第22話 『何故か俺が有名になっている件 (下)』
「しかし、あれは一体何だったのでしょうね?」
「さあ?」
「まあでも、修理代も掛らぬようでござるし。 ご飯も美味しいし万事オッケー塞翁が馬にござる」
カスミの言う通りだった。別に急ぐ理由もないし、まあ、町の見学でもして時間をつぶそうか。
「あー」
「何だかアンリちゃん、おっさん臭いです」
「他に人もいないし、別にいいじゃないですか」
胡坐を組んで呆ける俺にシルは額から汗を滴らせながらジト目でそう言った。
暇を持て余した俺たちはこの都市を満喫していた。工房から出る熱を利用したスチームサウナがあったのだ。
「でもでも、思わず『あー』って言いたくなりません?」
高温のスチームに十分に蒸されると外に出て水風呂に入り、また戻る。サウナというものに初めて入ったが、これが中々に素晴らしい。何だか体の中から悪いものが全て出ていくような、ある種の爽快感がこれにはあった。
脱衣所に『サウナで整おう!』なんて張り紙があったが、これが『整う』って感覚なのだろう。
「シルお姉ちゃんだって何だか肌が艶々してきていますよ?」
俺がそう言いながら彼女の鎖骨からおっぱいに指を滑らせていくと「本当ですか!」なんてシルは嬉しそうにするのを見て俺は指を舐める。少ししょっぱかった。
「あ、アンリちゃん、こんな場所じゃだめですよ」
俺が指を咥えながら胸をガン見しているのに気が付いたシルが腕で胸を隠す。
対して俺は『なんだよ。吸うくらいいいじゃないか』こんな感じの恨めしそううな視線を向けてやるのだ。
「む? 師匠、なんなら拙者のを吸うでござるか?」
何だ、いいのか? 俺は「わーい」なんて言いながらカスミの乳首に吸い付いた。
やはり、しょっぱかった。いや、そんな筈はない。乙女の乳首というのは甘いはずだ。
「師匠、そんなに吸うとくすぐったいでござる」
俺がもう片方に吸い付くとカスミは顔を赤らめながら目を泳がす。
「あー、カスミちゃん、えっちな顔しています!」
何やら嫉妬したシルが俺の後頭部におっぱいを押し付けながらカスミに抱き着いた。
至福のおっぱいサンドウィッチの完成である。
恐らく、みんなサウナが初めてだったのだろう。
俺たちの頭は熱にやられていたのだ。
そして、サウナから出ると俺たちは垢すりというものを頼んでみた。少しヒリヒリするがこれもまた良い。熱気により良く蒸された俺たちの体から引くほどの垢がすり出されていく。
流石にそれを食そうとは思わない。俺はそこまでマニアックではないからだ。
「アンリちゃんの体、もっちもちのスベスベですぅ」
「おお、確かに赤子の肌の様でござるな」
二人はお返しとばかりに簡易ベッドに寝転んでいる俺の背中からお尻に指を滑らせていく。ニヤニヤしながら俺を弄る二人に俺はまるで成人の如く無抵抗主義を貫くのだ。
何やらくすぐったかったりゾクっと言う感覚に襲われる。恐らく大人になれば、これが気持ち良いと感じるのかもしれない。
こんな感じで俺たちは数日を過ごしたのだ。
「おお、凄いでござる! ピカピカにござる!」
「アンリちゃんは我が氏族の恩人だからな。 サービスでミスリルコーティングも施しておいたよ」
修理が終わった刀を嬉しそうに見つめるカスミにドワーフの刀匠が上機嫌でそう告げた。
「しかし、ワシが本気で作った刀が一撃であんな状態にされるとは恐ろしい事だ」
正直、済まんかった。俺は彼の呟きに心の中で謝罪をした。
「分かるのですか?」
「ああ、刃のこぼれ方を見ると一撃だと分る。 しかも、相手は折る気など無く手加減をしての結果だ。 それに耐えられぬとはワシもまだまだだな」
「兎にも角にも感謝にござる。 さて……、早速、試し斬りがしとうござるな」
「じゃあ、コロシアムに出場したらどうだい?」
「ほう」
刀匠にそう提案されるとカスミの目が光った。
「私は出ませんよ?」
「当たり前にござる。 これは拙者の試し斬り故」
物騒な事を言っているが本当に斬る訳ではない。どうやら武器に魔法を掛けて不殺化するようだ。当たったら箇所や当たり具合によってポイントが与えられて勝敗が決まるらしい。
