23. 琴乃の誕生日! ~約束~

「どうやったら髪が生えるんでしょうか」

「こ、子供の言ったことだからそんなに気にしなくても……」


 将人まさとががくっと頭を下げている。

 薄い頭頂部分が見えて少し悲しい。


「会長はふさふさじゃないですか! 俺より年上なのにおかしくないですか!?」

「特別なケアは何もしてないけどなぁ」


 せい兄ちゃんと将人まさとが、髪の話に花を咲かせている。

 いや、髪は咲いてないんだけど。


「遺伝とかもあるから気にしすぎるなよ。そういうストレスも良くないんじゃないか?」

「くっそぅ! あいつは! あいつは絶対にハゲてたはずなのに!」

「あいつ?」

康太こうたですよ! 康太こうた! あいつは気苦労が多かったから絶対に俺より髪が薄くなっていたはずです!」


 ざけんな! 勝手に仲間にするんじゃねぇ!

 俺が生きてたらお前と違ってふさふさのはずだわ!


唯人ゆいと君、髪のケアは若いうちからちゃんとしといたほうがいいよ」

「は、はぁ?」


 せい兄ちゃんが何かを言いたそうに俺のことをちらっと見た。


 いつか、こいつと結奈ゆいなちゃんに自分のことを言おうと思っていたが、絶対に言うタイミングは今じゃないな!


 お前の知ってる康太こうたは転生して、この通りふさふさなんだよ!


「植毛とかもあるみたいだから」

「うぅ……、本当に考えようかな」

「少しずつにしないと不自然になるから気をつけろよ」


 せい兄ちゃんと将人まさとの育毛談義が続く。


 少し、その年相応の男のやり取りが羨ましかった。




※※※




 今日は時間が過ぎるのが早いような気がする!

 楽しい時間は本当にあっという間だ。


「や、やってくれたわね、あなた……!」


 心春こはるが声を震わせながら俺のところにやってきた。


「なんだよ怒った顔して。折角の琴乃ことのの誕生日なのに」

小鳥ことりがあなたのことを意識しまくっちゃって大変よ! まさか私の娘だけではなく妹にまで――」

「はいー! ストップーー! その話はここまで!」


 琴乃ことのが聞いたら暴れ狂いそうな話をしてきやがった!


 さ、最近の小学生ってませてるんだなぁ……。

 そういうことにもう興味しんしんなんだ。


「はぁ……」


 心春こはるがとっても意味深なため息をついていた。


「とりあえずその話は置いとく」

「永遠に置いといてくれ」

「なんだか、私、とってもお酒が飲みたい気分」

「お前クソほど弱かったじゃん……。やめといたほうがいいって。そもそも今は未成年だし」

「分かんないじゃん! 今は体が違うから強くなってるかもしれないし」 


 昔の美鈴みすずはアルコールがとてつもなく弱かった。

 顔が真っ赤になって、すぐ笑い上戸になる。

 しかもすぐに具合が悪くなるおまけ付きだ!


