人間みたいな恋をする。

鍛治原アオキ

第1話 突然の雨、出会い 天使さんこんにちは。

(今日も雨か。)

そう思いながら家を出たのは、確か朝の8時過ぎ。なんであんなに雨模様だったのに傘を忘れたのか不思議だ。

大学から家に帰ろうとしていた時、運悪くゲリラ豪雨に見舞われた僕は、近くにあったコーヒーチェーン店に逃げ込んだ。

(まあ、仕方ないな。とりあえず、ここで時間を潰そう。)

「あの、ドリップコーヒーのアイスをお願いします。」

と適当にコーヒーを注文し、雨粒がガラス窓に激しく当たる様子が見える、カウンター席に移動した。

(雨激しいな、こんなに当たったら窓割れないかな。)

窓が近いので、雨がガラスに当たって弾けるようなバチバチという音が間近で聞こえる。

(えっと、どこだったけ。)

ガサゴソと先程まで背負っていたリュックサックの中を漁る。

(あったあった、タッタカターン!参考しょーと小せつー!)

と脳内で効果音をつけながら取り出したのは、この間買った参考書と小説。

「こんなに時間あるのも珍しいし、丁度いいや。これ読んどけば雨も止むでしょ。」

と独り言を言いつつ、参考書のページをパラパラとめくりはじめた、その時だった。


カランコローン


店内に響くドアベルの音。

(ん?)

何気なくドアの方に目を向ける。するとそこには、

「天、使?」

そう呟いてしまうほど、店に入ってきた人は真っ白で美しかった。


今でも脳裏に焼き付いているけれど、手に持った大きな白い傘があるにも関わらず彼女はびしょ濡れだった。雨に濡れて透けたシャツ、真っ白で長めのプリーツスカート 、軽めのボブヘアは初雪のごとく、白く染められていて、全身が真っ白でまさに天使だった。


コツコツ

彼女はまっすぐレジカウンターに進むと、そこにいた店員に話しかけた。

「あの、タオルって貸していただけませんか?」

張りのある、凛とした美しい声だった。

レジにいた女性店員は彼女に見とれていたのか、少し間があってから返事をした

「………ほぅ……じゃなくて、あっはい!ったタオルですね、わかりました!少々お持ちください!」

トコトコ バタンっ

女性店員がスタッフルームに足早に駆け込む音と、扉が勢いよく閉まる音がした。


天使のような彼女は、扉が勢いよく閉まるのを見届けた後、

「……ふーん、こんな感じなんだー」

と呟いて、グルリと店内を見回した。

そんな彼女をチラッと覗き見る、すると

バチ!

しっかり目があってしまった。

(あ、気まず。どうしよ、えーっと)

この気まずさをどうしようかと考えていると、

ペコ

彼女がふふっと笑ってから、小さく会釈してきた。少し驚いたものの、僕も彼女にならって会釈を返す。

(あ、ども・・・って会釈?)

するとまた、彼女はふふふっと幸せそうに笑うので、なぜか僕はバツが悪くなって顔を背けた。

(あんな風にされたら、恥ずかしいじゃないか。)

そう思う僕の顔はすごく真っ赤だったのだろう、今でも彼女に笑われている。


トコトコ パタン

丁度、先ほどの女性店員がスタッフルームから、タオルを持って戻ってきたので彼女は笑いをおさめる。

「お待たせしました、タオルです。あの、小さくてすみません、必要であればもう少しお持ちしますけど?」

「ありがとうございます、大丈夫ですよ。これで十分です!こんなにビチョビチョでお店に駆け込んだ私が悪いんですから」

「いえいえ、こんな大雨だったら私も同じようにしてると思いますよー。」

「そうですかね、だったら良かったです……へ、へくしょん!」

「あ、大丈夫ですか?何か温かい飲み物でも?」

「そうですね、そうします。………じゃあ、このチャイティーラテのホットとシナモンロール一つお願いします」

「かしこまりました」

その後、会計を終えた彼女は


コツコツ


とヒールを鳴らし、僕の方に来て、

「あの、隣座ってもいいですか?」

と尋ねてきた。

「あ、はい。どうぞ」

「ありがとうございます」

あの時、隣に座ってきた彼女との距離はとても近かった。


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