六十話:いざ、参る!
人助けをしよう。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
助け出した人々はなぜか下を向き感謝を口にしながら連行されている。
そう見えてしまうのは俺が先導しているからだろうか?
「周辺はもうほとんど制圧したわね」
「はい。 鬼頭君のおかげです」
自衛隊の駐屯地に行こうと思ったのだけど、その途中、取り残されて立てこもっている人たちが結構いた。 放置するわけにもいかないので、この三日間ほど、俺たちは救出活動を行っていたのだ。
「帰ってきたぞ……!」
「【死神救助隊】の帰還だ!!」
なんだそのネーミングは……。
木実ちゃんも玉木さんもいるんだから、天使でもエルフでも巨乳救助隊でもいいじゃないか。
東雲東高校は新たな生還者に騒がしくなる。
喜ばしいニュースでも、人が増えれば色々と大変だ。
食料や水はもちろん、寝る場所やトイレに人間関係のトラブル。
「お帰り、みんな! 無事で良かった。 雪代さん、……またお願いしていいかな??」
「はい」
可愛い系男子、服部が木実ちゃんを連れ去る。
まぁ用件は分かっているのでいいけど。
木実ちゃんの【聖水】の能力。
ゼロから作り出すのは少量しかできない、でも水を変える分には結構量がいけるらしい。
川から汲んだ水を浄化して飲料水にしているのだ。
木実ちゃん印の活力の出る天然水。
バカ売れ間違いなし!
「ひぃ、ひぃ……ふはぁ! やっと着いた……」
両肩に鞄を背負ったミサは体力が尽きたようにへたりこんだ。
滴る汗。 ティーシャツは透けてスポーツブラが見える。
顔に張り付く髪をどけてこっちを睨む。
「詰め込み過ぎ……!」
「……」
猫の万屋で大量のママノエと新商品を仕入れてきたからな。
人が増えた分、必要な食料も増える。
飢えたガキんちょたちもいるし、しばらくは面倒みてやらないと。
校庭の一角。
運動会の用の天幕でさっそく調理開始だ。
「ほんとにソレ、食べられるの?」
犬のドロップ品を大量に売却したことで、猫の万屋に新たな商品が追加された。
鞄から取り出した大量のソレをミサが怪しむ。
赤い。
真っ赤なソーセージだ。
(ブラッドソーセージみたいなもんかな……)
商品名は【ワイルドソーセージ】なんだけど。 原材料が何なのかは考えないほうがいいよね!
「お……なんかいい匂い……」
「いつものと違うのか?」
ママノエだって美味しい。 コスパ最高だし。
でも同じものばかりでは飽きるからな。
熱した鉄板に油をひきワイルドソーセージを転がすといい匂いがしてきた。 血のように真っ赤だったソーセージは赤黒く変わる。
「ふぉ……!」
まずは俺が一本試食。
強烈な風味。
パキッと音を立てて割れたソーセージから、強烈な風味が襲い掛かる。
(これはなかなか……)
クセになる刺激的な味。
「はーい、みんな。 シンク君からの差し入れよ。 ちゃんとお礼言って食べてね?」
「ありがとう! お兄ちゃん」
「怖いお兄ちゃんありがと!!」
玉木さんの調教により、食事を受け取る前は必ず俺に感謝を捧げるようになっていた。 俺が強制させているわけではないんだけど。 大人も子供も関係なく調教中である。
「うまい!」
「くふぁ! ビールが欲しくなるな!」
ソーセージは好評のようである。
「へへ、姉ちゃんお詫びに今晩俺のソーセージを――ガハッ!?」
おっとイカン。 玉木さんにセクハラしようとしたおっさんの頭をアイアンクローしてしまっていた。 無意識って怖い。
「わ、われ、わわっわわ゛わ゛ぁあああぁぁがあああ」
ミシミシと音を立てる頭蓋骨。
おっさんの絶叫に周りの人たちがひいてる。
そんなに強く掴んでないし大袈裟なおっさんだな。
「シンク君? 死んじゃうわよ??」
「ふむ?」
おっさんが脱力したように手をぶらりとさせたので草むらに放り投げておく。 セクハラは良くない。
「ふふふ。 やっぱり独占欲強いんだね。 束縛系なのかな?」
やっぱり?