「……それにしても、お前がちゃんとお姉ちゃんしてるとはなぁ」

「昔は妹なのに、今はお姉ちゃんだよ。笑えるでしょ?」

「笑える」


 心春こはるせい兄ちゃんのほうを見る。

 せい兄ちゃんは心春こはるの妹たちと遊んでいた。


「昔から面倒見がいいんだから」


 それを見て、心春こはるが嬉しそうに笑っていた。


「誰かの誕生日のときに、またこうして皆で集まれるといいな」

「ここの全員分やってたら毎月がお祝いになっちゃうよ?」

「いいじゃんそれでも。良いことは何度でもやろうよ」

「ぷっ、確かに」


 心春こはるが満足そうに微笑んだ。


「そろそろやるか?」

「うん」


 心春こはると目で合図して、二人で琴乃ことのの傍に行くことにした。


琴乃ことの、ちょっといいか?」

「ん? どうしたの唯人ゆいと君?」


 みんなと楽しそうに話をしていた琴乃ことのに声をかけた。


「あぁーーー! またいつの間にか二人っきりになってるし!」

「いや、そうなんだけど、そうじゃなくてさ……」


 琴乃ことのが、不満そうにしていたが、そのまま話を続ける。


「なんかさ、琴乃ことのの誕生日って感じじゃなくなっちゃったんだけどさ」

「ううん! そんなことない! こんな楽しい誕生日初めてだよ!」


 琴乃ことのがニコニコと笑っている。

 その様子がとても嬉しい。


「それで、俺たちからの誕生日プレゼントなんだけど……。って、ほとんどは心春こはるメインで動いてくれたんだけど」

「誕生日プレゼント?」


 琴乃ことのが首をかしげる。

 心春こはるがポケットからある封筒を取り出して、琴乃ことのに渡した。


「前にも言ったけど、これ一緒に見に行こうよ!」

「なにこれ?」

「みーちゃんのライブのチケット!」


 歌手のみーちゃん。

 前世ではアイドルで、俺たちが死んでいる間に歌手として大成していた、美鈴みすず琴乃ことのが大ファンの芸能人。


 チケットを取るのはすごい倍率だったらしいが、心春こはるの執念によりなんとか三枚ゲットできたらしい!


「えぇえええ!? チケット取れたの? すごい!」

「ふふふ、もっと褒め称えなさい」

「すごいすごい!」


 琴乃ことののプレゼントは色々考えたのだが、結局こういう普通のものになってしまった。


 というのも……。


琴乃ことの、これから毎年どこかにお出かけしよう。三人でいっぱい思い出作ろう?」


 心春こはる琴乃ことのにそう声をかけた。


「毎年?」

「うん、毎年どこかに行こう。喧嘩しちゃうときもあるかもしれないけど、それだけは必ず守るようにしよう。私たち家族が一緒にいるために」

「……」


 俺たちは、琴乃ことのにそれが言いたいだけった。


 みーちゃんライブはあくまで建前で、ただ俺たちは琴乃ことのとこの約束をしたかっただけなのだ。


「やっと、先のことを約束してくれるようになったんだね」


 琴乃ことのが声もなく何度も何度も頷いた。

 

「先のこと?」

唯人ゆいと君も心春こはるちゃんも、今まで未来のことは約束してくれなかったから」 


 琴乃ことのの目からは涙がこぼれ落ちていた。

 泣いてはいるが、琴乃ことのの顔は安心した顔をしたような、どこかほっとしたような顔をしていた。


「よーーし! みーちゃんライブまでにお金を貯めないと!」

「あっ! そのチケットは私が預かっておくから! なくしたら大変!」

「……」

「な、なによ! そんな目をして!」

「私の誕生日プレゼントなのに……」

「じゃ、じゃあいいけど絶対になくさないでよ! 取るの本当に大変だったんだから!」

「大丈夫! ずっと仏壇に飾っておくから!」

「仏壇!?」


 お、俺たちの仏壇に俺たちからの誕生日プレゼントが飾られるらしい。確かにそこならなくすことはないと思うけどさ!


(ふぅ……)


 これで琴乃ことのの誕生日を普通にやるっていうのはオッケーかな。普通よりも賑やかになっちゃったけど。


「毎年だからね! 絶対に絶対に約束だからね!」


 琴乃ことのが俺たちの言葉を確かめるように何度も同じことを聞いてきた。


(約束か……)


 俺も次に向けて気張らないといけないな……!


琴乃ことの! 心春こはる! ちょっとお願いがあるんだけど!」

「お願い?」

「明日の放課後、屋上に来てくれない!? 二人に伝えたいことがあるんだ!」

「伝えたいこと?」


 俺の言葉に二人がきょとんとした顔をしていた。


唯人ゆいと君」

「ど、どうした!?」

「明日は学校休みだよ」


 早速、決めるところで決められなかった。

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