二、標的探しと悪巧み

(さて……どうしようかね……)


 人里に降りたおこんは、標的探しに頭を悩ませていた。なぜなら道行く人間たちは連れ立って歩いており、付け入るすきがなかったからだ。

 男をひっかけるにしても、相手が既婚者では意味が無い。それに、もし誰かに見られていた場合、言い逃れはできないだろう。


(やっぱり難しいかねぇ……)


 このまま諦めるしかないのだろうか。お紺の心の中に暗い気持ちが広がる。


(嫌だ……絶対にあきらめたくない!)


 せっかくここまで頑張ってきたのだ。ここで引き下がるわけにはいかない。

 何か良い方法はないかと必死になって考える。すると一つの考えが浮かんできた。


(そうだ!何も、化けるのは人間でなくてもいいじゃないの!)


 そう思ったお紺は、何に化けるか考えながら草むらの中を歩いていく。すると、小さな店が目についた。


(おや、何の店だい?)


 興味を持ったお紺は、その店をそっと覗いてみた。そこには、美しい絵がたくさん飾ってあった。その多くが風景画だったが、数枚の人物画も見られた。お紺はもう少し近くで見たいと思い、人間の女に化けると店の中に入っていった。


(へえ……きれいな絵だね)


 しばらく見ていると、一枚の絵の前で足が止まった。その絵に描かれている女性はとても美しかった。


(これは……)


 その女性は黒髪で、とても優しそうな目をしている。顔立ちも整っており、スタイルも良い。まさに理想の女性といった感じだ。

 お紺が見とれていると、店主が話しかけてきた。


「その絵、良いだろう?この店の自慢なんだ」


「そ、そうなんだね……」


 急に話しかけかれて驚いたお紺は、なんとか返事をした。


「この店に来る男たちは、皆この絵を見るために来てくれるんだよ」


「なるほど……」


 確かにこれだけ綺麗なら、見たくなる人の気持ちもわかる気がする。

 そこで、お紺はひらめいた。


(そうだ!あたしも絵に化ければいいんだわ!そうすればこの絵みたく、男に好かれるかもしれない!!)


 そうと決まれば早速実行に移すことにした。

 お紺は店主に「良いものを見せてもらったよ!それじゃあ、また来るね!」と言い残して、急いで山へと戻った。



 山に戻ったお紺は、再び化ける練習を始めた。そして一月ひとつき後、ようやく満足できるレベルまで達することができた。


「やった!!これならいいかね!?」


 お紺は喜びの声を上げた。だが、絵は話さないことを思い出して口をつぐんだ。


(おっと、危ない……。本番はうっかり喋らないようにしないとねぇ……)


 お紺は気を引き締めた。そして変化へんげを解き、山を降りて行った。

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