カスミはいくつか種類のある中からタイマンで負けるまで戦うっていう競技を選んだ。最終的にはチャンピオンとやれるらしい。
「アンリちゃん、お菓子と飲み物買ってきましたよ」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
この手の戦いに全く興味のない俺とシルはそそくさと観客席に移動すると観戦と決め込んだ。
カスミはもはや剣豪と言ってよい強さだった。彼女は危なげなく次々と対戦相手を下していく。そして、チャンピオンとの対戦にたどり着いたのだ。
「カスミおねえちゃん、がんばれー!」
「心得申した!」
「さあ、本日最後の試合は新進気鋭の刀使いと我らがチャンピオンとの戦いです!」
アナウンサーがブックを発表すると二人は対峙した。
相手はシミターとバックラーを持った強面のドワーフだった。ドワーフの武器と言えば斧や槌が多いのだが。彼は珍しいスタイルのようだった。
「それでは始め!」
「では参る!」
開始の合図と同時にカスミが切りかかる。彼女の放った四連撃を彼は盾とシミターを起用に使い三撃程受けて躱しきれなかった一撃を腕に受ける。
「おお! カスミちゃん、よい調子です。 このまま押し切っちゃえるのでは?」
そうシルが興奮気味で言ったが、そうはならなかった。
――流石、チャンピオンだな。 手慣れている。
彼は自分の避けきれない攻撃は敢えて受けているようだった。そして、無理せず体制を崩さない事でカスミの大技の気配を察知すると素早く対処していった。ここのルールでは腕を切られた所で何も問題がないのだ。
カスミが『桜花夢想連撃』を放とうと腰だめを作ると彼は素早く彼女の元に駆け寄りシミターで牽制をするとバックラーで胴を打った。
これでチャンピオンは勝てるのである。何故なら腕より胴の方がポイントが高いのだから。つまり、彼はここで勝つためにはどうすれば良いかを知り尽くしていた。
――しかし、実に詰まらない戦士だ。
試合は彼の有利でタイムアップを迎えた。ただ、勝利するだけのポイントが稼げなかったので休憩を挟んだ後に延長戦に入る事となる。
「カスミお姉ちゃん。 お姉ちゃんはわたしの弟子なんですよね?」
「うう……、面目次第もござらん」
いや、俺はそういう事が言いたい訳じゃない。休憩に入ると俺は素早くカスミの控室に行く。
アドバイスをしてやろうと思ったのだ。
「そうじゃないの。 師匠としては勝つためのヒントをあげようと思って」
「なんと!」
休憩時間位ではその程度の事しかしてやれないだろう。彼女の実力ならヒントが分れば勝てるはず。まあ、分らなくても……死ぬ訳じゃあない。
「『桜花夢想連撃』をわたしに放ってください」
俺はこう言いながら、備えてあった木剣を手に取った。
「分かり申した」
腑に落ちない感じではあったがカスミはそれに従う。
カスミは腰だめを作り六連撃を放った。俺はそれら全てに木剣を合わせ、更に三連を追加して彼女の体を軽く打つのだ。
「今、わたしタメを作りましたか?」
俺はこう言うと観客席に戻って行った。
「師匠が言わんとする所が分らぬ訳ではないが……。 『桜花……』」
カスミが腰だめを作るとチャンピオンが飛び出した。それを見た彼女は後ろに跳ぶと二連撃を放つ。
「拙者に出来るでござろうか?」
それを剣と盾で防がれると彼女は更に後ろに跳んで距離を取った。
チャンピオンも構えなおす。彼にしてみれば、このままタイムアップでもいい訳なので冒険をする必要などは無かったからだ。
カスミとしてはそうもいかなかった。なので彼女はがむしゃらに二連、三連と繰り返す。
余裕の表情のチャンピオンに対して肩で息をするカスミ。
時間は後僅かだった。
覚悟を決めた彼女は大上段で切りかかる。それをチャンピオンは剣で受け流すと盾で打った。
いや、打たれる事を予想した彼女が素早く横に跳んだ。
「女は度胸! これが最後にござる。 『桜花夢想連撃』!」
横に跳んだ瞬間に五連撃を放つ。そして、盾に打たれるとそのまま転がった。
「勝者、カスミ!」
そうアナウンサーが宣言するとカスミは満面の笑みを浮かべた。
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