第2話 デートの練習
カースト最上位の
「遅い! 十分遅刻」
「遅いって待ち合わせの時間ピッタリだけど?」
「普通は十分前に集合しているものなの。本番ではこれだけで嫌われる要因なんだよ」
「え、そうなの?」
「全く。これだから童貞」
侑李は何かあるとすぐに俺をカースト最下位とか童貞とか何かと傷付くことを口走る。
言われてショックを受けるが何回も言われると自然と気にならなくなる自分がいた。
「さて。デートって何をすればいいんだ」
「馬鹿ね。こういうのは男がリードするものなのよ」
「え? 俺が決めなきゃいけないの?」
「当たり前でしょ」
「分かった。じゃ、行くか」
「ちょっと。どこ行くか決めているの?」
「まぁ、行き当たりばったりでいいんじゃね?」
そう言って俺は自分の行きたい場所へ向かった。
本屋で最新刊の漫画を物色したり、足りない文房具を買いに行き、ゲームセンターに足を運ぶ。
「ちょっと」
「どうした?」
「これがどこのデートなのよ」
「え? 二人でブラブラ歩いていたらデートじゃないの?」
「あのね、デートっていうのは二人で楽しむことを言うのよ。どう見てもこれはあんたしか楽しんでいないじゃないのよ」
「楽しもうとしないのが悪いんだよ。お前もちゃんと楽しめよ」
「私、漫画もゲームもやらないし」
「まぁ、そう言わずに一緒に対戦しようよ」
俺は侑李と共にレースゲームを始める。
「これ、どうやって操作するのよ」
「ハンドルを適当に回せばいいんだよ。ノリだよ。ノリ」
「何でそんな曖昧なのよ」
「ホラ。始まるぞ」
「え? もう?」
唐突にレースは始まる。乗り気ではなかった侑李だが、ゲームが始まれば楽しむ様子を見せた。勝敗は勿論、俺の圧勝で終わる。
「もう一回! もう一回勝負して」
「しゃーないな」
その後、三回勝負を繰り返すが、侑李が俺に勝つことはない。
「ちっ。何で私があんたみたいな最下層の人間にここまで負けるのよ。屈辱的だわ」
「所詮ゲームだろ」
「ゲームだとしても負けることはあってはならない。ねぇ、もうひと勝負!」
「もう、飽きたよ。別のゲームをしようよ」
「あぁ、逃げるんだ。私に負けることが怖いのね」
「別に負けないし、安い挑発には乗らないよ」
俺はレースゲームを切り上げて席を立った。
モヤモヤした気持ちのまま侑李は俺の後を追う。
「何だかスッキリしないんだけど」
「俺はスッキリしたよ。デートって楽しいな」
「私は楽しくない」
「まぁ、良い練習になったよ」
「何、勝手に終わらせようとしているのよ」
俺は満足したが、侑李はそうでもない。
デートってこんなものだっけ?
だが、相手を満足させてこそデートと言うのだろう。
「なら侑李。手本を見せてくれよ。本当のデートってやつを」
「しょうがないわね。デート経験豊富の私が未経験のあんたに手取り足取り教えてあげる」
経験豊富と言いながら振られた男と男友達のような大した経験とは言えない。
まぁ、無いよりはマシの経験を見せて貰おうと俺は期待を込めた。
「で? どこに行くんだ?」
「パンケーキの美味しいお店」
「パンケーキ?」
目的の店に着くと女性客が長蛇の列を作っていた。
「ここが美味しいのよ」
「何時間待つんだよ」
結局一時間も待たされてようやく入店。
そしてメインのパンケーキは三段重ねで生クリームがてんこ盛りに盛られていた。
「何だ。この糖質の爆弾は」
「ふわふわで美味しいよ」
食感がくどい。それにふわふわが食べにくさを苛立たせる。
何より、これで千円を超えるのがありえない。三百円くらいでいいんではないかとも思える。
「さて、糖分を補給出来たことだし、次のプランにいきましょうか」
「次は何をするんだ?」
「えっと、綺麗な景色を見て愛を確かめ合うこと……なんだそれ」
「いいから言われた通りにしなさい。これを乗り越えないと真のデートとは言えないわよ。練習だと思って甘くみるんじゃない!」
「わ、分かったよ」
だが、その後に行った綺麗な景色は俺の心には刺さらなかった。
それでも彼女を作るためには必要なことだと教えられた。
こんなことをするのなら別に彼女を作らなくても良いので無いだろうかとうっすら思う。
「どう? 今日のデートは勉強になった?」
「うん。なったけど、デートって面倒くさいんだな」
爽やかな笑顔で言い放った俺を他所に侑李は言葉にならない憎悪が立ち上がったのが分かった。
「だからあんたはカースト最下位で童貞の底辺で彼女すら出来ないのよ! このバカあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
侑李の溜まりに溜まった感情が爆発した瞬間である。
練習相手の侑李に満足させてあげない結果になったが、俺にとってデートの練習はいい影響を与えたのでプラマイゼロといったところだろうか。
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