12.11章 連山爆撃隊 殲滅戦

 F4Uに搭乗したヘンドリック中尉は、母艦のカウペンスを発艦してから、北東方向に上昇して、敵編隊を探していた。彼は、搭乗機が4枚プロペラのF4U-4型になって、以前のF4U-1に比べてエンジンパワーが増したおかげで、上昇力も速度も向上したことを幸運だと考えていた。まだ旧式のF4U-1に搭乗している同僚が、本土ではたくさんいるのだ。F4U-4では、時速30マイル(48km/h)は速くなっていたため、これなら天敵のサム(烈風)にも十分対抗できるはずだ。カウペンスの飛行甲板の大きさでは、ジェット機は搭載できないので、この機体が最善だと信じていた。


 空母からの指示に従って、上昇してゆくと彼が目撃したのは、四発機の編隊だった。まるで細長い葉巻のようなスマートな胴体の形状の機体は、米軍には存在しない。しかも、プロペラのない小型機が護衛している。


 想定外の状況を目撃して、中尉は直ちに母艦に報告を入れた。

「10機以上の四発爆撃機の編隊を確認。爆撃機はリタ(連山)と呼ばれる機体だと思われる。しかもジェット戦闘機が随伴しているぞ。敵編隊は大型の四発爆撃機とジェット戦闘機だ。敵編隊は高度をとって、上空から爆撃をするつもりだ。これから攻撃を行う」


 12機のF4Uが連山編隊に向けて接近を開始した。四発機の護衛戦闘機を迂回して上昇していると、上空の北東方向から8機の橘花改が突然降下してきた。太陽の方向からF4Uに接近してきたのだ。爆撃機の近くのジェット戦闘機には注意をしていたが、上空の見張りがおろそかになったことを後悔したがもう遅い。上方からの奇襲攻撃で20mm弾を受けて6機が撃墜された。ヘンドリック中尉は反射的に左方向への急旋回で回避した。


 連山とほぼ同じ高度には12機の紫電改が飛行していた。連山よりも手前で飛行していた宮野大尉は、F4Uが接近してくるのを既に発見していた。接近する米軍機に対して、紫電改よりも高い所を飛行していた橘花改が、太陽を利用して降下攻撃を仕掛けた。半数以上は撃墜されたが、それを急旋回により回避した機体が目の前に飛行してきた。見慣れたF4Uだ。


 宮野機は、空戦フラップを使いながらジェット戦闘機には不釣り合いな急旋回によりF4Uの後方へと回り込んだ。紫電改は、F4U-4よりもはるかに優速のため、たちまち距離が縮まる。宮野大尉の小隊は、後方から4機のF4Uを一撃で撃墜した。ジェット戦闘機に奇襲されたF4Uは、全く対応できずに次々と撃墜された。一撃を受けてもしぶとく墜落しなかった2機が、低空に逃げることができただけだった。


 ……


 北東方向のアルミ箔の雲に向けて飛行していたFJ-2ムスタングとFHファントムの編隊は、会敵予想地点まで飛行してきたが、敵を発見することはできなかった。


 周囲を捜索している間に母艦のヨークタウンⅡから連絡が入る。

「恐らく、そちらはおとりだ。東の方向が本命だ。四発の大型爆撃機がやってきている」


 ムーア大尉が目撃した物体を報告した。

「その通りだ。こちらには敵機は見えないぞ。但し、空中に浮遊している光る物体を発見した。薄い金属膜のようなものが空中を漂っている。」


 報告を終えると、大尉は不思議な物体のことは頭の隅に追いやった。ムーア大尉はジェット戦闘機の中隊を引き連れて、東方の編隊へと向かっていった。FJ-2ムスタングがジェット戦闘機に続いて上昇してゆく。


 ……


 すぐに、ヘンドリック中尉とムーア大尉の報告は、モントゴメリー少将に上がってきた。

「東方からの攻撃部隊は、四発機とジェット戦闘機だというのか。四発機はミッドウェー島からの爆撃機だな。ジェット戦闘機は、空母から飛んできたのではないか?」


 ハリル准将が少将の顔を見ながら答える。

「その通りです。航続距離から考えて、ジェット戦闘機は空母から飛来したはずです。日本軍は、基地航空隊と空母の戦闘機の合同部隊で攻撃してきました。今さら遅いですが、我々もオアフ島の基地航空隊と連携した攻撃をもっと考えるべきでした」


