9.2章 十六試艦上戦闘機の開発
十四試局戦の開発が開始されてしばらく後に、海軍は零戦の後継機となる次期艦上戦闘機の検討を開始した。零戦並みの空戦性能を確保したうえで、どこまで速度と上昇力を向上できるか、それが大きな課題となった。昭和15年11月になると次期艦戦について、航空本部が主催する三菱と空技廠の技師が参加する検討会が開始された。空技廠の参加者として私にもお呼びがかかる。私以外にも飛行機部の山名少佐や三木大尉が出席していた。三菱側は海軍戦闘機担当の堀越技師と曾根技師だ。
今日の会議は航空本部の技術部長が主催だった。大きなテーブルの真ん中に、多田技術部長が座っている。右横は私にはおなじみの航空本部の戦闘機担当の巖谷少佐がニコニコ顔で私に向かって笑っている。反対の左側にはもう一人の見知らぬ少佐が座っていた。
さっそく、多田少将が会議の主旨を説明した。
「我々は零戦という欧米に引けを取らない優秀な艦戦を実用化した。しかし、近い将来、欧米はわが方を上回る機体を必ず登場させてくるであろう。それを考えると、将来の他国戦闘機を上回る機体を開発しなければならない。次期艦戦の要求条件は、もちろん世界最高水準が目標となる。本日は非公式の意見交換の場であるので、いかなる機体を開発すべきか、諸君からざっくばらんな意見を伺いたい」
真っ先に、巖谷少佐が自分の考えを述べ始めた。
「我々が開発中の十四試局地戦闘機は飛行試験の結果、優秀な速度と上昇力を有する戦闘機となることが確実になってきた。速度性能が十四試局戦と同程度であれば、これから欧米で登場する艦上戦闘機におくれをとることはないと想定できる。加えて空戦性能が零戦並みであれば、次期艦戦に要求される条件を充分に満たしているものと思う。これが実現できれば怖いものはないだろう。三菱さんの意見は何かありますか?」
堀越技師が答える。
「十四試局戦と同じ発動機を利用すれば、当然、速度性能も十四試局戦と同程度が可能となると思われます。但し、空戦性能の確保のためには、十四試局戦よりも翼面積を大きくする必要があります。翼面積を大きくすれば、翼の抵抗が増加するので速度性能は低下します。しかも翼を大きくすると機体の重量も増すので、他の性能にも悪影響があります。つまり、艦戦として必要となる翼面積がどの程度必要なのかを検討すれば、性能はおのずと決まってくることになります。極論すれば、360ノット試験機のように小さな翼にすれば十四試局戦をも上回る速度を達成することも可能です」
360ノット試験機の話題が出たので、みんなが私の方を見ている。三木大尉が私の脇腹をつついてくる。仕方ないので、自分の考えを述べることにする。
「私が考えている次期艦戦は、十四試局戦から発動機、胴体と尾翼をできる限り流用します。十四試局戦の胴体は空力的にかなり良い設計なので、わざわざ時間をかけて設計しなおす必要はないと考えます。一方、主翼は堀越技師の言う通り、艦戦として必要な面積を有する大きな翼を設計しなおす必要があります。但し、あまり大きくすれば空気抵抗が過大になるので、空戦性能をフラップにより補う前提で零戦よりも若干大きいくらいの主翼でよいのではないでしょうか。設計する範囲を絞り込むことにより、設計範囲を減らして短期で艦戦が実現可能という効果もあります」
史実の烈風の様に開発にもたついて、ぐずぐずしたらこの後、零戦を何年も使い続けることになりますよと心の中で思っている。
左側の少佐が発言する。
「私は航空本部戦闘機担当の永盛といいます。私も速度が重要であることに異論はない。しかし、私のところには、前線の部隊から零戦と同程度の空戦性能は絶対的に必要だとの意見が来ている。翼面荷重で考えれば、零戦が全備で125キロ程度なので、次期艦戦でも130キロ以下が強い要求条件である。現状入手可能な発動機としては、2,200馬力を超えるエンジンはないので、当面の間は十四試局戦と同等のエンジンで決まりだろう」
堀越技師が少し考えこんでから、答える。
