第28話 子供だけの限界

 国立競技場こくりつきょうぎじょうってことは、東京まで子供だけで行かなきゃいけないってこと?! そんなことできるわけないじゃないか! だって、もう僕はもう東京に住んでないし、それに、それに子供だけでいくなんて!


「リン! これっ!?」


「うん……」


「東京まで行かなきゃいけないってことだろ?!」


「うん、そうだよお兄ちゃん! もう、無理だよ。こんなの。ここまでたどり着いたのに、怪盗かいとうキューピーは目の前だっていうのに、子供だけで東京なんて、東京なんて行けるわけがないよっ! ひどいよ、ひどいよ怪盗キューピー……ひどいよぉ〜。うっうっうっ……うぇっ……うぇ〜ん」


 いつもは強気なリンが、まるで小さな子供みたいに泣き出してしまった。いや、小さな子供みたいじゃない、リンはまだ小学二年生で、まだ、小さな子供なんだ……。でも、だからって、僕にはどうすることもできない。だって、子供だけで東京にいくだなんて絶対に無理だ……。


「わたしたちがっ……わたしたちがっ……子供って知ってて、こんな絶対無理ぜったいむりなことを言うの? そんなんだったらひどすぎるよ。だって、ここまでみんなで頑張がんばってきたのにぃ……ひっく。ひどすぎるよぉ〜うぇ〜んえんえんえ〜ん」


 僕たちはリンが泣くのをただだまって見てることしかできない。だって、僕たちの誰も東京に行けるなんて思えないんだから。


 くそっ! せっかくここまできたのに! くそっ! くそっ! くそっ!


 くやしくて、ぎゅっと目をつぶる僕のまつ毛を押しやって、熱い涙があふれてくる。僕にはもうどうしようもできない。こんなことになるなら、初めからお父さんやお母さんに相談すればよかったんだ! 僕は溢れ出てくる涙を腕でぎゅっと力を込めてぬぐった。それでも、僕の目からは涙が出てきてしまう。


 みんなを巻き込んで、お母さんたちにうそをついて、子供だけで街中に出かけて行ったり、友達までんで、それで行き着いた先が、東京だなんて、あまりにもひどすぎるよ……。


 リンのすすり泣く声だけが聞こえるリビングで、僕たちは誰も何も言わないでしばらくそのままでいた。


 その沈黙ちんもくをリーくんが突然破とつぜんやぶる。


「あのさぁ。もしかして、それ、俺っち何とかできるかもだぜ?」


「え?」


 思わずリーくんの方を見て聞き返す僕に、リーくんは信じられないことを話し始めた。


「えっと、誰にも言わないで欲しいんだけどさ、俺っち実はCtuberシーチューバーなんだよね」


「「「「え……?」」」」


「いや、だからさ、俺っち、ゲーム実況じっきょうのCtuberやってるの。で、ちゃんと見たことはないんだけどさ、もしかして結構銀行けっこうぎんこうにお金が入ってるかも? てきな?」


「てきな? って、リーくんそんなこと僕たちに一回も言ったことなかったじゃん!」


「あ、だって、ガッくん。ほら、俺っちでもちょっと恥ずかしいし、てきな? ガッくんも見てるっぽいしさ」


「え? ちょっと待って! 僕も見てるって?! なんでわかるの?!」


「や、オンラインでボイチャしながらフラバトしてる時、俺っちのCtubeシーチューブ見てるっぽい話してたことあるから」


「うそ……。それって!? まさか!? リーリー?! いや、でも、リーリーは女の人だし……」


「ガッくん、それはボイスチェンジャーアプリ使ってんだわ。恥ずかしいじゃん、自分の声って」


 リーくんはたまに通っているフリースクールの先生にすすめられて、小学四年生の時からCtuberをやっていると僕たちに説明する。


「リーリーって、あれでしょ? 可愛かわいい女の子のキャラでフラバトがめっちゃ強くって、確か、登録者数とうろくしゃすうがこないだ50万人突破とっぱした人でしょ?!」


「お、くわしいねぇ、まさやん。そうそう、そのリーリー、それ実は俺っちなんだよね。てへ」


「「「ガチで?!」」」


「お兄ちゃんたち、全然意味ぜんぜんいみがわからない」


 ゲームを全くしないリンのために、リーくんは超人気なゲーム実況Ctuberで、とにかくすごく登録者数がいる、すごい人なんだと教える。


「登録者がいっぱいいると、どうして東京に行けるの?」


「リン、よく聞け。登録者数が多いと、広告収入こうこくしゅうにゅうがたくさん入ってきて、ちょうお金持ちなんだ」


「最初にCtubeに登録した時とかはフリースクールの先生と一緒いっしょにやってたし、リーリーになってゲーム実況配信し始めたときは俺っち、一人で設定したからさ。実は、ママっちにも内緒ないしょなんだよね。だから、俺っち、東京に行く電車代とか、多分余裕たぶんよゆうで出せるって!」


 確かに、そんなに登録者がいれば広告収入だって相当そうとうあるはず。でも、そんなリーくんの大事なお金を使って子供だけで東京になんていけない……。


「行こうぜ! 東京。行って、怪盗キューピーのやつをやっつけようぜ! だってここまできたんだぜ? ここであきらめるとか、マジなくね?」


「リーくん……」


「それにガッくんも俺っちのCtube見てるし、俺っちの広告収入はガッくんが見た分も入ってんだぜ?」


「それなら、僕もリーリーチャンネル登録してる」


「僕も」


「ほら、まさやんも、こうちゃんもだし。だからさ! こりゃいくっきゃねぇだろ? 東京まで! ま、べつにぃ? やだって言うなら、俺っちひとりで国立競技場まで行くだけだし、いいんだけどさ。でも、みんなで行きたいじゃん! ここまできたんだし!」


「リーくん……」


 僕はみんなの顔をみた。こうちゃんは、リーくんの言葉に「うんうん」うなずいている。まさやんは、ちょっと不安そうな顔をしてるけど、「うん」と僕の顔を見て小さく頷いた。リンは……、おどろいた顔をして僕の方を見ている。


「リン、どうする?」


「お兄ちゃん、お兄ちゃんが決めて」


 僕はもう一度、みんなの顔を見渡みわたした。リーくんはもう「絶対行く」が決定してる顔をしてる。こうちゃんも、まさやんも、僕の目を見て「うん」とまた頷いた。


 僕は……。

 そうだ、僕もここまできて、引き下がることなんて、できないよ!


「よし! 行こう! 東京国立競技場に! みんなで! そして怪盗キューピーをやっつけて、お父さんのシステムを守るんだ!」


 僕たちは誰からともなくになって、その真ん中に手を出して手を重ねた。みんなのエネルギーがビシビシ伝わって、重ねている手が熱い!


「ようし! 待ってろよ! 怪盗キューピー! みんなで東京に行くぞ! セーノ!」


「「「「「ガッチーズ!」」」」」



 僕たちは明日、子供だけで東京の国立競技場に向かい、そして必ず怪盗キューピーに打ち勝って見せる!


 



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