 会話が、ムーア大尉が報告してきた内容に移った。

「ところで、戦闘機パイロットが目撃した光るものはなんだ? 新兵器なのか?」


 電子技術に対する多少の知識があるレナード少佐が答える。

「恐らく、電波を反射するために金属箔をばらまいたのだと思います。風に漂っているので、軽量のアルミ箔を使っているのでしょう。我々のレーダーには、光る物体の雲が大きい電波反射として映っているはずです」


「レーダーを欺瞞したアルミ箔について、すぐに艦隊司令部に報告するのだ。こんな効果があれば、日本軍はいたるところでアルミ箔を使うかもしれないぞ」


 その会話を聞いて、両手を大きく上げたハリル准将が、今までよりも大きな声で説明を始めた。

「そういうことだったのか! 我々は、日本軍の作戦に見事にはめられました。オアフ島の北方で陸軍のレーダーが探知した大規模な未確認目標も、恐らくアルミ箔をばらまいたものです。島の多くの航空隊が、このおとりにより見事に北側に吊り上げられました。我々が基地航空隊と連携して日本艦隊を攻撃しようとしても、既にその策は封じられていたのです」


「たとえ、日本軍の策に引っかかったとしても、今はできることをやるしかないぞ。とにかく、我々の手元の戦力だけで日本の攻撃をしのいで反撃するのだ。空母で待機しているFHファントムを全部発艦させろ」


 ……


 東方に飛行してゆくとムーア大尉は遠方でF4Uが見慣れない単発のジェット戦闘機に撃墜されるのを目撃した。敵がジェット戦闘機ならば、こちらも同じジェット戦闘機だ。相手に不足はない。


 直ちに、急加速して後方に回ろうとした。12機のFHファントムと紫電改とのジェット戦闘機同士の空中戦が始まった。


 宮野大尉は、旋回戦に持ち込もうと接近してくる敵戦闘機が見慣れないジェット戦闘機だと気がついた。明らかにプロペラがない。しかも両翼の付け根が膨らんでいて、そこにジェットエンジンが装備されているようだ。一見すると流星に似た外観の見慣れぬジェット機は、紫電改の後方を目指して旋回しようとしていた。米軍ジェット機は旋回戦闘を挑んでくるだけあって、紫電改に劣らぬ旋回性能を有しているようだ。


 列機に注意を促す。

「敵のジェット戦闘機に注意しろ。翼が大きい。旋回性能が意外にいいぞ」


 マクダネル社のFHファントムは最初から艦上戦闘機として運用することを目的としており、プロペラ機並の大型主翼を採用したために、翼面荷重が200kgより小さな値となっていた。このため、ジェット戦闘機としては思いのほか小さな半径で、旋回することができた。


 しかし、旋回しても後方からなかなか距離が詰められない。翼面積が26㎡を超えるFHファントムは、旋回性能と引き換えに速度が800km/h程度となってしまった。しかも、尾部の振動問題が解決せず、それよりも40km/hほど低い速度に制限していた。そのため、紫電改の方がかなり優速だったのだ。


 宮野機を狙ったFHファントムの上方には、宮野中隊の他の機がまだ飛行していた。下方での戦闘開始を見て、紫電改が上空から迫る。後退翼の紫電改は、降下でマッハ0.73(901km/h)まで加速しても安定して飛行することができた。上方からあっという間に接近すると、一撃で5機のFHファントムを撃墜した。


 かろうじて、左に旋回して1撃目を避けたムーア大尉は列機に大声で叫んでいた。

「日本軍機の方が高速だ。急降下と急旋回で回避しろ。まっすぐ降下しても追いつかれるぞ」


 叫びながら機首を一気に下げてから、操縦桿を思い切り右に倒した。時速500マイル(805km/h)を超えたあたりで、水平尾翼の振動が始まる。しかし、命がかかっているときにそんなことは言っていられない。猛烈な振動で、舌をかみそうで話すこともできず、列機の状況も確認できない。


 宮野機は旋回降下に移った敵機のうちの1機を射程にとらえた。

「降下速度はこちらのほうが、圧倒的に速いぞ。冷静に対処すれば負けることはない」


 紫電改は、降下により遷音速に達すると、一気に迫って後方から一撃で撃墜した。


 最終的に逃げられたのは、ムーア大尉の機だけだった。無茶な機動を続けたおかげで片方のエンジンの回転数が下がって排気も黒くなっている。彼にとっては、これでゲームセットだ。


