六十一話:鬼畜


 俺は怒っていた。


「――ィリャアアアアアアアアアアアッ!!」


 かつてこれほどまでに落胆し怒りを露にしたことがあっただろうか?


「ハァアアアッッ!!」

 

 速い。

 裂帛の気合で斬り込んでくるチェックスカートのツインテ美少女。


 俺はいきなり弓矢で歓迎され、斬りつけられたから怒っている訳ではない。

 

「くっ! デカイくせに、速ぁぃいいいい!!」


 日本刀での躊躇のない攻撃。

 消えるような左右への揺さぶりが凄い。 

 それに合わせ揺れるツインテール。 捲れるチェックスカート。だがしかしッ!


 『スパッツ』


 黒いスパッツだ。

 男子学生の憧れる制服の下が、スパッツとは何事かッ!

 俺は、怒っている。


「……」


 後方から弓矢を構える女性たちも同じ制服を着ている。

 仕立ての良さそうな赤いチェックの制服。 

 『神鳴館女学院付属高校』。

 男子学生の憧れる、お嬢様学校の制服である。


「もう! 打ち合いなさいよぉおおお!!」


 ハイテンションツインテールは、回避に専念する俺に怒鳴る。

 打ち合えと言われても怪我をさせるわけにもいかないし、かと言って斬られたら痛いだろうし……。


「……おい」


「喋ったっ!?」


 あのぉ、そろそろやめてくれませんかね?

 俺は停戦を申し出たい。

 しかし残念。 

 鬼頭神駆は誤解が解けない。

 

「流石は大悪魔ね!」


「……」


 本気で怒るぞ?

 武器を構えるお嬢様制服たちを、俺は睨みつけた。


「――」


 ただそれだけでツインテの足を止めさせ、弓を構える者たちを震え上がらせる。


「ぁっ……」


 誤射。

 震えた手で放たれた矢はツインテ直撃コースだ。


「フッ!!」


「わわっ!?」


 地を蹴り全力で駆ける。

 ブラックホーンリアを履く俺は一瞬で彼我の距離を潰し、研ぎ澄まされた集中力で矢を掴んでみせる。

 ツインテに背中を見せてしまうが、斬り込まれはしなかった。


「助けてくれた……?」


 代わりにポツリと呟いた。



◇◆◇



「申し訳ございませんでした!!」


 ツインテはアスファルトの地面に頭を押さえつけられ、土下座させられている。

 弓を放っていた女性たちも土下座だ。

 土下座祭り。


「……」


「……そうですよね。 謝って済む問題ではありませんね。 うぅ、わた……美愛さんを好きにしてください」


「ええっ!? 栞ちゃん酷い! そこは私を好きにしてじゃないのっ!?」


「いえ、だって、私じゃすぐ壊されちゃいますよ?」


「私ならいいのっ!?」


「美愛さんは頑丈じゃないですか」


「ハートは一緒だよッッ!?」


 これが女子高のノリって奴か?

 サラッとした黒髪ロングの疲れ顔をした女性、その肩を揺さぶり抗議するツインテ。 弓を持ってた子たちは土下座したままだ。  


「……これは一体?」


 さらにお嬢様制服たちが集結してきた。

 制服の上からプロテクターやレガースなどで武装している。

 手にはバットや木刀など近接武器を手にしていた。

 土下座する者たちを見て困惑している。


「ぁ。 みなさんお帰りなさい。 ……生存者の方は?」


「ん……学校まで送ってきたよ」


「そう……ご苦労様です」


 みんな疲れた顔をしている。 (ツインテ以外)。 黒髪ロングがリーダーらしく報告を受けている。 

 ヌゥッと突っ立っている俺に、新たに来た人たちはどうしていいか分からないようだ。 何人かは土下座をしだしているが、やめてほしい。


「あ、あのぉ……さっきは助けてくれて、ありがとう、ございます」


 それに斬りかかってごめんなさい。 そうツインテは近寄り言ってきた。

 さらにちょっともじもじとしながら続ける。

 

「お礼。 一つだけ、言うこと聞きます。 なんでも言ってください!」


 その言葉に周りが騒めく。

 流石はお嬢様か。

 いい心がけだと思うが、『なんでも』とか、悪い奴もいるから気を付けた方がいい。

 俺が善人で良かったな! 

 簡単なお願いにしてあげよう。 別にお礼なんていらないんだが、受け取った方がツインテの気が済むだろうしね。


「脱げ」


「ふぇッ!? ここでっ、み、みんなが見てる前でそんなぁああああ」


 間違えた。

スパッツを脱げと言いたかったのに。


 しかし、ゴクリと、周りの者たちは喉を鳴らし興味深そうに観戦ムードになってしまった。


「鬼畜! 鬼畜さんだよぉおおおおおおお」


「美愛さん、覚悟を決めてください」


 鬼頭です、鬼畜じゃないです。

 ツインテは観念したように胸元のリボンに手を掛ける。

 俺は『違う、スパッツだ』とジェスチャーで伝える。


「うぅぅ……。 えっ? し下、から……?」


「マニアックですね」


 疲れ顔の黒髪ロングがボソリと呟く。

 ビルの駐車場のような場所で、女性に囲まれ一人の男の前で服を脱ぎ始めるツインテ。 これなんてエロゲ。 もしくはイジメ現場のようであるが。


「!」


 赤いチェックスカートが地面に落ちた。

 ジェスチャーは正しく伝わらない。

 黒ニーソとスパッツにも絶対領域は存在する?

 白い肌が、目に毒だ。

 

「えっ、これでいいの?」


 俺は新たな境地を手に入れた。

 上はブラウスや制服。 下はスパッツとニーソのお嬢様。 しなやかな太ももにお尻のラインがくっきりと分かる。

 うむ、スパッツも悪くない。


「……なんか、恥ずかしい」


「美愛ちゃん、似合ってますよ」


 一人だけだとイジメみたいだし、イジメ良くない。

 俺はジェスチャーで黒髪ロングに訴える。


「えっ……私たち……も?」


「栞ちゃん、覚悟だよ!!」


 俺は、大量のお嬢様たちのスカートを脱がすことに成功した。

 疲れ顔の黒髪ロングから半泣きでチェックスカートを渡される。

 寄こせとは一言も発していないのにだ。

 

「スカートマニア……」


 誤解だ。

 恥ずかしそうにブラウスを下に伸ばす黒髪ロングは、キッと俺を睨みつけるがすぐに目をそらした。

 残念ながら。

 鬼頭神駆は誤解が解けない。 


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