現代に転生したら前世の娘が同級生だった件。娘がぐいぐい来るが攻略しません、攻略もさせません。

２. 娘、暴漢に襲われる

「お姉ちゃん可愛いよね、モデルとかやってるの？」

　娘の琴乃（ことの）が、知らない男たちにナンパされていた！

「今テレビのアンケートでさ、女子高生の実態みたいなの聞いててさ。謝礼も弾（はず）むし、時間もかからないからちょっとそこの車で話聞かせてよ」

　怪しい……。

　あまりにも怪しすぎる……！

　そもそも何故アンケートごときで車に連れ込む必要があるのか！

「何のアンケートなんですか？」

「ちょっと女子高生の服装のトレンドとかが知りたくてさ。インナーとかの調査なんだ」

　インナーとか言っちゃってるし。

　あかんやつだ！　絶対いかがわしいやつだ！

「……お金貰えるんですか？」

「そりゃいっぱい！」

「うーん」

　何悩んでんねん。

　さっさっと断れ。

「君、可愛いからいいでしょ。お願いだから！　少し！　少しだけだから！」

「じゃ、じゃあちょっとだけなら……」

「アホかーーーー！！」

　つい琴乃（ことの）たちの目の前に出てしまった！

「今時（いまどき）そんなのに引っかかるやつがいるかーーー！！！」

「えっ？　湯井（ゆい）くん？」

　琴乃（ことの）の大きな目がまん丸になっていた。

「それ！　絶対エロいやつだぞ！　インナー見せてとか言われて、どんどんめくられちゃうやつだぞ！」

「えっ？　えっ？」

「そもそも高校生をナンパするってだけでやばいだろ！」

　そんなことを琴乃（ことの）に力説していたら、ふいに後ろからポンっと肩を掴まれた。

「姉ちゃんの知り合い？　こっちの話なんだから兄ちゃんは――」

ズドォン！！

　俺は肩を掴んできた男のことを思いっきり背負い投げしていた！

「今、（娘と）大切な話してるんだから邪魔するなぁあああ！」

「キャーーーー！！」

　その男に気を取られていたら、琴乃（ことの）が男たちに羽交い絞めにされている！

　ぞろぞろとどこかからか、仲間もやってきていた！

「早く車に乗せろ！　やることはやるのはその後でいいだろ！」

「へぇ、意外に姉ちゃんスタイルいいじゃん」

「ふがっふがっ！」

　琴乃（ことの）の口がテープで塞がれていた。

「なにやってんだお前らぁああああああああ！！」

　怒りで目の前が真っ赤になる！

　人の愛娘に……！　あいつと俺の大切な娘に何してくれてんだッ！？

　俺は感情のまま一直線に琴乃（ことの）のほうに走り出した！

「なんだこのガキィ！！」

　一人の男が俺の顔面目がけて思いっきり殴りかかってくる！

ズドォン！

　俺は寸前でその拳を避けて、そいつのことを思いっきり払い腰で投げ飛ばした！

「柔道五段！　剣道六段！　舐めんなよ！！」

「はぁ！？　その歳でそんなの取れるわけねぇだろぉおお！！」

　男たちが更に襲いかかってくる！

「俺の一番大切なものに手を出しといて！　お前ら無事で帰られると思うなよぉおおぁあ！！」

　俺はそのナンパ男たちを、完膚なきまでに叩きのめしてやることにした！

※※※

「いてててて……」

　なんとか全員撃退できた……。

　できたものの、俺も殴られたりしてボロボロになっていた。

　さすがに高校一年生の身体（からだ）で、大人（おとな）数名（すうめい）を相手するのには無理があった……。

　あの後、すぐに近所の人が騒ぎを聞きつけて警察を呼んでくれた。

　何でも噂になっていた不審者はこいつらだったらしい。

　俺は、不審者に立ち向かった勇敢な高校生として警察に感謝され……ることはなかった！

　危険なことはするなと、警察の若いお兄さんに思いっきり怒られてしまった！

　く、くそぅ……！　

　昔は、あんなあんちゃんよりも俺のほうが年上だったのに！

「ゆ、湯井（ゆい）くん大丈夫！？」

　病院のロビーに座っていたら、琴乃（ことの）が心配そうな顔で俺のところにやってきた。

「俺は大丈夫だよ。俺のことよりそっちは大丈夫？」

「わ、私は大丈夫だけど。そ、それ！？」

　琴乃（ことの）が俺の左手に巻かれた包帯を見てびっくりしていた。

　俺の左手の親指は軽い骨折をしてしまっていた。

　骨がくっつくまでおおよそ三週間はかかるとのことだ。

　三角巾で腕を吊るほどではなかったのだが、おおげさにぐるぐると親指に包帯が巻かれていた。

「ほ、本当にごめん！　私のせいで！」

　その包帯を見た琴乃（ことの）の表情がどんどん青ざめていく。

「だから大丈夫だって。そんなことよりも」

「えっ？」

「あんなのに引っかかるやつがいるかッ！！」

　琴乃（ことの）のことを思いっきり怒鳴りつけてしまった！

　病院のロビーが一瞬で静まり返った。

「どう見てもヤバイやつだっただろ！　あんなのに引っかかりそうになりやがって！　自分の身は自分で守らないと！」

「……ッ！」

　琴乃（ことの）との間にしばらく沈黙が流れる。

「――ぐすっ」

　その沈黙を破って、琴乃の大きな目からは涙がこぼれ落ちていた。

「そんなに怖かったらなら何で……」

「違うの……私のためにそんな風に真剣に怒ってくれるのが嬉しくて……」

「はぁ？」

「だって！　だって！　おばあちゃん以外にそんな風に言ってくれる人って今までいなかったんだもん！　うわぁああああん！」

　思いっきり琴乃（ことの）が泣き始まってしまった。

ざわざわ

　病院にいる人たちから一斉に視線が向けられる！

　しまった……。

　つ、つい大声を出してしまって病院の人たちに迷惑をかけてしまった。

「はぁ。何でお前が泣くんだよ」

　ポンポンと琴乃（ことの）の頭を撫でてやる。

　昔はこれでよく泣き止んだんだが……。

「うぅ、ぐすっ」

　大きくなったなぁ。

　昔は手の平で充分収まるサイズの頭だったのに、今はとても収まりきれなくなっていた。

　琴乃（ことの）はもう高校一年生だもんなぁ。

「えへ、えへへへ」

「な、何だよ、急に笑い始まって」

「何だかそんな風に頭ポンポンされてると、お父さんにしてもらってるみたい」

「……」

　琴乃（ことの）が昔見たようなぐちゃぐちゃの泣き顔で、こちらを見つめていた。

「ところで湯井（ゆい）くんは、何であの人たちが怪しいと思ったの？　何でアンケートってだけでいかがわしいって思ったの？」

「お、男ならみんな分かるものなんだよ！」

「ふーん？」

　俺の言葉に、前世の娘の琴乃（ことの）がめちゃくちゃ不思議そうな表情を浮かべていた。