 一方、FHファントムが紫電改と戦っている間に、FJ-2ムスタングは連山の編隊に接近することができた。改良されたパッカード・マーリンエンジンで、試験時に時速450マイル(724km/h)を記録したこの戦闘機は、戦闘装備でもジェットを併用して飛行する連山よりもわずかに高速だった。ロケット弾ポッドも増槽も投棄して身軽になって、じりじりと連山に追いついてゆく。


 連山の上空には、8機の橘花改が飛行していた。FJ-2を見つけて急降下を開始した。そのまま上空から一撃して7機をあっという間に葬った。降下した機体は上昇反転してきて、もう一度、降下攻撃を仕掛けてきた。プロペラ機のFJ-2編隊はあっという間に四散してしまう。


 しかし、FJ-2が時間稼ぎをしている間に、後から発艦した6機のFHファントムが上昇してきた。上空から、接近してくるジェット戦闘機を発見した橘花改が、降下攻撃を仕掛ける。それでも2機が橘花改の攻撃を潜り抜けて、連山編隊に近づくことができた。


 先頭のエドワード少佐は、まだ遠いと思ったが、爆撃開始までに残された時間は少ないと判断した。連山の尾部の機銃が反撃してくるが、13.2mmが2挺程度なので回避が可能だ。少佐は連山に向かって射撃を開始した。FHファントムは12.7mm機銃が4挺だったが、ロケット弾を翼下に装備していた。2機のファントムが合計36発の2.5インチ(63.5mm)ロケット弾を銃撃と同時に発射した。


 エドワード少佐と列機の列機が編隊後尾の連山に向けて発射したロケット弾は左側に命中した。主翼付け根と左側エンジンで2回爆発が発生すると、激しく炎が噴き出した。連山は、がくりと左翼を傾けて、急激に落下してゆく。その時、空戦から抜け出した宮野隊の紫電改が後方から迫ってきた。FHファントムの後方から20mm弾の射撃を浴びせかける。橘花改も後方から迫ってきた。エドワード少佐の小隊は、3倍の機数のジェット戦闘機に攻撃されて、それから長くは飛行することができなかった。


 連山隊は後方の1機がやられたのはわかっていたが、高速で飛行する以外は戦闘機に任せるしかない。飛行してゆく前方で、米艦隊が撃ち上げる高射砲弾の炸裂が始まる。

 嘉村大佐がすかさず命令する。

「近接信管と電探に対する電波妨害を放射開始」


 野村大尉が嘉村大佐に報告する。

「高角砲の近接信管を欺瞞するための妨害電波を発信していますが、どうやら砲弾により周波数を変えているようです。一部の砲弾には効果があるようですが、限定的です」


「わかった、米軍も早速対抗策を講じてきたということだな。続けて攪乱紙を散布しろ」


 連山は翼下面に装備した噴進弾を発射した。後続の機体も、一斉に発射する。

 投下された噴進弾は後部の推進剤で前方にしばらく飛行してから、パンパンと花火のように爆発すると内容物を空中に散布した。アルミを蒸着した多量の薄紙の雲が、さらに増えていった。

 連山の編隊は、その雲を乗り越えるようにわずかに上昇してゆく。


 ……


 第30.3任務部隊は、2隻の空母を中心として輪形陣による防御隊形を採用していた。大型空母のヨークタウンⅡの周囲には、右舷側に重巡ヒューストン、左舷側に軽巡のデンバー、前方に重巡チェスターが航行していた。巡洋艦の間を埋めるように5隻の駆逐艦を配備している。同様に小型空母のカウペンスの輪形陣は、右舷側に重巡オーガスタ、左舷側に軽巡サンタフェを配置して、その間を駆逐艦が並走していた。


 輪形陣の各艦は、対空射撃のためにレーダーによる管制を行っていた。連山からの妨害電波は、事前に想定していたので、レーダーの周波数切り替えにより射撃を続けた。Mk.4レーダーに代わって、更改が進みつつあったMk.12レーダーは周波数も大きく違って、出力も増強されていた。そのため、新型レーダーを搭載していた艦は、妨害の影響はほとんど受けなかった。しかし散布されたアルミの攪乱紙が正確な照準を妨げた。電波反射の大きなおとりの雲に照準が狂わされるのだ。