玉木さんはなぜか凄い笑顔で、おっさんをアイアンクローしていた腕に抱き着いてきた。
「あんな下着を渡してくるくらいだもんね!」
パンティーも余らしておくのはもったいないからね。
PTメンバーにプレゼントしたのだ。
玉木さんにはもちろん紐パンティー。
「!」
そんな紐パンティーを。
俺にしか見えない位置でチラッと見せてくる。
食料の配給を渡しながら、もう片方の手で服の裾をめくる。
鉄板が邪魔で俺にしか見えない。
「どうかな?」
「……」
「似合ってる?」
「……うむ」
お尻が最高です。
玉木さんは悪戯の成功した笑みを見せた。
からかわれているな……。
「鬼頭君……」
「っ!」
ほわっ!?
いつの間にか後ろに来ていた木実ちゃん。
「何を……してるの……?」
いつも明るい木実ちゃんの表情が暗い。
違うんです。
俺は何も……。
しかしはたから見たら、俺が玉木さんにそうするように命令していたように見えなくもないのか?
そもそも言い訳できるほど会話はできないんだが。
気まずい沈黙に配給に来ていた人たちも静まり返り、ママノエの断末魔の悲鳴とソーセージの弾ける音だけが響く。
「あっ」
戦略的撤退。
少し外に出よう。
木実ちゃんの好きな甘味を集めるのだ。
◇◆◇
とあるビルの屋上。
チェック柄のスカートが風に揺られていた。
「アルテミス隊。 後十秒で来ます、数は三体」
目を瞑り額に手を当てた女子高生は、虚空に向かって一人で喋っている。
「フレイヤ隊。 左手の建物にエネミーが隠れています。 数は恐らく五、……いや、救助者がいる可能性があります。 速やかに排除と救出を」
表情は厳しい。
目元には隈、育ちの良さそうな顔にはニキビに疲労の色も濃い。
しかしそれとは別に、何か嫌なモノを見た、そんな苦悶の表情だった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。 最悪、です……」
屋上の手すりに手をつき、頭を下げ呼吸を乱す。
しかしすぐに『はっ!?』と顔を上げた。
「来ます! アルテミス隊っ、気を付けて! 高速で、後十、いや――後三秒!!」
高速で接近する存在を彼女の能力が捉える。
それは以前に感じたことのあるモノだ。
彼女は焦り大声で叫んだ。
「美愛さんッ!!」
元気すぎる友人の名を。
「わおっ!? 空、飛んでるのはずるくない??」
美愛は友人の救援要請に即座に急行した。
そこで目にしたのはアルテミス隊の放つ矢を回避するエネミー。
超高速飛行。
鳥の飛び方とは違う。 どちらかと言えば、蠅。
「ベルゼバブ!」
美愛は大悪魔の名を口にする。
鋭い目つきに邪悪な雰囲気。 漆黒のブーツから発する不思議な輝き。 空を自在に移動する巨大な剣を持った何か。
彼女にはとても人とは思えず、敵と判断したようだ。
「みんな下がって! 私が、――ヤルわ!!」
刀を手にツインテールを揺らし、美愛は一歩前へ。
巨大な剣を持ったエネミーはゆっくりと下降してくる。
美愛はぎゅっと刀を握り締め、名乗りを上げる。 まるで大戦に臨む武士のように高らかと。
「私は美愛! 『仙道 美愛』、いざッ――参る!!」
「……」
美愛は笑っていた。
不敵に笑う彼女は地を蹴り、未知のエネミーに斬りかかる。
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