6ー1. 娘、今度は痴漢にあう

 娘とのデート当日!


 俺は、駅前で琴乃ことのと待ち合わせをしていた。


 映画館は隣町にしかないので、俺たち学生は電車に乗っていくしかない。


「ここらへんは変わったなぁ」


 最寄りの駅は、俺の知っている駅よりずっと新しいものに変わってしまっていた。

 昔は木が剥き出しになっていて、無人駅になりそうなくらいボロボロだったのに。


 今は真っ白な壁で改築されて、とても綺麗な駅になっている。


「生意気にコンビニなんかできちゃってさ」


 駅の近くにはコンビニもできていた。

 前世の俺が学生の時はそんなものはなかった。


 何だか、自分の知らない街になっているようで少しだけ寂しさを感じてしまう。


「ゆ、唯人ゆいとくん待った!?」

「待ってないよ。今来たところ」


 琴乃ことのがやってきた。

 実の娘に待ち合わせのド定番の台詞を言ってしまった。


 時間は九時五十分。

 待ち合わせ時間のぴったり十分前だ。


「ご、ごめんね。ちょっと準備に時間がかかっちゃって!」

「別に遅刻してないんだから謝らなくてもいいって。っていうか準備って何?」

「折角のデートだからちゃんとしようと思って! 私の今日の格好どうかな?」


 琴乃ことのが自分の服を見せるようにくるくるとその場で回ってみせる。


「ふむ」


 ひらひらした白いブラウスに緑のリボン、黒のチェックのスカートをはいている。

 

 髪は低めのポニーテールにまとめていて、顔はうっすらと化粧をしている。


 いつも制服か学校のジャージ姿しか見ていなかったのですごく新鮮だ。


 年相応の格好で琴乃ことのにとても似合っていると思う。



 ある一点を除けばだが!!



「ど、どうしたの唯人ゆいとくん? そんなに難しい顔して……。そんなに似合ってなかった……?」


 琴乃ことのがものすごく悲しそうな顔をしていた。

 ぐっ……! その顔は俺に効くからやめてくれ!


「いや似合ってる! とても琴乃ことのに似合ってる! けど――」

「けど?」

「スカート短くない?」


 琴乃ことのの膝上までしかないスカートをマジマジと見つめる。


「そ、そう?」

琴乃ことのはもっと長いスカートのほうが似合ってると思うな。そのスカートもとても似合ってはいるんだけど、そんなに短いと凄く心配だし」

「し、心配なの?」

「そりゃ心配になるさ。琴乃ことののその綺麗な足を他の男に見られるのはとても(親として)耐えられない」

「えぇええ!?」


 琴乃ことのの顔がみるみるうちに赤くなっていく。


 今頃になってスカートが短いことへの恥ずかしさに気付くとは……全く困ったやつだ。


「きょ、今日は着替えに戻る時間がもったいないからこのままでいい?」

「うん。今日は俺がついてるから大丈夫だと思うけど、一人で出かけるときはそういう格好は気を付けてほしいな。とりあえず今日は俺から離れないようにね」

「ゆ、唯人ゆいと君って凄く頼もしい!」


 こういう話って年頃の女の子ならもっとけむたがられると思ったが、どうやら素直に俺の話を聞いてくれたようだ。


「じゃあ、そろそろ電車来るしとりあえず切符買っちゃおうか」

「うん!」


 琴乃ことのが元気よく俺に返事をした。




※※※




「ここの電車ってこんなに混むんだっけ……?」


 俺と琴乃ことのが電車に乗り込むと、既に車内はぎゅうぎゅうの満員状態だった!

 何とか電車に乗ることはできたが、人に押されて暑苦しい!


 少し失礼だけど、オタクっぽいお兄さんたちが多い気がする。

 そのお兄さんたちのリュックに刺さっているポスターサーベルが、電車に揺られてぽこぽこと俺の頭を切りつけてくる!


「なんかね、今日は近くでライブがあるみたいだよ」

「ライブ?」

「うん! テレビで有名なあのみーちゃんが来るんだって!」


 みーちゃん。

 俺が前世の時は有名アイドルグループのセンターだった子。

 俺が死んでいる間に、グループを脱退して歌手として大成していたらしい。


「へ、へぇ。あのみーちゃんがねぇ」

唯人ゆいとくんもみーちゃん好きなの!?」

「ま、まぁそれなりに……」

「みーちゃん可愛いよねーーー!」

「そ、そうだね!」


 前世の妻がみーちゃんの熱狂的ファンだったので、俺もなし崩し的に詳しくなっていた。

 そんな風に琴乃ことのがみーちゃんで喜んでる姿を見ると亡き妻とダブって見えちゃうなぁ。


「ムッ」

「何だよ急に怒った顔して」

「今、みーちゃんのこと可愛いって言った」

「そりゃみーちゃんは可愛いだろ。琴乃ことのだって可愛いって言ってたじゃん」

「私はいいの! 唯人ゆいと君はダメ!」


 とんでもない罠だった!

 こんなの回避不能すぎる!!


 前にもこんなやりとりを妻とした記憶がある!


 一緒に出かけているときに、女性の前で他の女性を可愛いと言うのはNGなのだ!


 それがえんもゆかりもないアイドルだろうが、芸能人だろうがだ!


「悪かったって」


 ここは男の俺が引くしかない。

 理不尽極まりない世界だが、世の中そんなものなのだ。


「私は可愛いって言ってもらってない」

「へ?」

「私はまだ唯人ゆいと君に可愛いって言ってもらってない」


 琴乃ことのがまるで子供のように唇を尖らしている。

 いや、まるでも何も正真正銘の俺の子供なんだけどさ……。


「似合ってるって言った気がするけど」

「可愛いとは言われてないもん」


 変なところで琴乃ことのが拗ねていた。


「可愛いって。琴乃ことのは凄く可愛いよ」


 これは本心からの言葉だ。

 俺は琴乃ことののことが可愛くて仕方ないのだ。


(……しまった! ちょっと投げやりな言い方だったか!?)


 言ってから気が付いたが、下手をすれば火に油に注ぐ言い方になってしまっていたかもしれない!


「えへ、えへへへへ。唯人ゆいと君に可愛いって言われた!」


 本ッッッ当にただの杞憂だった!!!

 あっさりと琴乃ことのの機嫌が直ってしまった!



 あまりにも!!


 あまりにもちょろすぎる!!



 こいつ本当に変な男に引っかからないだろうな。

 まだ高校一年生だが親として凄く心配になってくる……。


 そうならないように俺がしばらく見張っていなければ!



ビクッ!!



 そんな決心をより一層固めていたら、琴乃ことのの体が急に強張こわばったのが分かった。


「どうした琴乃ことの?」

「し、したぁ……」


 琴乃ことのが消え入りそうな声で俺にそう呟いた。


「ししたぁ?」

「ち、違くてお尻が……」

「お尻?」


 そう言われて、琴乃ことのの小さなお尻を見てみる!



さわ


さわさわ



「……」



さわ


さわさわさわ



 琴乃ことののお尻が何者かに撫でられていた!!!


 そのままスカートをめくって――!



「ってやらすかボケぇええええ!!!」


 その手を思いっきり掴み上げた!!


「てめぇえええ! 俺のおんなになんてことしてくれてんだ!!!」

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