや、俺も驚いたけど。

 ちなみに重なったのはオデコ同士である。


「……はい。 リンク、完了です」


 正直、ドキッとした。 

 

「では、山木さんたちも屈んでください」


「はいッ!!」


 厳ついおっさんの元気な返事にドン引きした。

 顔めっちゃニヤけてるし。

 最初のイメージが完全崩壊だよ!



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