28. 自分の墓参り ~とある日の追憶~
真夏の太陽がじんじんと照り付ける。
雲一つもなくて、どこか吸い込まれそうになるくらいの青空だった。
今、俺たちは古藤家のお墓があるお寺に来ていた。
娘に本当のことを言わないというのは、やっぱり心の中でずっともやもやしていたのかもしれない。
当然、この場にはオフクロと
「私は別にいいんだけど、何で
「こ、これから大切な話があるから」
「大切な話? お墓で?」
「――ふぅ」
誰にも気づかれないように小さく深呼吸をする。
こんなに緊張するなんて、
「えっ? 何かみんな怖い顔してるよ!? これから何かあるの!?」
「
オフクロが
さすがのオフクロも今日はおちゃらけない!
「私ね、ハーレム賛成派だから」
オフクロが俺の腹をこんこんと肘で小突いてきた。
前言撤回!
やっぱりこいつめちゃくちゃふざけてるわ!
母親からハーレムという言葉を聞かされるこっちの気持ちも考えてみろってんだ!
大分、俺の
「?」
いいんだよ! そのまま
「……ふぅ」
アホなやり取りの後に、もう一度小さく深呼吸をする。
何かが変わりそうで、何も変わらない予感もする。
俺たちは、そんな仕方のない話をしながら石畳の階段を上っていった。
※※※
ちゅんちゅん
鳥のさえずりが聞こえてくる。
オフクロが手際よく、お墓の掃除と花を準備していく。
――本当に何年ぶりかな。
現代に転生してからは一回もここに来たときがなかった。
自分と
(本当に死んでるじゃん俺)
墓石に刻まれた自分たちの名前を確認する。
自分の仏壇を見たとき以上の色々な複雑な感情が奥から湧き出てくる。
当たり前だが
享年はとある年の九月九日。
そのときのことをあまり思い出したくないが――。
●●●
数年前の九月九日
今日は
今日は、日帰り旅行でもしながら豪華なディナーを三人で食べよう!
「そんな余裕うちにはないよ?」
「がーん」
貧乏暇なし、甲斐性なし。
折角の誕生日なので今日を特別な何かにしてあげたかったが、お金に余裕がないのでそんな贅沢はできなかった。
なんて情けない男なんだ俺は……!
二人にラクをさせるためにこれからはいっぱい働かなければ!!
「まーた、そんな顔してるし。ねー、
「お父さん!」
「ほら」
人のことを指差しちゃ――可愛いからまぁいっか!
「そ、そうだけど、やっぱり
「もー! いいからとりあえず今日を楽しもうよ!」
結局、
うぅ……。
思ったようにはいかないものだ。
自分の経済力のなさに落ち込みかけるが、
「お父さんの抱っこがいい! お母さん嫌い!」
「な、なんでー!?」
「しょうがないなぁ
「えへへへ。お父さんの匂いがするぅ」
「いつもいつもーー!」
嫉妬の炎に包まれた
「痛い痛い! ドメスティックバイオレンスだ!」
「ドラマチックなんとか?」
「全然違う! ドメスティックとドラマチックを間違えるか普通!?」
「ドラマチックって素敵な言葉よね~」
「勝手に話を進めるな!」
相変わらずほわほわしたことを妻が言ってくる……。
「それで、これからどうするの?」
「三人でアーケード見て回りましょう!」
「別にいいけど、何か欲しいのあるの?」
「ううん! ただ見るだけ! 見ーてるだーけー!」
妻がおどけてそんなことを言っている。
こ、子供のときにそんなCM見たときあるような……?
それにしても自分が情けない!
せめて、この二人が欲しいと思えるのはすぐに買えるくらいに稼げるようにならないと!
目指せ脱貧乏!
※※※
「あーー!
「折角、俺のとこに来たのに……」
「誘拐犯め」
「可愛い可愛い!」
「道端で頬ずりするな! 恥ずかしい!」
俺の言葉を聞いても、
「今日で
「いつまでもやるさ! そのために親父に言われてずっと鍛えていたんだし!」
「それは絶対に嘘でしょ」
別に何もしなくても、この二人がいれば毎日がかえがえのない特別な何かになっていく。
間違いなく俺は妻のことを愛していたし、
これからも、ずっと一緒にいられるものだとこの時は思っていた。
※※※
キャーー!!
近くで悲鳴なような声が聞こえてくる。
「なんだろ? 随分騒がしいけど」
「なんだろうね?」
「
「うん」
ダダダダダッ!
俺たちが踵を返そうとしたとき、ふいに誰かが勢いよくこちらに走ってきた。
――
ドンっ!!
咄嗟に、二人にぶつからないように間に割って入った!
ふんっ! 親父に言われて鍛えていて良かった!
そんなちょっとやそっとじゃ俺は倒れないぞ。
それに
「ちょっと! 急いでいるみたいだけど、こっちは子供がいるんだから気をつけて――」
「あ、あなた! それ!」
「えっ?」
瞬間、お腹のあたりに激痛が走る。
――男の手にはナイフが握られていた。
俺は咄嗟に、
●●●
自分たちの名前が入った墓を見つめる。
(……もしかしたら親父がそっちから俺たちを追い返してくれたのかな? だったらずっと見守っててくれよ)
前世の父にそんな思いを投げかける。
今度こそ、家族を幸せにするために――。
大切な家族を……
――今日がそのための第一歩だ!
「
「だ、だからなーに!? 今日はみんな様子がおかしいよ!?」
「ごめん、それはこれから話せばわかるから」
「う、うん……」
「とりあえず
「どういうこと?」
「本当は……。本当は俺はお前の――」
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