誰がプリンを食べた!

@sodecaxtuku

この中に犯人がいる!

私は家族をリビングに集め、そう断言した。


「おい、お前突然呼び出してなんの用だよ」


兄がそう言ってきて母も父もその意見に同意し、デブはポテチを食べている。しかし家族も事件について知ればきっと事の大事さに気づくだろう。

私は一呼吸置き、その事実を告げる。


「今日家に帰ると、私のプリンが食べられていた」


それを告げると家族の表情が一変する。

兄は目を目開いて愕然とし、母はこの中に犯人がいる事が信じられない様子だった。

デブは二袋を開け始め。

父は腕を組み長い長い溜め息を吐き、ゆっくりと聞き返す。


「本当に、本当に食べられていたのか?何かの見間違いではなく」


「えぇ、一欠片も残っていなかったわ」


私は間髪入れずそうだと答えた。


家族に沈黙の時間が流れる。それも無理はない、家族の中にそのような大罪人がいるのだ。誰が犯人だろうと辛い結果になってしまう。

とりあえずと、父がこう提案した。


「とりあえず、アリバイを出していこう。自分の身の潔白を証明する事から始めるんだ」


父はそう言ってまず自分からと話し始めた。


「私はまず8:00に家を出て8:19分に電車に乗った。

そして、8:40分に会社に着き。そこから16:25まで働き、そして17:15分に帰ってきた」


父が話し終えると母へ目配せをし、母は話し始める。


「私はまず8:10分から大体9:30まで家事をしたわ。少し休憩を挟んでから買い物に行ったのだけど、いつ行ったかは少し。でも11:00前には帰ってるわ」

「そこから13時10分ぐらいに遅めの昼食を食べて、そこからもう少し残ってた家事をやって16:20からドラマを見始めたのよ」


母が話し終えると兄が気だるそうにしながらも話し始める。


「はぁ〜、とりあえず朝起きて大学に行ってきた多分7:50分ぐらいに出てる。それで、今日は大学の方でイベントの準備とかで早めに終わったんだ」

「それで昼過ぎぐらいに帰ってきた確かその時に母ちゃんが家事をしてたか?」


兄がそう言うと母もそういえばと、心当たりがあるようだ。

そして次にデブが話し始める。


「起きて、飯食って、寝た」

「プリン美味しかったぞ」


と、デブも身の潔白をした。


そして最後に私が話し始める。


「私もお兄ちゃんと同じ7:50分に出てそっから16:30まで学校に居た、そして17:10に帰ってきて冷蔵庫の中身を確認した。そして事件が発覚した」


これでアリバイ証明はとりあえず終わったが全員が出来てしまう事に気づき頭を抱える。


(誰が犯人なの?お父さんは私が出てから10分も余裕がある、プリンを食べるのには充分な時間がある。しかし、一番怪しいとなると母になる。最も犯行を犯しやすく、最もアリバイに透明性が無い。しかしそうなると兄も怪しい、母が家事をしている間を縫ってプリンを食べる。これも実にあり得る事だ。デブは論外だと考えた場合誰が)


私はそこまで考えて、ある結論に辿り着く。それは考えられない程に悍ましく、家族仲を引き裂いてしまう程に強烈な一太刀。

それでも、私は気づいてしまった事を言う。私は何より、真実を追い求めるのだから。


「犯人が分かったわ」


私がそう言うと家族全員が目を見開き、次の私の言葉に耳を傾ける。


「まず、犯人はプリンを食べた。これは間違いない。そして何かしらで隠蔽しようとした。だって普通隠蔽する筈よ、こんな大罪。しかし、どこにもそんな痕跡は残っていない」

「そして何より、私はずっとある事に引っかかっていたの。それは、私が皿にプッチンしたプリンが無くなっている筈なのに皿すらも消えていたことよ」

「犯人だって普通皿までは食べない、デブはあり得るけど」


「美味しかった」


私がここまで推理を話し、そしてついに恐るべき真実を言う。


「ねぇ、教えて?もしかして全員が犯人って事ない?」


私がそう言うと家族全員に稲妻が落ちる。

そして3人は顔を見合わせ、信じられないような顔をした。


「私の推理は、まず父が7:50〜8:00の間にプリンを食べて急いで家から出て行った。そして、その事に気づいた母は夫の罪を隠すためにプリンを買って偽装工作をした。しかし、そこに兄がやってきて家事をしている間に食べられてしまった。そして、補充する暇もなく私が帰ってきて現状に至る」


