第14話 リンの悩み

 全然起きないリーくんをなんとかたたき起こし、リンの部屋に集合した僕たちは、早速さっそく地図に赤くマークされた場所への最短さいたんルートを探した。地図につけた赤い印は全部で十箇所じゅっかしょ。その中でちゃん名前がついている場所にマークされた印は三箇所さんかしょだった。


「ガチで眠いって。マジで頭働あたまはたらかねぇって」


 なんてぶつくさ言いながらもリーくんはスマホの地図アプリをさわって調べ、それをリンが探偵手帳たんていてちょうに書き写して僕たちの今日の行き先と、その順番が決定した。


「まずは小柴山こしばやま、それから一番遠い海原展望公園うなばらてんぼうこうえん、その次が県立本多図書館けんりつほんだとしょかんで、最後が知恵神社ちえじんじゃだね! そして小山駅こやまえきに向かって電車で帰ってくる!」


 リンが探偵手帳を見ながら僕たちにうれしそうに話し、僕たちはみんなでまたになって手を重ねた。リーくんは手を重ねながら大きなあくびをしてるけど、だいぶ目が覚めてきたようで、あくびの終わった後の顔はいつものリーくんになっていた。


「絶対に怪盗かいとうキューピーを見つけ出そうね! お兄ちゃん達! セーノ!」


 リンのけ声に合わせ、僕たちは手を思いっきり天井てんじょうに上げながら気合きあいをいれた!


「「「「「ガッチーズ!」」」」」


 僕たちは朝ごはんを簡単に食べ、ママーズ達がにぎってくれたおにぎりと冷たい麦茶が入った水筒をそれぞれのカバンにめて、こうちゃんのママに小柴山まで送ってもらった。





 小柴山の駐車場ちゅうしゃじょうに降ろしてもらった僕たちは、こうちゃんのお母さんの車の姿が完全に見えなくなるまで駐車場に立っているバス停のかげかくれている。


 それにしても朝なのにセミの声もうるさいし、めっちゃ暑い!


「もう見えなくなったんじゃね?」


「うん」


「リン、そろそろ大丈夫かも?」


「だね、早速最初さっそくさいしょの目的地に移動いどうしよ!」


 僕の家から小柴山までは車で三十分以上はかかってしまった。バス停の横に建っている時計は朝の九時を指している。海原展望公園へバスで行くのは一度小山駅まで行って乗り換えをしなくてはいけないけど、バスの時刻表じこくひょう通りならもうすぐ小山駅行きのバスが来るはずだ。


「でもガチでリンリンはすごいよな。ママーズ達にちゃんとお小遣こずかいもらっておくんだから」


「へへへ。だって、何回もバスに乗るならお金がいるもんね!」


「僕、お母さんに二千円ももらっちゃった!」


「うん」


「リン、これ残ったらお母さんに返さなくっていい系だよな?」


多分たぶんね?」


 小柴山に登るだけなら帰りのバス代と電車代があればいいところを、リンはお母さんたちにうまく話をつけてくれて、僕たちはそれぞれ二千円ずつお小遣いをもらっていた。なんでも、小柴山の下にある歴史博物館れきしはくぶつかんに行きたいってうそをついたらしい。


 全く、頭のキレる妹だ! さすが妹!


「絶対お金あまるから、後でコンビニでアイス食おうぜ!」


 リーくんが嬉しそうにそう言った後ろで、小山駅行きのバスがバスていに入ってくるのが見えた。僕たちは一番後ろの席に、背中に背負しょっていたリュックを胸にかかえてすわった。リンは一番おく窓際まどぎわでそのとなりが僕、その隣がまさやんで、こうちゃん、リーくんと横に並ぶ。


「ひょー、超涼ちょうすずしくね? 俺っち窓際好きだぜ!」


「で、リン、まずは海原展望公園についてなにするんだ?」


「わかんないの……」


「は?」


「だから、それはまだわかんないんだってば!」


「「「「ガチで?」」」」


「もう、こうちゃんまでガチでとか言わないでよ! だって、朝みんなで話した時には行き先見つけるだけでタイムオーバーだったじゃん!」


「うん、そうだけど。て、え? じゃあ、海原展望公園に行ってなにするかがわかんないのに、行くわけ?!」


「そうだよ! だって地図に赤い印が付いてた場所なんだし……。そこしかヒントないじゃん…………」


 窓際まどぎわの僕のとなりでだんだん声を弱める僕の妹が、自信なさげに「ごめんなさい」とつぶやき下を向く。リンのそんな姿にちょっとおどろいた僕がみんなの方をり向くと、みんなも心配そうにリンの方を見ている。


 そうだよな、しっかりしてるっていってもまだ小学二年生。なんでもかんでもリンにおまかせじゃ僕たち六年男子、ダメだよな!


 みんなにアイコンタクトで「僕にまかせろ!」とメッセージを送り、僕はリンの方に向き直った。こういう時こそお兄ちゃんとしてしっかりしなくては!


「ほら、リン、箱からはがした紙だせよ。みんなで何かヒントがないか見ながら行こうぜ!」


「え? いいの?」


「もちろんだよ! リンちゃん!」


「うん!」


「そうだぜリンリン! 俺たちみんなでガッチーズなんだから!」


「なにを探せばいいのか、みんなで見つけようぜ! リン!」


「うん!」


 リンが嬉しそうに返事をして、急いでリュックの中からクリアファイルに大事にはさんである紙を取り出して僕にわたす。


「地図の方と、QRコードになった方と、両方持ってきたの。あんなにやっと見つけたのが今日行く行き先だけだったから、どうしたらいいんだろうって、なやんでたんだ。だから、お兄ちゃんたち! ありがとう!」


 謎解なぞと脱出だっしゅつゲームが大好きで、昨日からずっと僕たちを引っ張ってくれていたリンでも悩んでたんだと知り、僕はがぜんやる気がいてきた!


 リンひとりに背負せおわせたりなんかしない!

 みんなで怪盗かいとうキューピーに辿たどくんだ!


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