「翼面荷重を130キロにすべしと指定されれば、それだけで翼の大きさが決まってしまいます。これは、2,000馬力以上の戦闘機としては、かなり大きな主翼になることを意味します。それを前提とすると、十四試局戦に比べて30ノット程度はすぐに速度が低下してしまいますよ。私としては、150キロから170キロ程度の翼面荷重とすれば、速度性能も確保して空戦性能もある程度実現できると考えますが、いかがですか?」
再び永盛少佐が答える。
「航空本部の戦闘機担当としては、局地戦闘機ではないのだから、零戦と同じレベルの空戦性能は確保して欲しいというのが強い要求条件である。主翼の大きさを拡大できないというのであれば、翼面荷重が130キロ程度の機体と同程度の運動性能となるように、それを補う対策を考えていただきたい」
今度は私が三木大尉の横腹をつつく。三木大尉が発言する。
「先ほど、鈴木大尉が言及しましたが、ファウラー式のフラップを空戦時にも張り出すことにより、その時に限って翼面荷重を低下させることが可能です。私は、翼面積を大きくする案には反対です。九六式艦戦と零戦の格闘戦時のように、水平面の旋回は翼面荷重の小さな機体が有利になりますが、垂直面での機動であれば翼面荷重が大きくても、エンジンの馬力が大きい上昇性能の良い機体が優位に立って空戦ができます。それに加えて空戦フラップを適切に使いこなせば、旋回戦でも優勢に戦うことができます」
私は巖谷少佐に目配せをした。
「皆さんの意見は理解しました。三菱さんへの検討依頼になりますが、十四試局戦から艦戦として必要となる主翼などを再設計して、それ以外はできる限り既存の機体を流用する前提で、検討をお願いしたい。無論、脚の強化や着艦フックなど艦戦として必要になる部分は変更することが前提です。翼面荷重は130キロと160キロ程度の2つの場合について、基本検討をお願いしたい。今回は意見交換会だったが、次回は官民の合同検討会として開催するのでよろしくお願いします」
歴史は繰り返すということなのか? これでは、私の知っている未来のミリタリー本で散々読んできた烈風の開発話とそっくりではないか。軽荷重案にすれば、史実の烈風の失敗と同じ結果になりそうだ。
会議が終わってから、堀越技師のところに三木大尉と挨拶に行った。
「堀越さん、今の世界情勢から考えると、明日にでも何かが起こってもおかしくありません。戦争が始まれば、前線の航空機の改善要求は必ず出てくるので、今までのようには新規開発に手が回らなくなりますよ。とにかく今のうちにできる限り開発を加速しておく必要があると思っています。翼面荷重を軽くしても、それだけで性能がかなり低下して、結局受け入れられないレベルになりますよ。それよりも空戦性能については多少妥協してもそれ以外の性能が優先だと考えています。それと堀越さん、これからとても忙しくなると思うので体に気をつけてくださいね」
堀越技師が答える。
「お気遣い、ありがとうございます。今回の艦戦は主翼をどうするかが全てですね。しかもその主翼は一度決めると簡単には変えられません。最近の海軍さんは、無理を言っても、なんとかなると思っているふしがあります。ところが航空機の性能は科学的に決まるのです。論理的に両立しない条件をごり押しても、結果として目指すものにはなりません」
次期艦戦の次の検討会が開催されたのは、1カ月ほど後のことだった。名称も官民合同研究会として、次期艦戦の要求条件を整理することを目的として開催された。しかも空技廠の飛行機部長の杉本大佐や空技廠飛行実験部員、横須賀航空隊のベテラン操縦員も新たに参加して、人数が大幅に増えている。それだけ次期艦戦に対して海軍内部の注目度が高いということなのだろう。
会議の冒頭の挨拶と、会議目的の説明が終わると、さっそく三菱からの次期艦戦に対する検討結果の説明が行われた。
翼面荷重が130キロの場合は、翼幅が14mで最大速度は330ノット(611m/h)程度と報告された。一方、翼面荷重が160キロの場合は、翼幅が12.5mで最大速度は360ノット(667km/h)程度と報告された。また、ファウラー式フラップを空戦時にも後方に張り出すことにより、旋回時には実質的な翼面荷重を20キロ程度削減したのと同じ程度の効果を得られるであろうことが説明された。