私がここまで推理を言うと兄は立ち上がりこう反論をした。


「そ、そんなわけねぇだろ!てかそこのデブが犯人でいいだろが!さっきからプリン食ったって言ってるし!てか皿を食うな!」


そう言われたデブは非常に落ち込んでおり、非常にお労しい。


「さっきからすごい動揺してるけど、やっぱり図星?」


私が汗もダラダラだしと言うと兄は口をわなわなとさせ黙って座った。

しかしそこで父からの兄への援護射撃。


「なぁ、どこにそんな証拠がある。証拠があるんだったらいい、でもないままで相手を犯人と決めつけるのは」


と、父が言ったところで止めた。

これを待っていた。私は母の方へ顔を向けて、ある、質問をした。


「ねぇ、今日の買い物のレシート見せてもらえる?」


私がそう言うと母は震えだし。


「見せれないわ」


「いいえ、見せれる筈よ」


母が無理だと嘘を吐く前に私が否定する。

何故なら。


「あそこの店、前回会計した時のレシート見せると少し安くなるから毎回とっといてたよね」


私がそう言及すると母はついに観念し。


「はい、確かにこの二人と私がやりました」


母が白状し、父と兄は驚きの目で互いに見合わせている。続けて。


「私は、夫を大罪人にしたくない一心で!」


と言ったところで母は泣き始めてしまった。

父は罪を犯した自分を情けなく思い。

兄は母の父を思う気持ちを踏み躙ってしまった行為をした事に強く反省をした。


「それで今日の買い物の際にプリンを買ったんです、それで3個を一気に買った方が安かったから其方を選んで」

「一つを貴女に、そして残った二つをデブにあげたの」


そこでデブの発言に繋がった。


「だからか!」


と、兄は驚き。そして自分はそんなデブに罪を押し付けようとした自分の浅はかさに気づいた。


「でも、お兄ちゃんが私のを食べちゃった。そうでしょ?」


私が確認のために聞くと母は頷いた。


私達家族の間に不穏な風が流れた。

確かに私の家族は大罪を犯したかもしれない、しかしそれでもこの仕打ちはあまりにも酷い。

私も大粒の涙を流した時、デブがこう言った。


「いや、スーパー行って買ってこいよ」


「「「「あっ」」」」


そりゃそうである。確かに自分の物が食べられる、それは当人にとってはとてつもない屈辱である。

しかしだ、結局のところそれを当人が許せるかではないのか?

今回の件だって私が犯人を探し当てるのではなく、しょうがないと割り切って買いに行けば良かっただけであった。

それを正義と言う名の自己満足で正当化して家族の中を引き裂く寸前にまで持っていった。

私はそれに気づくと涙が溢れ出してきた。


「うっ、うぅ」


私は自分で思う、屑だと。他人がやってしまった事を許容できない駄目な奴だと。いっそ自殺をしてしまおうか。

そう考えた時に抱きしめられていた事に気づいた。


「ごめんね、私が、私達がちゃんと言ってれば良かったのに」


母は泣いていた、しかしそれでも私を抱きしめてくれた。

父も静かに泣いていた、大きな手で私の事を抱きしめてくれた。

兄は号泣だった、いつもは気丈な兄がと驚く私に泣きながら。


「ごめんなぁ、ごめんなぁ」


と、心の底から謝っていた。

私はそんな家族の姿を見て。私達は出来た家族じゃない、間違えることもあるし悪い時もある。でもいつも優しく、笑いが有り、いつまでも続くと思えるほどに家族だった。


私はそんなダメダメだけど、大切な家族を見て少し笑って立ち上がって。

笑顔でこう言った。


「プリン、買いに行こう」

「今度は一人だけじゃない、みんなで一緒に」


私がそう言うと家族は少し笑いながら立ち上がり、財布を持って外へ出た。


「ねぇ、さっきの泣き顔やってみてよ!」


「おい!やめろって」


「ごめんなぁ、だったか?」


「父さんまで!」


「ふふふ」


「笑わないでくれよ!」


はははははは



きっとこの先もこの家族は続く、もしかしたらこれと全く同じ状況になるか日が来るかもしれない。

でも、それはきっと誰も泣かない日になる。



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その日の夜


「この中に私のアイスを食べた人がいる!」


「そして!」


「犯人は!この中にいる!」






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