 すかさずハリル准将が命令する。

「しまった。レナード少佐の意見を聞いた時に気づくべきだった。アルミ箔で射撃管制を妨害している。恐らくVTヒューズも偽の電波反射で誤動作するぞ。全艦に通達、光学照準に切り替えろ。近接信管も時限信管に切り替えろ。大至急だ」


 この時、艦隊の対空防衛の主力となっていたのは、クリーブランド級の軽巡洋艦に加えて、昨年から続々と竣工していたリバモア級、もしくはフレッチャー級の駆逐艦だ。これらの艦は5門の38口径5インチ(12.7cm)両用砲を備えて、新型のレーダーを装備している。空母を取り囲んで航行する駆逐艦が、猛烈に高射砲弾を打ち上げていた。10隻の駆逐艦と巡洋艦、空母自身の砲を合わせて60門余りが毎分15発を発射すると、毎分900発の砲弾を打ち上げることになる。しかも空母が2隻なので、それが2倍になる。


 近接信管は連山の欺瞞電波の周波数に約3割が一致したが、それ以外は早期爆発せず正常に動作した。しかし、アルミの攪乱紙の中に突っ込んだ一部の砲弾は、それを航空機からの反射と間違えて爆発して連山には届かない。しかし、安全に飛行していたのもわずかの時間だった。すぐに連山隊の周囲で高射砲弾が爆発するようになった。信管を時限信管に切り替えたのだ。


 爆撃コースに入った連山は1機が高角砲弾の命中を受けて空中で爆散した。さらに1機が煙を噴き出して脱落してゆく。離陸した12機の連山は、この時点で9機に減少していた。


 9機が上空からそれぞれ2発の赤外線誘導弾を投下した。連山の搭載用に特別に開発された200番誘導弾は、総重量が約2トンで、400kgの推進剤により自由落下爆弾よりも高速に加速した。1.5トンの弾頭は、被帽付き頭部を分厚い合金鋼とすることにより、8インチ(203mm)程度の装甲板を確実に貫通することができた。被帽と合金鋼の頭部の間には、赤外線誘導部が設けられていた。重量の増加を弾頭内部にも配分した結果、炸薬量を700kgまで増やして爆発の威力で大型艦の内部の破壊と同時に、船殻を破壊することを期待していた。


 ヨークタウンⅡを狙った5機の連山が投下した10発の誘導弾のうちの7発が赤外線をとらえて、空母に向かった。そのうちの3発は右舷外側にそれて至近弾となった。1発は空母の右舷側で対空砲を激しく撃ちながら航行中だった重巡ヒューストンの排気煙の赤外線をとらえて命中した。最終的に1発の誘導弾が空母の艦橋の直後に命中して、残り2発が船体後部の飛行甲板に命中した。


 2トン誘導弾の直撃を受けたヒューストンは、その場で船体が折れ曲がるほどの大きな破孔が上部に開いてすぐに沈み始めた。


 ヨークタウンⅡの船体後部の命中弾は、2.5インチ(64mm)の格納庫下の装甲を貫通して、下甲板の1.5インチ(38mm)装甲も簡単に破って艦の機関部まで達した。2発の大型弾の爆発が全機関を破壊するとともに、後部飛行甲板を火山のように盛り上げて、激しく爆炎を吹き上げた。機関室の3重底の船底も巨大な爆圧に耐えられずに亀裂が発生する。艦橋後部に命中した爆弾は、一瞬で艦橋全体を消滅させた。さらに右舷側船体に大きな破孔を開けた。右舷側の至近弾も水中爆発により、右舷に亀裂を発生させた。


 空からの一撃で、大型空母は停止して右舷に横転し始めた。ほとんど轟沈に近い状態となって短時間で大型艦が波間に沈んでいった。


 インディペンデンス級の空母カウペンスに向けて爆弾を投下したのは残りの4機の連山だった。船体が小型の空母に向けた8発の赤外線誘導弾は、わずかに3発が直径の小さな4本煙突の赤外線をとらえた。1発だけが船体後部に命中して、2発が右舷の煙突の右側に至近弾となって落下した。