横須賀航空隊の花本少佐がまず意見を述べる。
「私は、各地の飛行隊や空母戦闘機体の勤務を経験しているので、戦闘機操縦員として意見を述べさせてもらう。三菱の2案の検討結果から、開発すべき機体を選べと言われれば、私は翼面荷重が130キロを選ぶ。高翼面荷重には速度が出ても正直不安が残る。敵機と渡り合うためには、零戦程度の空戦性能は必須であると考える」
空技廠の飛行実験部に配属されていた松本中佐がこれに同意する。
「私も130キロの案に賛成だ。速度のみを重視して旋回性能が劣る案では、戦闘機としての能力に疑問が残る。もちろん速度も旋回性能も両立すれば問題ないが、どちらを優先すべきかを聞かれれば、速度が330ノット程度なのは不満足であるが、それでも旋回性能を選ぶ」
更に、空技廠の周防少佐も、軽快な低翼面荷重の案に賛成した。
一方、軍令部から出席した井上中佐は速度重視の意見を述べた。
「これから2年後の戦闘機を考えると、敵機も350ノット(648km/h)程度を超える機体が登場すると想定される。敵機に20ノット以上劣る速度では、戦いが成立しないのではないか。速度を重視すべきと考える」
目の前の発言に既視感がある。またしてもミリタリーマニアとして、未来の雑誌で読んだ烈風開発時のやり取りと同様の展開になっているじゃないか。絶対に低翼面荷重として烈風開発の迷走が始まってもらっては困る。海外の状況をここで話しておこう。
「アメリカからの情報ですが、昨年、2,000馬力級の発動機を搭載した艦上戦闘機の試作機が水平飛行で400マイル(644km/h)の速度を超えたと言われています。ヴォート社が開発している機体と聞きましたが、ほぼ350ノット(648km/h)の艦戦がアメリカで既に開発されつつあるのです。1年後には、この戦闘機が配備されてくるでしょう。実際に登場したら、330ノットではかないませんよ。我々は、2,000馬力の艦戦開発では既に1年以上出遅れているのです。とにかく一刻も早く次期艦戦を完成させる必要がありますが、速度が劣っては意味がありません。更に2年後、3年後を考えると戦闘機の速度は370ノット(685km/h)近辺になると考えられます。我々も今よりも大幅に発動機を強化して、敵機に対抗することになりますが、主翼が14mもあってはそれも実現できません。ちなみに十四試の次の局地戦闘機の開発が今年始まると思いますが、わが軍は400ノット(741km/h)以上を目標とすることになると思います。世界はどんどん先に進んでいます。330ノットなどと言っていると周回遅れになってしまいます」
会議室がざわざわとしている。400ノットの戦闘機なんて実現可能か、などと小声で話す声が聞こえてくる。
しばらく黙っていた航空本部の巖谷少佐が、私の発言を聞いて話しだす。しきりに私の方を向いている。
「我々が戦う相手は、零戦ではなくて350ノット超の戦闘機である。それを前提とすれば、速度をまず優先すべきなのは明らかであると思う。鈴木大尉の意見にもあったが、2、3年後には、敵機は更に優速な機体を送り出してくるのも確実だ。つまり短期間で性能をどんどん向上させないと性能競争には勝てないということだ。私は、時間を優先して、早期の次期艦戦の完成を目指す必要があると考える。そのためには、翼面荷重のような細かなことは実現手段の範疇としてメーカーの開発者に任せて、我々は速度や上昇力などの性能を要求すべきと思う。我々は、九六式艦戦や零式艦戦ではその方法で開発してきたではないですか。今回もその方式でよろしいですね」
会議室は静まって、さすがに誰も巖谷少佐に反論しない。これで方向が決まったなと安堵する。
ところが軽く手を挙げて、航空本部の永盛少佐が意見を述べる。
「今の意見に異論はないのですが、もう一つ別の要求条件があります。2,000馬力となって機体が大型化すると、空母からの発艦性能が課題となります。空母から攻撃隊が発艦する場合、艦戦は飛行甲板上に並べられた編隊の最前列から最も短い距離で離艦する必要があります。改装空母での運用を考えると、25ノットで航行する空母が作り出す合成風の下で、70m程度の滑走で離艦できる必要があります。これは小さな主翼ではかなり厳しい条件となると考えます」
