19. 古藤家のドタバタ家族会議! 後編

「ぎ、議長! その話はあまりにも危険ではないでしょうか!?」

「けど、ちゃんと聞いておきたいじゃん。私たちが二人がいる前で」

「ぐっ……!」


 心春こはるが俺の目をまっすぐに見つめる。


 確かにその話題は今まであえて触れないようにしていた……。

 

 琴乃ことのにはちゃんと心春こはるのことが好きだと言っている……。

 けど、俺は琴乃ことのが一番だともずっと言っている。


 琴乃ことのに対しての好きはベクトルが少し違うような気がするが、最近はもうわけ分かんなくなってしまっている。キスされたのも正直、全然嫌ではなかった。


 どうしよう……。

 なんて答えるのが正解なのだろうか。


(……)


 いや、迷っている場合ではない!

 俺は家族とちゃんと向き合うと決めたのだ!


 おとこ唯人ゆいと

 こうなったら、覚悟を決めて、二人に自分の胸中を素直に話すしかない!


「どっちもだよ……! 心春こはる琴乃ことの、どっちも大好きだよ。二人のどっちかを選ぶなんてできない……」

「と、容疑者は申しておりますのでこれからハーレムについて話し合いたいと思います!」

「おい!」


 かなり緊張してそのことを言ったのに、心春こはるが食い気味に話に割り込んできた。


「お、お前ってやつは……!」

「そんなこと言うのは分かってたし」


 心春こはるが飛びっきりの悪戯顔を浮かべていた。




※※※




「はいはーい! ハーレムの定義って何でしょうか!?」


 琴乃ことの心春こはる主催の家族会議に積極的に参加してきた。

 娘から聞くハーレムという言葉は、親としては複雑でしかない。


「ハーレムっていうのはね、ハーレムっていうのはね……。なんだっけ?」



コテン



 心春こはるが首をかしげる。


唯人ゆいと君、ハーレムってなに?」 

「自分で調べなさい、今は携帯があるでしょう。」

「分かった」


 俺がそう言うと、琴乃ことのが携帯を取り出して調べ始めた。

 何が悲しくて嫁と娘の前でハーレムを説明しないといけないのか……。


「ふむふむ、一人の男性が複数の女性から恋愛対象とされぐふふとなっている状態のことです……。なるほどなるほど」

「全然違う!」


 琴乃ことのが全然分かっていないページを読みあげたので、つい口を挟んでしまった!


「何が違うの?」

「ぐふふになっている状態が肝じゃないんだよ! ハーレムっていうのは誰も不幸にならないっていうのが重要なんだ! だってそうだろう? 複数ヒロインものだと、どうしても負けヒロインというのが出てくる! ぽっと出の転校生に幼馴染が負けるとか俺は絶対に耐えられない! 今までの二人で積み重ねてきた年月は一体なんだったんだ! 俺は嫌だ! そんなの悲しくて見ていられない! せめて漫画の中くらい優しい世界がいいじゃないか! だったらせめてハーレムでみんなを幸せにするべきだと思うんだ!」

「……」


 俺の言葉に、琴乃ことの心春こはるがぽかーーーんとしてしまった。

 し、しまった! つい熱が入ってしまった!


「そういうところはお兄ちゃんと似てるね」

せい兄ちゃんと一緒にしないで!」


 心春こはるが困ったような目で俺のことを見ていた。


 やめろ! 

 そんなどうしようもない目で俺のことを見るな!


「言っておくけど漫画の話だからな!」

琴乃ことの~? こんな人のどこがいいの」


 心春こはるが肩をすくめて琴乃ことのに声をかけた。


「全部」


 琴乃ことのが微動だにせずそう答える。


唯人ゆいと君のそういうところが嫌なら心春こはるちゃんは諦めたら? 私、お父さんの漫画読んでたから唯人ゆいと君の言ってることなんとなく分かるもん」

「えっ?」


 わ、分かるの?

 まさか俺の遺産が、娘にそんな教育をほどこしていたことになるとは……。


「だ、誰も嫌なんて言ってないでしょう!」

「えー! だって心春こはるちゃん、すごい目つきしてたよ」

「してない! 全然してない! そもそも琴乃ことのはハーレムは嫌じゃないの?」

「私は唯人ゆいと君が一緒にいてくれるなら、それだけでいいもん」

「嘘だーー! 絶対に我慢できないでぐいぐい行くじゃん!」

「うっ」


 ま、漫画の話をしてたんだよね?

 いつの間にか現実メインで話が進んでいるような……。


「ほ、本当に好きな人ならその人のこと独占したいって思うのが普通じゃないかしら!?」


 急に心春こはるが恥ずかしいことを言い始めた。


「好きな人のこと全部受け入れるのが愛だと思う!」


 親としては絶対に聞きたくない言葉が娘から飛び出てきた。


「あなたが言っても全然説得力がない! どうせすぐにぐいぐいになるくせに! 人一番独占欲強いじゃん! キスの次は一体何をするつもりなの!」

心春こはるちゃんだって何もできないくせにすごい嫉妬するじゃん! そんなになるならがんがん攻めればいいのに!」

「な、何もできないですってーー!? あなたは私から生まれてきたんですけどーーー!?」


 ま、また始まってしまった。

 何回目の対決なんだこれ……。


「だ、大体、あなたと唯人ゆいとに子供が生まれたらどんな風になるのよ!? 私はおばあちゃん!? それとも旦那の連れ子!?」

「そんなこと言ったら、心春こはるちゃんと唯人ゆいと君に子供出来たら、私はどうするの!? 歳の離れた姉弟とかになるの!?」


 よーーし! 解散だ解散! 

 会話が危険な領域になってきたので、俺はここで撤退することにします!


 第一回、古藤家家族会議! これにて終了!


 二人に見つからないように、ゆっくり動いてこの場を退出しよう!


「ちょっとあなた!」

唯人ゆいと君!」


 ……と思っていたのだが、あっさり二人に見つかってしまった。


「「結局、どっちが好きなの!?」」


 またふりだしに戻ってしまった……。

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