第30話
「そろそろいいかな。真白さんを呼んだ理由なんだが、そちらの明石さんが呪いを被っているのが発端らしいんだ」
「なるほど、呪いですか……それでわたくしをお呼びになったのですね。しかし、呪いでしたらば奥様のほうがお詳しいのでは?」
「母さんは忙しい人だから。……真白さんに見てもらって、厳しいようならぼくから話すよ」
「かしこまりました」
(汀くんの、お母さん?)
真白はどうやら呪いに詳しい存在のようで、それで汀がこの場に呼んだのだと言うことは理解できた。
だがその真白によれば、汀の母親のほうが詳しいという。
汀の母親といえば三ツ地家の現当主だという話をクラスの女子がしていたことを可紗も聞いたことがある。
なんでも、駅前のビルで働いていた男性を見初めて交際を申し込んだので、当時話題になったなんて話も出ていたくらいだ。
(逆玉の輿だとかなんとか言ってたっけ)
ぼんやりとそんなことを考えていると、マオがお茶とお菓子を並べ始める。
出てきたのは紅茶とロールケーキだった。
純和風な部屋でこれはなんだか似合わないなと可紗が思いながらも紅茶に手を伸ばすと、ぱちりとマオと視線が合う。
へらりと笑顔を向けられて、可紗もへらりと笑顔を返したら、何故か握手をされた。
どうしたらいいのだろうと可紗が戸惑う中、真白と汀は真面目に会話を続けている。
「明石さんの解呪を終えることができれば、可紗さんにかけてしまった呪いも安全に解除できるだろう」
「……明石様がそう仰っておられるのですか?」
「そ、それはまあ……呪いのせいで魔力が落ちてきているのは、感じているから……そのほうが間違いなく、できると思う……」
ウルリカが気まずそうにゴニョゴニョと言葉に、汀と真白が顔を見合わせて頷き合った。
そして真白が体ごとウルリカに向いたことで、彼女はハッとした様子で慌てて立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待って、まだワタシはアンタたちを信用したわけじゃないんだから!」
「そんなことを言ってる場合じゃないだろう。呪いは進行しているってさっきもぼくと話して理解しているはずだ」
「だけど……!」
確かに、今後どうするか話し合うべきだということで汀の部屋にやってきたのに、彼女が納得しないまま話が進んでいるように可紗にも思えた。
だがアレもイヤこれもイヤでは話が進まないのも確かで、可紗は全員をぐるりと見回してからマオと手を離して、ウルリカのほうを向く。
少しだけマオが残念そうな顔をしていたが、それには気がつかない振りをした。
「ねえ明石さん、おまじないについて
「それは……ええ、そうよ。だからアンタが頑張れば万事解決じゃないの!」
「でもそれってさあ……」
可紗は渋い顔をしてウルリカを手招きし、スマホを取り出す。
首を傾げる彼女に画面を見るよう手で示しながら、可紗はメッセージ画面に文字を打ち込んだ。
【恋愛成就って言ってたけど私がフラれたらどうする?】
その文字を読んで、ウルリカが苦い顔をする。
なんとしてでも恋愛成就をしろと言いたいところだろうが、彼女だって恋のおまじないをした側だ。
恋愛なんてものは、当たり前だが成功することもあれば、失敗することだってある。
その失敗が起きないようにおまじないをしていたのだから、恋愛成就しろと言うのは簡単そうに見えて簡単ではないと理解していたのだろう。
「で、でも……ホラ、どうなのよ。アンタに可能性は……」
「正直、難しいかなって……」
片思いだし。
声には出さずそう言えば、ウルリカも察したのだろう。
自分で言っていて悲しくなってきた可紗がしょげると、ウルリカもそれまでの強気な態度がやや軟化し、可紗の肩を優しく励ますように肩を叩く。
なんとなくそれに対してもやっとしつつも、互いに難航する恋について悩む者同士ということもあってか可紗も力なく笑みを返すだけだった。
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