会議室が少しざわざわとなるが、三木大尉が答えてくれる。
「そもそも、アメリカやイギリスの空母にはカタパルトが装備されていて、なんと停泊している空母からでも離艦が可能であると聞いています。ところが我が国はそれがないので、機体の方にしわ寄せがくるわけです。まあこれは機体の設計屋としての愚痴ですが、これくらいにしておきます。先の要求に答えるならば、発艦性能の確保のためには、フラップを単純なファウラー式から、親子式の張り出しフラップとします。それでも不十分ならば、ドイツのメッサーシュミット戦闘機のように外翼部にフラップに連動して垂れ下がるスラットを設ければ、失速速度をかなり低減できます。フラップと動作させることで、主翼の空力中心が後退するならば、水平尾翼の取り付け角を変更することも考えられます。この仕掛けもドイツの戦闘機で実用化されています。いずれにしても、機構は複雑化しますが翼面荷重は高くても離艦性能を改善する方策はいくつかあります。空技廠の飛行機部もこれらの仕掛けを今まで研究していますので、三菱さんに協力ができますよ」
私も未来のオタクの記憶から、わが軍の航空母艦にカタパルトが装備されていないことが作戦の制約になったことを思い出した。確か隼鷹型空母では、海上が無風時には、空母が全速航行しても過荷重の彗星が離陸困難になると問題視されたはずだ。私も意見を言っておこう。
「これを機に艦政本部に航空母艦用のカタパルト開発を依頼しましょう。このままだと、次期艦戦に限らず、次の艦爆も艦攻も無風では発進ができないなんてことになりますよ。アメリカとイギリスは油圧式のカタパルトを空母に装備しています。まあこれから開発するならば、我々に経験のない油圧式よりも、空母上で豊富に使用可能な高圧蒸気を動力源に使えば高性能のカタパルトが実現できるように思います」
この言葉が、多田少将には気になったようだ。
「カタパルトの動力源にボイラーからの高圧蒸気を使うというのは、それほど有力な案なのかね? 蒸気でピストンを動かして機関車が走ったり、巨大な船が蒸気タービンで走るのだから航空機を動かせるだけの動力源になり得ることはわかるが」
「原理は蒸気機関車の車輪を動かすピストンと同じですよ。数十メートルに長くしたシリンダ内に高圧蒸気を流し込んで、ピストンをその長い距離を動かします。ピストンに航空機をひっかけるフックをつけておけば、蒸気圧で引っ張って加速できます」
「うむ、あとで君の考えているカタパルトの簡単な資料を作って教えてくれ。イ号潜水艦には高圧空気を利用して航空機を射出するカタパルトが備えられている。その仕組みを応用すれば、高圧空気から高圧蒸気に変えれば実現できるようにも思える。申し訳ない。話題が外れてしまったが、元に戻してください」
空技廠飛行機部長の杉本大佐がまとめた。
「皆さんからの意見も全て出てきたものだと思う。これから次期艦戦の要求を十六試艦上戦闘機の計画要求書として発出することになる。本日の議論を参考にして、性能要求を主として記載するが、翼面荷重については記載しないこととしたい。速度要求については、十四試局戦から若干下回るだろうが、大きな差はつかないだろう。空戦性能はフラップ動作により、見かけ上の翼面荷重を低減させて確保する方針とする。発艦性能については、空母の方が変わっていないのだから十二試艦戦の時と似た要求条件になると思う。更に、現状の世界の情勢を勘案すれば、一刻も早く次期艦戦を完成させることは絶対に必要だと思う。つまり十二試艦戦よりも短期で開発すべしとの条件が付くだろう。三菱さんには、厳しい言い方になるが十四試局戦で開発したもろもろの資産をうまく活用して、新規の設計部分をなるべく少なくして要求条件を満たして欲しい」
私の脇腹を三木大尉がつついている。仕方ないので最後に一言言っておこう。
