4. 父と娘は同級生 後編
次の日
「
「い、いや、利き手空いてるから大丈夫なんだけど……」
「
「だから利き腕が空いてるから……」
原因は不明。
「
「この手じゃまだちょっとなぁ……」
なんでだ!
一体何が起きたんだ!
最初にプリントを渡されたときの冷ややかな表情はどこにいった!?
「
「ううん! 私のせいでそんな風になっちゃったんだもの! 私が
な、何を言ってるんだこいつは。
たかが左腕の親指の骨折くらいで、そこまで責任を感じなくてもいいのに。
「だから別に――」
「
俺が
「ちょっと体育倉庫にこれ取ってきてほしいんだけど! 先生から頼まれちゃってさ」
「これ?」
その男子はぺらっと俺にメモ書きを渡してきた。
「って、結構重そうなのあるじゃん! 一応、俺怪我人なんだけど!」
「いいから! いいから!
「「?」」
どういう意味か分からず、思わず
そもそもその雑用はお前が頼まれたんじゃないのか。だったらお前が行け。
「じゃあ頼むぞ
「ちょ、ちょっと!」
そう言って、その男子はドタバタとどこかに行ってしまった。
「自分でやれよなぁ……。じゃあ悪いけど
「うん! もちろんだよ!」
※※※
知 っ て た。
思いっきり体育倉庫に閉じ込められてしまった!
絶対、閉じ込めた犯人はさっきの男子だ!
こんなベタなことやるのはどの時代も変わらないんだなぁ……!
「こんな小学生みたいなこと。とりあえず、少し待てばすぐ
「そ、そうなんだ――」
体育服の
顔は紅潮し、こちらを見ないように目線をそらしていた。
肌が白いので、何かの拍子で赤くなったときはすぐ分かってしまう。
「そんなに意識されると、それこそ皆の思うつぼだからね」
「ご、ごごごごめん!」
そう言うと、
「ご、ごめんね。何だかみんな噂してるみたいで」
「噂?」
「だ、だから私と
ガタタッ!!!!
ガタタタッ!!!!
「じ、地震だ! これは大きいぞ!!」
「う、うん」
「あっ! あぶない!!」
地震の振動で、
「えっ!?」
ドカドカドカドカ!!
周囲で沢山の何かが派手に倒れる音がした!
※※※
「大丈夫か
「ゆ、
「俺は全然大丈夫! ケガはないか!?」
「わ、私は大丈夫だよ」
俺は、落ちてくる荷物から
俺の背中には荷物やら、倒れた棚やらが寄りかかっていた。
重いし、背中が痛かったが、お互い無事なのでとりあえずひと安心だ。
「腕つらいでしょ? もっと私に体重かけていいよ?」
「そういうわけには……」
とは言ったものの、左手の親指が骨折していて身を支えるのつらかったので、少しだけ腕を曲げて
「少しずつ上の荷物ズラしていくから、
「えへ、えへへへ」
「ど、どうした?」
「だから、もっと体重かけていいって」
「え?」
ふいに
「えへへ。昔嗅いだお父さんの匂いがするぅ……!」
「そ、それ同級生に言うのどうなの?」
「私にとっては誉め言葉だし。何だか落ち着くなぁ」
「い、いいから離れてくれない? 普通に危ないから!」
「もう少しこのままがいい」
スンスンと匂いを
も の す ご く 複 雑 だ !!!
あの
まさかあの
元気いっぱいで、何にでも興味を示す子だった! 何でもやってみて、どんな失敗をしても明るく笑っている子だった!
そんな純粋無垢だった
い、いや、まさに今見せてはいるのだけど……。
熱に悩まされたような目つきで、顔は真っ赤になっている。
密着した身体からは、
「なんか
「お、落ち着いてるのこれ?」
「なんだかね、
「……」
今の俺はその言葉を黙って聞くことしかできない。
「私が小さいころにね。お父さんもお母さんも死んじゃったんだ。私、お父さんのことが本当に大好きで大好きで。よくお母さんと喧嘩ばっかりしてたなぁ」
「……そっか」
「
ほんの少しだけ、この子が抱えていたものを
きっとずっと寂しかったんだろうなぁ。
俺も母親も急にいなくなってしまったのだから。
――
今すぐ。
今すぐこの子に。
この子に、本当は自分がお前の父親だと伝えたい。
お前のことをずっと愛していたと伝えたい!
「
「えっ」
そう言って、
背中に寄りかかっている荷物の圧力もあり、思ったよりもずっと強く抱きしめてしまっていた!
もしかすると、失った時間を取り戻せるのかもしれないという期待にいっぱいになっいた!!
「俺……本当は……。本当は! お前の――」
ガラララ!!
「「「大丈夫かーーーーー!!!」」」
ふと、体育館倉庫の扉が開いた。
「うわぁああ!
「ち、ちがっ!!」
クラスメイトの男子が大声でそんなことを言い始まった!!
「えぇええええええええ!?」
倉庫の外から、がやがやと騒がしい音が聞こえてくる。
「ま、まままずい!!」
「私は別にいいよ。さっきの続きの言葉が聞きたい」
「よくない!! 全然よくない!!」
クラスメイトの野次馬が次から次へとやってくる!
「いいから離れろ!」
「えへへへ。仕方ないなぁ」
違う!
その反応は間違っているぞ娘よ!
これじゃまるで恋してる女の子と話しているみたいだ!
い、今はっきりと分かってしまった!
分かってはいたのだが、再認識してしまった!
今の俺はこの子の親じゃなくて、ただの同級生なのだ!!
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