無塵不染

冬瀬 攬(Fuyuse Ran)

花園と毒


 寝てもかきまわしても私は”女の子”でした。紺色のプリーツスカートから伸びる私の白い足は筋肉など一切持ち合わせていないような細さと柔らかさを持っていました。

級友を見渡しても皆、揃いの紺色のプリーツスカートを揺らして、セーラーの襟を、良い香りのする毛束をなびかせて、その女の子らしい高い声で談笑に花を咲かせ、”男の子”などいないからと、私の心緒も知らずにお互いの体躯を惜しげもなくさらしたり、抱きつきあうのです。そんな光景を目にし、スキンシップを受ける度にわたしは思うのでした。


 きっと彼女たちは私に対して同じ色であると、女の子なのだと分類して疑うこともなく無邪気に接しているのだろうなと。

 そして私はこれからも丈の合わないスカートを履いて、彼女たちと笑い合って生きていかなければならないのだと。


 センセイから教わる女の子の仕組みは私には何故か飲み込めず、遠いところで流れる雑音のように聞こえて仕方がないのでした。知識として蓄えられることはなくただただ心に薄く濁ったモヤのような、でも確かに実体のある”まく”のように積もりゆくのです。偶に私の警戒心の盾の合間を縫って張り込もうとして、私を凄まじい厭世観でいっぱいにするのでした。

 オヤは私を可愛い女の子というケースを作り私の膝を、腕を折りたたんで押し込むのでした。私は一度、ちっぽけな勇気を片手に、自分は化け物なのだと伝えてみたのですが、オヤはそんなのお構いなしに私を嬲り嗤い、今日も私はスカートを手に紺色の襟のついた制服に身を包み、私の存在を背中に負い、いつもと変わらぬ道を唯もくもくと踏みしめるのでした。


嗚呼、今日も私はオンナノコなんです。


 この世界には色が3つありました。

 鮮やかで美しい赤色と青色。

 濁った底の見えない形容しがたい色、

 それらは真っ白なキャンバスの上にに悪魔の手によって塗り、振り分けられるのでした。


 しかし、そんな世界の住民の一員であるはずの私の色は空っぽな透明でした。

 しかし近付けば近付く程、どこまでも深く濁ったあくどい、嫌な色をしていました。

 私の視界にはある筈の色を捉えることはなく、迷霧につつまれていました。


 どこにも当てはまることのできない私は濁った色のキャンバスをジンクホワイトで塗りつぶして必死に隠して擬態しようとするのでした。




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