「私は、先ほど言いたいことはほとんど言ってしまいました。追加するならば、アメリカ海軍は、複数社の戦闘機を採用しています。最近はブリュースター社とグラマン社の戦闘機が採用されています。次の2,000馬力はヴォート社が試作機を飛行させて先行していますが、必ずグラマンも2,000馬力の戦闘機を出してきます。どうやら、ヴォート社は速度優先の機体のようです。次のグラマンは、翼面積をある程度大きくして、速度一辺倒よりもバランスを重視した機体になると思います。つまり相手は、性能に対する味付けを少しずつ変えた艦戦を同時に開発できるのです。我々としては、そのどちらにも対抗できる戦闘機を1機種で実現する必要があります。350ノットを超える速度をまず目指して、運動性能は余剰推力により上昇してから降下攻撃する垂直面の機動で敵機に負けない機体とすべきだと思います。飛行実験部では、今後は垂直面の機動による空戦方法について研究をしてもらいたい」
堀越技師が強くうなずいている。飛行実験部の花本少佐は若干しかめっ面だ。
官民合同会議での議論の内容に従って、昭和16年3月には航空本部から十六試艦上戦闘機計画要求書が作成された。同時に開発名称をA7M1として、開発内示が三菱への1社特命で行われた。海軍の方針変更で、零戦の時とは異なり、今回は複数社に要求せず三菱一社だ。計画要求書の概要は以下の内容だった。艦戦というだけあり、艦載機としての条件が増えて十四試局戦よりも要求項目が多岐にわたっている。
・寸法:格納時に全幅11m以下、全長11m以下、全高4m以下
・発動機:昭和16年5月までに審査合格のもの
・最高速度:高度6,000mにおいて、350kt(約648.1km/h)以上
・上昇力:高度6,000mまで5分30秒以内
・航続力:過荷重において、全力30分+250kt(463.0km/h)巡航5.0時間
・離陸滑走距離:過荷重において、合成風速12 m/s時において、80m以内
・降着速度:67kt(124.1km/h)
・武装:武装:20mm機銃2挺、13.2mm機銃2挺
・空戦性能:空戦時に使用可能なフラップを装備して空戦性能を改善すること
・爆装:両翼に150kgまでの爆弾、または噴進弾を搭載
・防弾装備:操縦員の前方に防弾ガラス、操縦員の背面に防弾鋼板を装備して、7.7mm機銃弾が貫通せざること、燃料タンクは防火機能を有すること。
・無線機:九十六式空一号無線機、ク式三号帰投方位測定機
・実現時期;昭和17年6月までに審査完了のこと
堀越技師から、この要求書を見てさっそく私のところに電話があった。
「速度については、340ノット程度と考えていたのですが、要求条件が1段引き上げられました。十四試局戦と同じ発動機では艦戦の装備の分だけ速度も落ちてしまいます。それで、輝星の改良型を是非とも使いたいのですが、間に合いますよね」
「輝星の改良型はMK5BとMK5Cの2種類です。MK5Bは回転数とブーストを増加させて、2,200馬力以上を目指しています。輝星10型は、2,750回転で回っていますが、実験では2,900回転までは安定して回っていますので、もう少し向上させることは確認済みです。それよりも、補機類の見直しや材質の変更などで軽量化をしています。1割程度の重量低減はできると思います」
「MK5Cについては、2段2速過給機で高高度性能を向上させています。6,000メートルの出力は大きく改善しますが、こちらはもう少し時間がかかりそうです。それとプロペラ翅もエンジンの高馬力化に合わせて改良を進めています。低速での加速性能を考えるとなるべく大きな直径のプロペラを低い回転数で回すようにして推進効率を大きくしたいのです。機体としては、どこまで直径の大きなプロペラを許容できそうですか?」
「そうですね。艦上機なので脚は十四試局戦から変更します。脚の長さを若干延長することも勘案するとプロペラ直径は3.7メートル程度ということでしょうか。推進効率を大きくしたいのは私も同意見です。発動機の出力が離昇2,250馬力まで確保できれば性能は実現可能な範疇に入ってきますね。これで少し実現可能性が出てきました。鈴木さんのおかげで、私の仕事はずいぶん進みましたよ」
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