第66話 口論とやりとり
「どうもすみませんでした」
俺は侑李にボコボコに殴られた後、土下座で甘栗さんに謝罪をした。
だが、甘栗さんは不機嫌な顔のままだ。
「甘栗さん。殴り足りないなら私が殴りましょうか? それとも甘栗さんの手で制裁しますか?」
侑李は余計なことを口走った。やめろ。それ以上、俺を痛めつけないでくれ。
「もういいです。それより白石さん。私はあなたに対して怒っています」
「わ、私ですか?」
「私があんなことやこんなことをされていてあなたはずっと見ていましたよね? それにこんなことがあるって事前に知っていたんじゃないですか? それなのに私が崩壊するまで見守っていた。私の味方でいるようで実は佐伯くん側であったって言えるんじゃないんですか?」
「そ、それは……」
正論を突きつけられた侑李は言葉に詰まる。
「ほら。言い返せない。結局、あなたは弱い立場の者を庇って自分は良い人であるって自分に酔っているだけよ」
切り捨てるように甘栗さんは言い放った。
「そ、そんな言い方しなくてもいいじゃないですか。確かに私も最初は高嗣側にいましたけど、二人が絶対に大丈夫って言うから私は見守っていたんです。だけどやりすぎだなって思った時には止めようにも止められない状況になっただけです」
「あなたも私が遊ばれているのを見て楽しんでいたんじゃないの?」
「ち、違います」
「じゃ、違うと思ったならすぐに動かなかったのはどうして?」
「それは止めるタイミングがわからなくなっちゃって」
「タイミングってそれは単なる言い訳でしょ?」
「だから違うって」
俺を間に挟んで甘栗さんと侑李は衝突した。
意外な方向へ転んでしまい、俺はどうしていいか分からずにいた。
女同士の口論ってこんなにもきついものなのかと初めて知った。
しかもどっちの味方に付けばいいのか微妙なところだ。
侑李は幼馴染だし、甘栗さんはこれまで助けてくれた大事な人だ。
どっちの味方になることは出来ない。
出来るならお互い仲良くしてもらえることを望みたい。
「ど、どうしよう。百合先輩」
百合先輩に助けを求めようと視線を向けるが、部屋から百合先輩の姿が消えていた。
こんな時に限ってどこに行ってしまったのだろうか。
いや、こんな時だからあえて席を外したのかもしれない。
俺がどうにかこの場を収めるしかない。
「侑李。これを着ろ!」
俺は先ほどまで甘栗さんが着ていたメイド服を差し出した。
「は? 何よ。急に」
「お前も甘栗さんと同じ目に遭うんだ。それならおあいこだろ」
「いや、意味が分からないんだけど」
「甘栗さん。それで許してくれませんか? 侑李に甘栗さんと同じことをさせて見せしめにしますので」
「佐伯くん。あなた正気?」
「俺はいつでも大真面目です。さぁ、侑李。服を脱げ。そしてこれを着るんだ」
俺は無理やり侑李の服を脱がせようとした。
「辞めろ。触るな。話の流れがおかしいのよ。何で私がそんなものに着替えなきゃならないのよ」
「甘栗さんに許してもらうためだ。分かるだろ?」
「何一つ分からないわよ。大体、こんなことをしても許してくれる保証もないじゃないのよ!」
「許す!」
俺と侑李の攻防戦の最中、甘栗さんは発した。
「「え?」」と俺と侑李は動きを止める。
「白石さん。私と同じ目に遭うなら許します」
「いや、でも。そんな急に」
「何も迷うことないだろ。他人に見られるわけじゃないんだ。そんなくだらないプライドを捨ててさっさと着替えろよ。侑李!」
「何であんたがそんな偉そうなの? 意味わかんないんだけど」
「すべこべ言わずにさっさと着替えろ!」
「うるさい。着替えるわよ。着替えればいいんでしょ」
そう言って侑李は部屋から出る。
ここで着替えればいいのに恥ずかしいのだろうか。
結果的に見られることは違わないのに。
そして、侑李はメイド服に着替えた姿で部屋に戻ってきた。
「どう? これで満足でしょ?」
今まで見たことがない侑李がそこにいた。
なんちゃってメイドだが、新鮮味があってそれはそれでいい。
「白石さん。なかなか似合っているわよ。でも、着替えて終わりで許されるなんて思っていないよね?」
「まだ何かあるんですか?」
「当然です。私の怒りを収めるにはこれからが肝心なんですから」
この後、何をされるのか。
侑李は絶望の淵に立たされていた。
俺はただ、その光景を見守ることしかできなかった。
というよりももっとやれと面白いことが起こる事実にワクワクする自分がいたのだ。
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