おちて、きえる
@fujimegumi
第1話
何かがはじまるのはいつも突然だ。ふとした瞬間から恋が始まることもあれば、ほんの少しの間ぼうっとしていただけで交通事故に巻き込まれることだってある。そんな風に、僕たちの周りでは、常に予想がつかない出来事が連続して起きている。そしてそれはなんてことない当たり前のことでもある。僕たちは未来を見ることはできない。それが人生の面白い所なのだろう。「明日は何が起きるのか」そんなことを考えながら生きていく日々はとても楽しく、充実しているのかもしれない。
ただ、それが自分にとって都合が悪いときはどうだろう。不安を感じ、文句を言い放って、誰かのせいにしたがるのではないだろうか。都合の悪いことは「嫌だ、やりたくない」「知らなかった」「そんなのわからなかった」と言って、どうにかその現実から逃れようとする。何が起きるのかなんてわからない、そんな当たり前のことを、不都合な時だけ受け入れようとしない、いや、拒絶してしまう。
それは、僕にだって言えることだ。僕だって、自分に不都合なことはできるだけ受け入れたくはない。宿題の量が3倍になればやりたくはないし、明日から家事をしなきゃいけないなんて面倒くさい。なんならボイコットしてやろうかとも思う。そう考えれば、これも当たり前のことなのかもしれない。ふとした瞬間から何かがはじまるのも、それが不都合なときに受け入れないことも、当たり前のことなんだと言える。なぜなら、僕たちは不都合なことがなぜそうなったのかを知らないのだから。だから、朝起きてニュースを見たときに原因不明の病が、人がバタバタと倒れていくような病が流行り出したことも、当たり前のことなのかもしれない。
原因不明の病が世界中で流行りだした、最近のニュースはそのことで持ち切りなっている。原因不明の病、恐ろしい言葉だ。私たちには対策のしようがないことだ。何が原因なのか分かれば、薬を飲んだり、病院で診てもらうことができる。必ず治るとは限らないが、それでも病に罹った人からすれば自分が今、どんな病を持っていて、どんな状態なのかを把握できる。だが、今回の病は原因不明。何かのウイルスによってなのかも何が引き金となっているのかすら分からない。
そんな僕たちにも分かっていることが1つだけある。それは、「罹ってしまったら目を覚まさない」ということ。寝ている間に病気に罹り、何をしても目を覚まさない。なんとも不思議な事だが、これだけが1か月経って分かったことだ。
「原因不明の病だって、怖いわね。あなたも慎吾も気をつけてね」
母さんがニュースを見て心配になり、僕と父さんに言う。僕は学校に、父さんは会社に行かないといけない。外に出て病気にかからないように気を付けてほしいのだろう。
「そうだね、気をつけるよ」
何に気を付ければいいのかわからなかったが、僕はそう答えた。
「気を付けるたって、原因不明なんだから気を付けようがないじゃないか」
父さんはそこまで気にしていなかった。何が原因なのかわからないなら怖がっても仕方がない。確かにそれはその通りで、僕たちはただ医者や研究者が解決策を作ってくれるのを待つことしかできない。実際に学校も会社もいつも通りだ。周りの人たちも怖がってはいるかもしれないが、対策の仕様がないから何もできないのだろう。ニュースによれば、引きこもりだった人も病気になったらしいし、外に出ることが問題なわけではないのかもしれない。
それでも、罹れば目覚めることはできない、そんな病気に対して何も考えずに生活することは僕にはできない。漠然とした不安と恐怖を持ってしまうのは当然のことだと思う。
「そろそろ時間だ、もう行かなくちゃ」
僕はそう言って家を出た。
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