11ー2. 同級生に怒られた! ホテル編

◆ 古藤ことう琴乃ことの ◆



「ねぇねぇ、唯人ゆいと君。腕組んでいい?」

「ダメに決まってるだろ」

「恥ずかしがっちゃって!」

「そんなんじゃない!」

「じゃあ勝手に組んじゃうもん!」


 唯人ゆいと君が恥ずかしがっているので、無理矢理くっついてみた。

 左手にはまだ包帯が巻かれているので、右側に組み付いた。


「やめろって恥ずかしい!」

「やっぱり恥ずかしいんじゃん!」


 唯人ゆいと君が気まずそうにしている。

 私だって恥ずかしいが、いつも大人びた唯人ゆいと君が動揺しているのが面白くてついついやり過ぎてしまう。


「はぁ、全く」


 唯人ゆいと君があきらめて力を抜いてくれた。

 ただ、こちらには目線を合わせようとはしてくれない。


唯人ゆいと君、そんなにキラキラに行くの嫌なの?」

「やだ」


 いつもなら優しい唯人ゆいとくんが、初めて私に明確な拒絶の意思を示した!

 唯人ゆいと君にそう言われるだけで心がナイフに切り裂かれたみたいに痛い……。


「うぅ……」

「な、なんだよ」

唯人ゆいと君はあそこのキラキラ行ったときあるの?」

「ないよ! ないない!」

「分かった! 唯人ゆいと君は行ったときあるから行きたくないんだ!」

「違う違う! そうじゃない!」


 絶対にその反応は唯人ゆいと君は行ったときがある!


 ずるいずるい!

 どんなお店だか私だって知りたい!


 唯人ゆいと君の知ってるものは私も全部知りたい!!


 それにあそこはずっと気になっていたところだった!

 近くにあるのに行ったときがないし、友達に聞いてみても「分からない」とか「他の人に聞いてみたら?」といつも誤魔化される!


「前通るだけだからな!」

「分かってるよー」


 唯人ゆいと君が念を押すように何度も同じことを言ってくる。


「な、何でこんなことに……」


 唯人ゆいと君の右手からは、どこか緊張している様子が伝わってきた。




※※※




 唯人ゆいと君とそのキラキラに向かって歩く。

 

 近くなのですぐ着いてしまった。

 大きくて派手な看板がすぐに目に入った。


「休憩時間三千円だって」

「読むな、見るな、興味を持つな」


 看板には休憩とお泊りの時間の料金が書いてある。

 なーんだ! ただのホテルだったんだ!


 思ったよりも普通だったのでがっかりしてしまった。


「な? そんなに面白いものじゃないだろ?」

「うん……」

「じゃあそのまま帰ろ――」


 唯人ゆいと君が帰ろうとする!


 やだやだ!

 このまま帰ったら、今日は唯人ゆいと君と一緒にいられなくなっちゃう!


「中に入ってみたい!」

「はぁ?」


 映画を見に行くものだと思えば三千円はそんなに高い金額じゃないと思う。


 ……しばらく何かは我慢しなきゃいけないけど。


「絶対にダメ! 約束が違う!」


 唯人ゆいと君が毅然と私にそう告げた!

 いつも優しい唯人ゆいと君が、今日は私を突き放す言い方をする!


「こういうところは、本当に好きになった人と来なさい。結婚してもいいって思えるくらいの人と来なさい」


 唯人ゆいと君が少しだけ寂しそうな顔をして私にそう言ってきた。


 なんでそんなこと言うの……。

 あのときはあんなに私のこと好きだって言ってくれたのに。


「ゆ、唯人ゆいと君は私のこと嫌いになっちゃったの」


 涙がぽろぽろとこぼれおちてきてしまった。


 唯人ゆいと君のことを考えると胸が苦しくなる。

 唯人ゆいと君のことを考えるといつもの私じゃいられなくなる。


「な、何も泣くことはないだろう!?」

「だって……だって」


 唯人ゆいと君が私の涙を見て動揺していた。


 違うの。本当は困らせたいわけじゃないの。


「う、うーん……」


 唯人ゆいと君はしばらく何かに頭を悩ませていたが、しばらくするとふいに私の肩を掴んできた!


「いいか琴乃ことの。ここは琴乃ことのが思っているように簡単に入っちゃいけないところなんだ」

「どういうこと?」

「い、いいか。ここはな恋人同士できてな。その……あの……なんだ」


 唯人ゆいと君が何かを言いづらそうにしている。


「だからな、このホテルはな男女がエッ――」


「あ゛ぁあああああああああああああああああ!!!」


 唯人ゆいと君が何かを言おうとしたとき、突然大きな叫び声が聞こえてきた!!


「ちょ、ちょっとぉおお!! あんた琴乃ことのに何してるのぉおおお!?」


 ある女の子が、凄い勢いで唯人ゆいと君に詰め寄っていく!


「ぶっ殺す!!」



バッチーーーン!!



「いってーーーー!!」


 唯人ゆいと君が思いっきりビンタされていた!


「ちょ、ちょっと! 心春こはるちゃん! 何やってるの!?」

「はぁ……はぁ……! あんた絶対に許さないんだから!!」


 この女の子の名前は、木幡こはた心春こはるちゃん。

 クラスで一番仲の良いお友達だ!

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