 まともな装甲板を持たないカウペンスの後部甲板に命中した誘導弾は、甲板を簡単に貫通してから、水平隔壁を次々と破って船底のさらに下の海中で爆発した。爆発で生じた強力な水圧と発生したガスの圧力が船体を一気に下から持ち上げた。細長い船体はへの字型に一度持ち上げられ、次に爆圧によりクレータ状にへこんだ海面に落下していった。船底が激しく海面に衝突すると、今度は逆への字に折れ曲がった。繰り返し強い力がかかることにより、主船体を支えていたキールの破断が発生した。カウペンスは、船体切断の状態となり、艦首と艦尾が別々になって沈んでいった。


 ……


 第30.3任務部隊は、一矢を報いることもなく、全空母が一撃で消滅してしまった。短時間で沈んでしまったために、マケイン長官への報告も遅延した。重巡オーガスタが太平洋艦隊司令部に、混乱した戦闘状況を送ってきたのは30分後だった。マクモリス少将が報告を持ってきた。

「モントゴメリーの艦隊が四発爆撃機の攻撃を受けました。あっという間にヨークタウンⅡとカウペンス、それにヒューストンが撃沈されています。どうやら大型の新型誘導弾が使われたようです」


 マケイン長官は目を見開いて、しばらく押し黙っていたが、やがて我を取り戻した。

「新型誘導弾はどのような状況で使われたのか? 状況と爆弾の威力を分析してくれ」


「4,000ポンド(1814kg)を超える超重量級の爆弾は、誘導弾だったようです。誘導法は電波か赤外線だと思います。ロケット推進の推進剤の噴煙が目撃されています。今までの日本海軍の爆弾と同様に、ロケットにより音速近くに加速した大型爆弾が、装甲板を貫通して爆発したのだと思います。3発がヨークタウンⅡに命中したとのことですので、それが船底で爆発してはエセックス級も耐えられません」


「敵の大型誘導弾に注意するように全艦隊に通知を出してくれ。避けても追いかけてくる誘導弾ならば、爆弾を落とされたら終わりになるぞ」


「なお、モントゴメリーが攻撃を受ける直前に発艦させた攻撃隊は、現在も飛行中です。カウアイ島北西を航行中の敵機動部隊を目指しています。戦果報告を待ちましょう」


 レイトン少佐が別のメモを出した。

「空母が沈む直前に送られてきた第30.3任務部隊の参謀のレナード少佐からの報告です。日本軍はレーダーを欺瞞するために、アルミ箔を散布しているとのことです。アルミ箔を利用して、レーダーに映るおとりを作り出したり、電波反射で近接信管を誤動作させたりしているとのことです。加えてオアフ島北側に陸軍が探知した目標も偽物のおとりではないかと言っています」


 長官の表情が固まって、今まで以上に大きく目を見開いた。

「我々は、アルミ箔を使った日本軍の欺瞞作戦に、見事に引っかかっておびき出させたというのか? 我々の判断は間違っていたということなのか?」


 マクモリス少将が顔をしかめて首を縦に振りながら、話を続けた。

「過去のことを言っても何も戻ってきません。北の目標は確実に偽の目標だとは証明されていないので、北方に誘引された戦闘機群には、偽物か本物かを確認させる必要があります。それらの機体が戻って来るまでには、まだ時間がかかります。加えて、戻った機体には燃料やオイルの補給が必要です。それが終わって初めて我々の艦隊との共同作戦が可能となります。当面は手持ちの兵力で日本軍と戦ってゆくしかありません」


 横で聞いていたロシュフォート中佐が発言する。

「通信分野の技術者から、アルミ箔により電波を反射させるとレーダーを無力化できると聞いたことがあります。英国では今も、ドイツ軍に対して使用するための研究をしているはずです。アルミ箔による欺瞞は信憑性がきわめて高いと判断します」


「何か対策はないのか?」


「レーダーの波長を大きく変えれば、影響を少なくできるかもしれませんが、根本的な対策にはならないでしょう。アルミ箔の製造は我が国でも行っていますので、同じようなものなら我々にも作ることができると思います」


「アルミ箔ならば、私も何度も見たことがあるぞ。確かタバコや葉巻、チョコレートの包装にも使われているだろう。オアフ島にアルミ箔の備蓄はあるのか? あるいは真珠湾のわが軍の工廠設備で作れないのか? 大至急調べてくれ。可能であれば、すぐにも我々も使うべきだ。次回は、我々が欺瞞する番だ」


 会話を聞いていた、周りの士官が慌ててかけていった。

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