第2話『喫茶店』
カランカラン
「いらっしゃい」
白髪で髭を生やしたマスターと思わる男性から声を掛けられる。
「あの、一人なんですが、いいですか?
「もちろん宜しいですよ、お好きな席にどうぞ」
店を見渡す、奥のテーブル席には常連と思われる男性が座っている、新聞を読みながらモーニングを食べている、服装から察するにタクシーの運転手だろう。
カウンターには妙齢の女性が一人。スーツ姿で肩ほどまで伸びた髪が少し印象的だった。
僕はテーブル席に座る。タクシーの運転手と思われる男性とは、テーブルを二つほど挟んだ席だ。
ジーパンの後ろポケットに入れた、文庫本と財布を取り出し席に座る。
メニューを眺めていると、店主が水を運んできてくれた。
「ご注文はお決まりですか?」
「モーニングをお願いします、ホットコーヒーで。」
かしこまりました、と言ってカウンターの奥に入る男性。
そんなに大きくないお店だから一人で切り盛りされているのだろう。
オムレツを焼くいい匂いがしてきた。
「それにしても、落ち着く良い喫茶店だな。」
僕は地元に居た頃は実家暮らし、それでも朝は喫茶店でモーニングを食べていた。
両親が共働きで朝が早く、帰りも遅い。僕の朝は、ダイニングテーブルに置かれた、一日分の食費を受け取ることから始まる。
いつも一人で食べるご飯は味気なくて、コンビニでパンを買って食べても美味しくない。
小学生のころからそうやって過ごしていたから、食事時間は好きじゃなかった。
そんな時に出会った喫茶店のマスター、コンビニで買ったパンを食べながら登校する僕に声をかけてくれた、次の日から僕の朝食はその喫茶店のモーニングだった。
その時のお店とは似ていないけど、空気は一緒だった。
受け入れてくれている、その気持ちになれる場所だ。
「お待たせしました、モーニングです。」
厚いトーストに控えめなオムレツ、それにサラダがついてる。
読みかけの文庫本に栞を挟み「いただきます。」
美味しくて、暖かくて、ほっとする、そんな味だった。
「ごちそうさまでした。」
「お会計は600円になります。」
「とても美味しかったです。また、来ます。」
「またのご来店、お待ちしております。」
カランカラン
「この街にこんな喫茶店があったんだ、コーヒーも美味しかったな。」
また来ようと心に決め、再び歩き出す。
「あれ、ここは」
少し歩くとアパートと駅の分かれ道についた。
「これなら喫茶店までは家から5分で着くな」
少しのつもりの散歩が一時間半ほどになってしまったけど、良いお店に出会えてよかった。
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