十二月二十二日 田舎巻き寿司





 電子レンジで温めてお皿に入れたご飯に、適当にすし酢を入れてスプーンで混ぜて酢飯を作る。

 テーブルにサランラップを敷いて海苔を一枚乗せて、海苔の下半分に酢飯をスプーンで乗せて広げる。

 冷蔵庫にあった紫蘇と納豆を酢飯の真ん中に置いて、サランラップごと一度折り畳むように紫蘇と納豆を酢飯と海苔で丸めてから、サランラップを巻き込まないように転がして行けば、紫蘇と納豆の海苔巻きが完成だ。

 紫蘇と魚肉ソーセージ、紫蘇とカニカマの二種類の海苔巻きも同じように作る。


 これら作るのも食べるのも楽々三種の海苔巻きを我が家の田舎巻き寿司と呼んでおり、大掃除、大掃除、年末年始の支度で大忙しなので、ことさら重宝している。




「食事も季節も大切にって言ってるでしょうが」

「いつもいつも感謝していますお父さん」


 低頭姿勢で父を出迎えるのには、理由があった。

 今日は冬至。

 父手製のご飯が食べられるのである。

 家に入って手洗いうがいを済ませるや台所へ向かう父を笑顔で見送って、腕まくり。さあ、大掃除の再開だ。




「はいお疲れ様」

「どうもありがとうございます」


 かぼちゃ、にんじん、れんこんの実家の田舎巻き寿司に加えて、ぎんなんの天ぷら付うどん、きんかんの寒天ゼリーは、実家では冬至に必ず食べていた。

 実家から出てから数年は食べられなかったが、父が働き方改革をして時間を作るようにしてからは毎年訪れて作ってくれるようになったのだ。


「ありがたや、ありがたや」


 豪華な食事を前に手をすり合わせては合掌。

 いただきますと言って、野菜の温かな色にほっこりしつつ、田舎巻き寿司一切れを二口で平らげる。

 優しい味だ。

 涙がうっすら出てしまうくらいに。

 優しくて、やさしくて。

 疲労が身体の外へとゆっくりゆっくりと流れ出て行く。


「お父さん。ありがとう」

「まだ自分で作る気にならないのかな?」

「うん。お願いします」

「甘やかすなって、母さんに叱られると思うんだけどね」

「子どもだもん。甘やかしてよ」


 笑って、ぎんなん天ぷら付うどんに手を伸ばして平らげたあとに、二個目三個目四個目と次から次へと田舎巻き寿司へと手を伸ばした。


「食べ過ぎじゃない?」

「しょーがない。いっぱい働いたからね」

「胃薬はあるの?」

「必要ないって」


 心配性だなあと笑った私だったが、父の不安は見事的中。

 胃薬のお世話になるのであった。











(2022.8.5)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る